「ねえ」
「んー?」
「ススキ、風通しのいい頂とか原っぱでしか見なくなったね」
「そうだね、もうほとんどが黄色い花に侵食されちゃった」
「たしか外来種なんだっけ?」
「そうそう。名前は……セイタカアワダチソウっていうんだっけな」
「あーあ、私、ススキが風になびくときの音、すっごい好きだったんだけどなあ」
「もう家の近くで聞けないと思うと寂しいね……」
「まあお陰でこうしてあんたとドライブできるから結果オーライなんだけどさ」
「あれまあ、そんなお世辞言ったってお昼代奢るくらいしかしませんよ~?」
「いよっ、太っ腹! 素敵! 大好きだよお財布ちゃん!」
「じゃあ私の財布と結婚する?」
「ほんの冗談ですってば、ごめんよ。私が愛してるのは千代さんただ一人です」
「ほんとに?」
「ほんとだって。あんたがなにも言わずに友人とドライブに行った日のこと忘れた?」
「……………よし、それじゃなに食べたい?」
「塩ラーメン!」
「これまたド定番な。んー、近場に一軒あったはずだから、とりあえず行きましょうぜ」
「やったー!」
▶ススキ #38
最近、外が暗くなると恐ろしい気持ちでいっぱいになる。
なにか怖い出来事があったわけではない。ただ、あたたかい布団にくるまって、あなたのそばで朝焼けを待つだけの時間が、怖くなった。
「だーかーらー、そんなに心配しなくても平気なんだってば」
「でも……」
「もーっ、私の頑丈さはあんたが一番知ってるでしょ!『でも』も『なに』もない。てか、そんなに心配されると逆に不安になるんだけど!?」
「う、それもそうだね……」
私は知っている。夜が訪れる度に魘されるあなたを見ている。私の知らないどこかで、私の知らないなにかを恐れ、逃れようともがき、時に反撃しようと声をあげるあなたを。そんなあなたの姿が脳裏から離れないの。
──そんなことを言えばきっと、あなたはもっと気丈に振る舞う。生活を共にする私にすらもその傷を隠してしまうだろう。
だからこれ以上深くは語らない。語れない。あなたを傷つけたいわけじゃないから。
なんだか胸のあたりが重たくなって、自然と背中が丸まる。ほのかな沈黙がふたりを包んだ。
「……あー、まあ、あれだ。その……」
あなたが頭を掻きながらなにかを伝えようと口を開いて、しかし気まずそうにそれを閉じた。
モゴモゴと口元だけで喋ろうとするのは、言いたいことを我慢しようとするときのあなたの癖だ。
「なあに?」
「……………心配してくれてありがとうね」
あと、言い方きつくなってゴメン。
とてもちいさな声で呟くように言うあなた。
「……ううん。私こそごめんなさい」
すっ、と小指を差し出すと、あなたもそれに小指を絡める。仲直りの証。
今夜も戦うあなたを、私は見守っているよ。あなたが助けを求めたときに誰よりも早く駆けつけられるように、誰よりも近くであなたを見守り続けよう。だから、ひとりで抱え込むのが辛くなったら、誰かに寄りかかりたくなったら、いつでも呼んでちょうだいね。ひとの怯えなんて気にしないで。
私に、あなたを守らせて。
▶脳裏 #37
しとしとと頬を濡らす柔らかな雨。
舐め取ってみると、それは妙にしょっぱかった。
▶柔らかい雨 #36
それは大きな衝撃であった。
雷に打たれたかのような衝撃が全身を駆け巡り、当時のわたしは瞬時に悟った。これこそ運命と呼ぶに相応しい出会いだ、と。
わたしたちが会うことは決して叶わない。
だけど、それでもわたしは彼を支えると決めた。彼を追いかけ続けると決めた。
「は~、今日も尊いわぁ……」
これは、わたしと最推しくんとの出会いの話。
▶一筋の光 #35
わたしね、ユメとげんじつをつなげたいの。
あなたがねむってしまうまえに。
やりかたはまだわかんない。
だけど、はやくしないとあなたがとわノねむりについてしまう。
そしたら、また、あえなくナるんでしょ?
そんなのやだよ。おはなしできてないことがたくさんあるのに……まだおわカれしたくない。
デも、みつからない。
いそがなくちゃいけないのに、かけらひとつもみあたらないの。
だからわたしはもっとあせる。あせって、さがして、からまわって、またあなたにしんぱいさせる。
だけど、どんなにこえをかけてもわたしがとまらないから、あなたはあきれたかおをしてなんにもいわなくなったね。ただ、じいっと、となりにいてくれる。
あのね、わたしね、それがすっごくうれしいの。だいすきがあふれてとまらないの。
だからわたしはもっとがんばってゆめとげんじつのつなげかたをみつける。
ほんとはこうしているひマもないくらいなんだよ。
ああ、いそがなくちゃ。
あなたとまたわらいあうために。
あなタのとなりにいられるみらいのために。
▶眠りにつく前に #34