【海へ】
私はクレーム大好きマン。
「今日も迷惑の限りを尽くすか」
私は邪悪な笑みをこらえつつ今日海辺にオープンしたカフェに入っていった。
店員が来ると私はすかさず言った。
「いつものヤツをくれ」
〜2時間後
「こちらがご注文の品です」
届けられた料理を見て私は絶句した。
どう見ても手抜きだったからだ。
店員は言った。
「右からみかんの皮、冷えた塩、ぬるい水です。ナイフとフォークでお召し上がり下さい」
私はすかさずクレームをいれた。
「なんで水がぬるいんですか?氷ぐらい入れて下さいよ」
すると店員は反論した。
「この店の飲み物は全てぬるい状態で出てきます。メニュー表にも書いていますよ」
私は即座にメニュー表を確認した。
すると確かにメニュー表の最後にミジンコレベルの大きさでそんな記載があった。
なんてことだ。これはこっちの落ち度だ。
「すみません。なんでもないです」
私が素直に謝ると、しかしそれを聞いた店員は調子に乗りはじめた。
「はー(ため息)。謝るぐらいなら最初からゴチャゴチャ言うのやめてもらえます?こっちはオープン初日で忙しいのにあなたみたいなみすぼらしいブサイクに時間を割いてる暇は無いんですよ。底辺は底辺らしくゴミでも漁って飢えをしのいだらどうですか?」
ピッキーン。
さすがの私も限界が来た。
なんだこの店は。馬鹿にしやがって。
そもそも冷えた塩ってなんだよ。冷やすなら飲み物を冷やせよ。
「ざけんなぁアアアアアアー」
私は手をテーブルに叩きつけた。
が、その反動でテーブルのフォークが胸に突き刺さり私は泡を吹いて倒れた。
異変に気づいた店員が2時間後に救急車を呼んだが、間に合わず私は息絶えた。
【私の当たり前】
「わ、なんだコレ」
私がいつものように危険運転を繰り返していると、タイヤがバーストした。
こんな時は人に頼るに限る。
火花をちらしながら職場につくと同僚に聞いた。
同僚「予備のタイヤがあるから貸してあげるよ。クギがたくさん刺さってるけど」
使えん。
仕方ないので後輩に聞いた。
後輩「え?タイヤが使えないなら新しい車を買えばいいだけですよね。ていうか、そんな状態で会社に来たんですか。バカなんですか?」
クソが。
仕方ないので課長に聞いた。
課長「そっかー。車が使えないなら仕事に来れないよね。首にしよう」
ゴミが。
仕方ないのでその辺のおっさんに聞いた。
おっさん「人のタイヤを盗めばいいだけだよね。バレなければ犯罪じゃないし」
なるほど。採用だな。
─しかしこの時の私は気づいていなかった。
新しいタイヤを買うという現実的解決法が存在していたことに。
【君と最後に会った日】
私が渋谷の駅前で日課の変人ダンスをしていると少年に声をかけられた。
「1000円貸してくれませんか?」
話を聞くと青森に行きたいが財布を落としてしまったのでお金を借りたいらしい。
可哀想に。
同情した私は快く1000円を貸した。
少年はお礼を言い駆け足で何処かに消えていった。
いいことをしたな。
私が幸せを全身で感じていると隣でことの一部始終を見ていた親友の佐伯が言った。
「お前。騙されてるよ」
「え?」
意味がわからない。
「考えてもみろ。1000円で青森に行けるか?」
「あ」
それは確かに。
「しかもこの肌寒い中、薄着だったし。断言するけどあの少年は今頃ほそくえみながらラーメンでもすすってるよ。ご愁傷さま」
なんてことだ。
真実を知った私にこみ上げてきたのは悲しみではなく燃え上がるような怒りだった。
クソガキめ。許さん。
私はこんなこともあろうかとお札につけていた発信機でガキの居場所を特定すると走って追いかけた。
〜1週間後
不眠不休で走り続けた私は青森県の某街で力尽きた。
【また明日】
「おいちぃぃぃー」
チュルチュルチュル。
私が四つん這いになって床に落ちたストローを口から出したり吸ったりしているとふいに声をかけられた。
「先輩!何してるんですか?」
後輩の田中君だ。
私はすっと立ち上がるとそれらしいことを言った。
「人はみんなこうして成長していくんだ」
しかし田中君には通じなかった。
「ちょっと何言ってるか分からないです。そもそも、そのストロー僕のですよね。納期も近いのにバカなことやってないで働いて下さい」
辛辣だ。
「ストローは洗って返そう。仕事のことは分かってるよ」
急に現実に戻されてゲッソリした私はとりあえず服を着て自分の席に戻ることにした。
連勤は60日目に突入していた。
【後悔】
今日は友達を誘ってバーベキューに来ている。
私が材料のハトを解体していると親友の佐伯が叫んだ。
「うわ!お、お、おまえ。正気か。おぇぇーーーー」
言い終わると同時に佐伯は吐いた。体は痙攣し顔は真っ青になっている。
しまった!
温室育ちの軟弱腰抜け一般人には刺激が強すぎたか。
私はとっさに嘘をついた。
「実は昨日法律が変わってハトは許可なく無制限に焼き鳥にしてよくなったんだよ。知らなかったの?」
すると佐伯の顔から一瞬で生気が戻ってきた。
「なんだそうだったのか。焦って損した。じゃあついでにこれも使ってくれ」
佐伯はカバンから大きな袋を取り出した。
「!!!」
袋にはかつてハトだったものがたくさん詰められていた。
佐伯は自慢げに言った。
「こんなこともあろうかと庭を荒らしていたハトを捕まえていたんだ」
こんなことってどんなことだよ。
「ちなみに車にあと3袋あるから」
誰だよこんなヤバイ奴を連れてきたのは(泣)
常日頃から良識のある行動を心がけている私は頭を抱えるしかなかった。