【何もいらない】
金の斧と銀の斧の話を知っているだろうか。
幼い頃から超絶仲良しの友達が例の川を見つけたらしく私は意気揚々とやってきた。
川に斧を落とすと妖精が出てきて言った。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」
よし来たぞ。ここで謙虚さをアピールして億万長者になって人生無双してやる。
私は言った。
「何もいらない」
「???」
妖精はしばらく悩んでいたが納得したように言った。
「つまりあなたは俗世に染まらずあらゆるものから自由になりたいということですね。分かりました」
「え?」
コイツ何言ってるの?
妖精は続けた。
「ではとりあえずあなたの家と財産は全て処分しておきますね」
「ええ?」
「あと家族も邪魔でしょう。海外の辺境の地に飛ばしますね」
「えええ?」
「それから毎月の給料もいりませんよね?全てユニセフに送金されるようにしておきますね」
「ええええ?」
「最後に友達は、、、失礼。友達はもともといないようですね。忘れてください」
「ええええええええええええ!」
私は全てを失った。
【届かぬ想い】
突然だが今日は嫌な予感がする。
「ボディーガードを雇うか」
私は全財産を使ってボディーガードを大量に雇った。
しばらくすると屈強な男たちが挨拶にやってきた。
「命に替えてもあなたを守ります」
これは心強い。
会社に着くと山田課長が出てきて言った。
「君は今日も遅刻だね。いい加減君には失望したよ。死んでもらう」
言い終わると課長はチェンソーを取り出し襲いかかってきた。
しかし私は余裕を崩さなかった。
なにせボディーガードがいるのだ。
ところが私が後ろを振り向くとボディーガードたちは寝転んで休んでいた。
私が叱責すると彼らは言った。
「大げさですね。課長のあれは優しさの裏返し。愛のムチですよ。そもそも会社で人を殺すはずがありません。私達には分かります」
「なるほど」
完全に納得した私は落ち着き払って席に戻った。
そして課長のチェンソーに真っ二つにされ息を引き取ったのであった。
【言葉にできない】
会社の休憩時間。
「で、これがそのスイス製の最高級時計で、職人が手作りで〜」
私は後輩の田中君に中身のない自慢話を聞かされていた。
正直どうでもいい。
「それで何か面白い機能でも付いてるの?」
早く話を切り上げようと私が適当に相づちを打つと田中君は待ってましたとばかりに続けた。
「実はこの赤いボタンを押すと核ミサイルがこの辺一帯に飛んでくる機能を付けたんですよ!急に死にたくなったら使う用らしくて、この機能の為に100億円払いました」
私は吹き出した。
「ちょ、それ絶対騙されてるやつだから」
「え?」
私は続けた。
「そんな機能あるわけないじゃん(笑)普通買ったときに気づくよね。これだからコネ入社のシティボーイは困るな。呆れて言葉にもならないよ。隙しかないというか無能がにじみ出てるというか。考える頭もないの?」
私が言い終わると田中君は無言で赤いボタンを押した。
私は優しく諭した。
「いや、それ押しても何も起こらないから。まさかまだ騙されたことに気づいてないの?ほんと頭パッパラパーだな。脳に綿でも詰まってるんじゃないの?そういえば昨日も〜」
─会社があるS市が日本から消失したのはその10分後のことだった。
【不条理】
スーパーにて。
私が日課の万引きを行っていると万引きGメンに呼び止められ、事務室に連れて行かれた。
事務室に着くと店長と思わしき人が声を荒らげて言った。
「犯罪者が!盗んだものを全て出せ」
横暴な人だ。
しかし私にも言い分がある。
「言いがかりはやめて下さい。この袋に入っている食品は家から持ってきたものです」
店長が真っ赤になって何か言おうとしたがストレッチマンが止めた。
「まぁまぁ、とりあえず監視カメラの映像を見てみましょう」
ストレッチマンがパソコンを操作すると映像が出てきた。
「え?ここはもしかして」
私の自宅だ。
映像では私が買い物袋に食品を詰めている様子が映っている。
店長が顔をしかめた。
「確かに家から持ってきたようにも見えるな」
いや、問題はそこじゃない。
「え?ちょ、これは盗撮。プライバシーの侵害です。ゆ、許されませんよ」
店長は私を無視して続けた。
「別の日の映像も見たいな」
ストレッチマンは答えた。
「少なくとも20年分はありますが、いつのがいいですか?」
私は発狂した。
「消せ消せ消せ消せ」
私は店で大暴れし、器物破損、威力業務妨害、銃刀法違反、窃盗等の罪で逮捕された。
【安らかな瞳】
今日はホワイトデー。
とはいえ、不慮の事故で入院中の私には関係のない話だ。
私が安らかな気持ちで神に感謝していると、
「ホワイトデーのプレゼント貰いに来ました」
誰かが病室に入ってきた。
後輩の高橋さんだ。
彼女は惚れやすい性格で、惚れた相手に貢がせて破産させることをライフワークとしている。
彼女に目をつけられたばかりに自己破産させられた同僚は数しれない。
私は抵抗した。
「君、事前の連絡もなしに訪ねてくるなんて失礼じゃないか。あと私は重病人なので面会謝絶中だ」
高橋さんは私の話を無視して言った。
「まさか何も用意してないんですか。ありえないですよね?」
ヤバい。何か取られる。
しかし幸いなことに私は金目のものを一切持っていない。
家族もいないし、毎月の給料はユニセフに寄付している。
わずかな貯金は先月の慰謝料と入院費で消えたし失うものなど何もないのだ。
「奪えるものなら奪ってみろ」
翌日
病院で全身干からびた男性の遺体が発見された。