【飛べない翼】
水族館のペンギンコーナーにて
「ペンギンって飛べないらしいよ」
私は友達に持ち前の高度な知識を披露していた。
「本当だよ!嘘だったら2000万あげるから。こんなのが飛べるはずないだろ」
なぜか話を信じない友達に説明しようと不用意にペンギンに近づくと、
バチーン
ペンギンに叩かれた。
「かっっはぁ、、、」
私は体を壁に強く打ち付けた。
腕の骨は完全に折れ、衝撃は内臓にまで達していた。
痛みで声も出ない。
ペンギン「人間風情が舐めるな」
「大丈夫ですか?」
様子を見にスタッフが来た。
しめたぞ
私は最後の力を振り絞って立ち上がりスタッフにペンギンの悪事を告発しようとした。
しかし
バチーン
両足も砕かれた私は失神しながら崩れ落ちた。
その後ペンギンは自家用ジェット機に乗り家に帰っていった。
一連のやり取りはペンギンに近づいた不審者が勝手に転んで大怪我をしたということで処理された。
2000万円はもちろん友達に取られた。
【一筋の光】
今日はバイトの日。
私はかれこれ10年、十円玉を磨くバイトを行っている。
作業は単純で十円玉を磨くだけ。
ただし道具は使わない。
舌で舐めて綺麗にするのだ。
両親には高度な技術を要する清掃業務だと伝えている。
「レロレロレロレロレロー」
私は床に這いつくばって十円を舐めまくる。
当然楽な仕事ではない。
病気になる者もいるし、十円を喉に詰まらせて死ぬ者もいる。
こんな過酷な環境に耐えられたのもひとえに私が十円玉を愛しているからだ。
─話は10年前に遡る
(中略)
かくして光り輝く10円玉は私の人生に喜びをもたらしてくれるのだ。
「愛があれば何でも出来るのさレロレロレロレロレレロレロレロレロ」
ところが、
「ぎゃああアアアアアアーーー」
舌に衝撃が走った。
見るとなんと5円玉が混じっていたのだ。
十円玉を愛しすぎた私の身体は他の硬貨を受け付けなくなっていた。
十円玉を裏切った私は全身から血が吹き出し即死した。
【行かないで】
今日は商談のため後輩と一緒に取引先のA社に来た。
名刺の交換も無事終わり一息着いたところでコーヒーが出てきた。
後輩はコーヒーにミルクを入れて飲んでいたが、しばらくして顔をこわばらせ、机をひっくり返した。
後輩「コーヒーは普通ブラックだろうがァァァーーーーー」
まずい。始まった。
後輩は相手の粗を見つけては徹底的に攻撃するクレーマー営業なのだ。
しかし取引先も負けていなかった。
A社部長「君たち不敬だぞ。ここは私の城だ」
そう言うとスタンガンを持った手下が周りを囲んだ。
まずい。相手を誤った。
A社部長は取引相手をリンチすることに快感を覚える変態だったのだ。
ここまでか。後輩も顔が青くなっている。
私も諦めかけていたその時、後輩はあることを思い出した。
─手土産をまだ渡していない
後輩「先輩!例の物を渡しましょう。それで解決です」
そうだった。手土産にA社部長の大好物であるカブトムシの唐揚げを持ってきていたのだ。
「これをお納め下さい」
私は素早く土下座して手土産を差し出した。
A社部長「いい心がけだ、ん?」
しかし部長が箱を開けると中は空っぽだった。
まずい。つまみ食いしてたのを忘れてた。
─私が振り向くと後輩は既に逃げていた。
【鋭い眼差し】
仕事の帰り道。
私は車で150キロというごく標準的なスピードで信号無視を繰り返しながら逆走していたところ警察に止められた。
「何か?」
私は警察官を前に平然を装いながらも内心焦っていた。
さっきタバコのポイ捨てをしたのがまずかったのかもしれない。
警察官は言った。
「実は最近この辺りで野生動物が惨殺されるという事件が多発していまして。トランクの中を見せてもらってもいいですか?」
何だそんなことか。
私は車のトランクを堂々と開けた。
すると中から猟銃が大量に出てきた。
しまった!忘れてた。
「これはいったい何ですか?」
警察官が睨んできた。
私は言い訳をした。
「待って下さい。これは親が勝手に積んだものですよ。それに私は人間以外に銃を使ったことはありません」
「しかし─」
まだ疑っている警察官に対して私もそろそろ限界が来た。
「いい加減にしてください!これが国のやり方ですか?こっちは薬が切れそうでイライラしたしているのに」
警察官は申し訳無さそうに言った。
「すみません。こちらの勘違いのようです。ところでさっきから携帯で何をしているんですか?」
「運転中は暇なんで友達とおしゃべりしています」
「え?」
私は運転中に携帯を使用した疑いで逮捕された。
【過ぎた日を思う】
卒業式後の教室。
私は机に体をこすりつけて感傷に浸っていた。
「アッアッアッヒィー」
これで最後かと思うと名残惜しい。
私は机の上に立つと服を引っ張りながら踊りだした。
「カオナシのまねーアヒィィィー」
だんだん楽しくなってきた。
しかし、
「何をしている!」
警備員が来た。大声ではしゃぎすぎたか。
私は弁解した。
「実は卒業したばかりで浮かれてしまって、すみません」
すると警備員はニヤッと笑った。
「つまり、卒業したお前は学校とは関係がないということだな。建造物侵入罪で貴様を処刑する」
「あへ?」
私は間抜けな声を出してしまった。
コイツは何を言っているのだ。
「待って下さい。薄汚い下民風情が適当なこと言わないで下さい。地獄に落ちますよ」
「しね!!」
警備員は火炎放射器で教室を燃やし尽くした。
「あひょひょー」
私は間抜けな声を出しながら息絶えた。
─時刻は深夜2時を回ったところだった。