皆さんは自宅警備員という職をご存知だろうか?
危険が伴う大変な仕事である。
が、同時に安月給でもある。
金銭面に不安を覚えた私は、最近自宅外業務を始めた。
家の周りのパトロールである。
歩いていると子供たちが騒いでいるのが見えた。
大勢の子供が1人の子を囲っている。
イジメのようだ。
「ヤーイお前の母ちゃん派遣社員!」
「父ちゃんはヒモ野郎」
どうやら低所得の親を馬鹿にしているようだ。
まあ、よくある子供の喧嘩だ。放っておいてもいいだろう。
しかし次の言葉に私は耳を疑った。
「お前みたいな貧乏人、将来自宅警備員になるしかないんだろ?情けないな」
私の中の何かが切れた。
私は持っていた金属バットでクソガキどもを制圧した。
見たか大人の力を。
間違えてイジメられていた子供もこらしめてしまったが、まあしょうがない。喧嘩両成敗というやつだ。
後はお金を徴収すれば仕事は終わりだ。
私がクソガキどもに金品を要求しようとしていると、
「そこで何をしている?」
通りがかりのプロレスラーが話しかけてきた。
「いや、これはですねえーと、困ったな」
糞が。
私はお金を諦めて、逃走した。
もちろん捕まった。
「暑いな」
日差しがきつい。
しかし私には仕事がある。
そう、日焼け代行という立派な仕事が。
日焼けを代行しても意味がない、という先入観の裏をついた天才的なアイデア。
「そろそろ始めるか」
私は道端に寝転んだ。
道行く人が迷惑そうに見るが、気にしてはいけない。これがこの仕事の辛いところだ。
しばらくして私は気づいた。
「肌が痛い」
肌が赤くなっている。
よく考えたら私は肌が弱いのでこの仕事に向いていない。
「仕方ない」
私は道行く人から適当な人物を探し、半殺しにして縛りつけた後、道に寝かせた。
彼に代行してもらおう。
〜20時間後
見に行ってみると、いい感じに焼けていた。
「よし、申し分ない」
私は写真を取って依頼主に送った。
すると、なぜか半殺しにした男のスマホの着信音が鳴った。
指紋認証でロックを解除してみるとどうやらこの男は、私の依頼主だったようだ。
私はがっかりした。
「代行した意味ないじゃん!」
私が部屋に戻るとそこには驚愕の光景が待ち受けていた。
知らない人が窓の外に張り付いていたのだった。
「家に入れてくれ〜」
しかも何か言っている。
完全に不審者だ。
本来ならば警察に通報するところだが、寛大な私は入れてやることにした。
ただし、危険人物の可能性もあるので、安全を考え、不審者の足の骨を砕き、手足をしばった。ついでにアバラも何本か折った。
「あなたは何者ですか?」
私は優しく話しかけた。しかし、不審者は痛みで声が出ないようで苦しそうに唸るだけだった。
優しくし過ぎて調子に乗ってしまったようだ。
流石の私も我慢が出来ず、警察に通報しようとしたところで、あることに気づいた。
「ここはどこの家だ?」
寝ぼけてて気づかなかったが、ここは私の部屋じゃない。
昨日酔った勢いで別の家に転がり込んでしまったようだ。
まったく、はた迷惑な話だ。
私は迷惑料として金目の物を頂戴して家を後にした。
それにしても窓にいた人物は誰だったのだろう。
「最近は物騒になったな」
私はこの国の行末を心配した。
夏といえばプール。
ということで、私はさっと水着に着替えるとプールにダイブした。
華麗に。
まるでトビウオのように。
「ぐっふぅっ?」
しかし着地は散々なものだった。
というかプールに水が入っていなかった。
「はーはーハヒィーふーふー」
痛すぎて言葉が出ない。
アバラを何本かやってしまったようだ。
足も変な方向に曲がっている。
いい年した大人が学校のプールに忍び込んだ罰だろうか。
考えてみれば今は12月だ。プールなど使われるわけがない。
何が夏だ。調子に乗りすぎた。
恥ずかしいが助けを呼ぶしかない。
私はスマホを探そうとして絶望した。
荷物は脱衣所にある。
助けが来るのを待つか。
そこまで考えて私はさらに絶望した。
今は深夜1時である。
朝まで待ってたら凍死してしまう。
というかすでに痛みが洒落にならない。
しかしそこに奇跡が起きた。
「大丈夫かー?」
人が来たのだ。見回りに来た警備員だろう。
私は必死に存在をアピールした。
神は存在したのだ。
「今助けるぞー」
警備員はプールに飛び込んできた。
え?ちょおま。
警備員はプールが空であることに気づかなかったらしい。
一行目の私と同じノリでプールに飛び込んできた。
2人は激突し息絶えた。
終わり。
「さて、今日のターゲットはと」
私は人混みの中から獲物を探していた。
私の趣味は人に肩をぶつけること。
ぶつけたあと適当に難癖をつけて人を不快にさせることを生きがいとしている。
もちろん危険は隣り合わせだ。
私が自分の存在に誇りを感じていると、前から気弱そうな男性が来るのが見えた。
今日はコイツにするか─
私は男性にタックルを決めた。
「うぐ!」
だが相手の体が予想外に頑丈だったので私は逆に弾き返され尻もちをついてしまった。
なんという屈辱。許さん。
しかも男性は手を差し出してきた。
「大丈夫ですか?」
大丈夫じゃねーよ。
私は自尊心ゲージが大幅に減っていくのを感じた。
コイツは始末するしかない。私はナイフを取り出したが焦って落としてしまった。
落ちたナイフは自分の足に刺さった。
「ぎゃあああー」
私は悶えながらも2本目のナイフを握った。コイツは絶対泣かす。武器はまだまだある。
しかし気弱そうな男性は落ち着き払って言った。
「署まで同行願います」
この男に他人を思いやる心はないのか。
私は連れて行かれた。
ここではないどこかに。
いや、警察署に。