君と過ごす放課後が好きだ。
君はクラスのいわゆるマドンナでみんなから好かれていて僕とは真反対の人間だ。そんなに接点もない。
だけど、放課後だけはお互いのおすすめの本を持ってきて交換して、喋るでもなくただ本を読む。
外からは部活動をしてる学生の声が響く中、教室にぺらりと紙の音が充満していく。
そんな関係が心地よかった。
今日も君との週に一回、約束の時間。
お気に入りの本を図書室で借りて教室へ。
この前の少女小説は僕が読まないタイプで面白かった。
君もミステリーは読まないようでのめり込んで読んでいたのをよく覚えている。
今日の小説は、この前とは違う時代小説。君はどんな作品を持ってきているだろうか。
少しわくわくしながら教室で待つ。
時計がかちりかちりと音を立て時の流れを教える。
気がつけば、約束の時間から1時間がすぎていた。
君は時間はきちりと守る方で1度も遅れたことがなかったのに来る様子もなかった。
なにか用事でもあったのだろうか。もう帰ってしまおうか。いや、もう少しでも待とう。
小説を片手に時計を眺める。
ふと、夕日がこちらにさして本を照らしているのに気がついた。
そんな情景に心奪われ、夕日を見ようとした瞬間、窓の外の夕日をさえぎって君が視界に流れていったのが見えた。
【放課後】
死んだはずだった。
いつも通りのパーティで魔王討伐のレベル上げの為クエストをこなしていたら自分のレベル以上のドラゴンが現れそいつに炎で殺された。
最後に見えたのは魔法士の彼女が泣きそうな顔でこちらに手を伸ばしていた姿だった。
目が覚めた。
明晰夢でも見たのだろうか。酷く嫌な夢だった。
そう思いながら重い体を起こす。
いつものように酒場に行き仲間たちと簡単なクエストを引き受けた。
夢で見たクエストとは違うクエストで仲間たちとの会話内容も全てが違かった。
少しほっと息をついた。
いつも通りクエストをクリアし帰路に着く。
盗賊は「美味そうな肉が手に入った」と早く帰りたそうにし、
精霊使いは「酒も用意しとく」となけなしの金を数え、魔法士の彼女も「今日でレベル結構上がったよ!」
と嬉しそうに話しかけてきた。
ふと前を向くと大きなドラゴンが居た。夢で見たはずのドラゴンが。咄嗟に剣を構えても、避けられるはずもなかった。
夢じゃなかった。本当だった。嗚呼自分はまた死ぬのか。
そう炎が目の前まで来た時、横からぐっと引っ張られ自分の代わりに彼女が炎の中に消えていく。
理解が出来なかった。
自分はここで死ぬ運命だったんだ。
いや、たしかに死んだはずだ。
呆然と立ち尽くすしかない仲間たちと、ただ目の前に残っているのは、焼け落ちた彼女の亡骸と彼女が使っていた魔法杖だった。
おかしい。絶対におかしい。
奇跡、奇跡よ。もう一度だけ。
彼女を生き返らせてくれ。自分を生き返らせたみたいに。ああ神様。
主人公の勇者はモブの魔法士なんかに起こりもしない奇跡を願う。
【奇跡をもう一度】
「ずっと俺、お前に死んで欲しかったんだ。」
たそがれに包まれてしまった彼はゆっくりと私の首に手を這わせぐっと力を込めた。
暴れてもきっと無駄だ、そんなことはわかっていた。
ただ私は彼と未来を見たかっただけなのに。
ぐるぐると駆け巡る思考に終わりを告げるようにだんだんと頭がぼーっとしてくる。
ぽたり、と彼の涙が私の頬に落ちる。
私はその涙を拭おうとして手を、
【たそがれ】
窓から見える景色が酷く羨ましく見えた。
首にある3点ぼくろ、長いまつ毛と奥二重、お茶目で好奇心旺盛なのに流されず芯をしっかり持っているところ、帰る時はいつも「またね」と言ってくれるところとか、
全部が全部大好きだった。いや、今でも全部大好き。
きっと未練がないなんて言えないし、ただ一緒にいるのがしんどくなっただけ。
君と一緒に過ごした時は楽しいままにして大事にしまっておきたいから。
だから今日こそお別れしよう。
【大事にしたい】