ゆらりと黒く透き通った瞳を動かし瓶の中身に目線を移す。
(これを飲んでしまえば楽になれる、)
少女は知っているのだ。この瓶の中身を多量に飲めば、体の健康を引き換えに幸福感と数日間の眠りを手に入れることが出来ることを。
少女は知っていたのだ。それは逃げであると。1度試してしまったからこれを飲めば楽になれると知ってしまっていた。
全て投げ出して楽になりたい。
頭ではダメだと分かっているのに、欲がどんどんと脳内を蝕んでいった。
じゃらりと音を出しながら、出した量の分だけ口に含み水を飲む。
しばらく時間が経つと、少女はふわふわとした感覚のまま夢の世界に惹き込まれていく。
欲深い自分に失望すると共にこんな願いを込めた。
眠ったまま時が止まってしまえばいいのに、そんな河清を俟ちながら。
【時よ、止まれ】
「この街ってこんなに綺麗だったんだ。」
ぽつりと言葉を零し立ち尽くす。
中学生以来に見た展望台からの夜景は、ため息が漏れ出てしまうほど綺麗で。
そんな夜景に吸い込まれるように柵に手をかける。
「こんな夜に消えれるなら、私の人生も悪くはなかったな」
そう呟いた彼女に朝は来なかった。
【夜景】
初めて勇気を出して誘ったデート。照れながらOKしてくれる君はどうにも可愛くてドキドキが止まらなかった。
約束当日は、柄にもなく普段遊ばせることもない髪を少しでもかっこいいと思って欲しくて、慣れない手つき整えたり。
晴天の公園、約束の12時。
「ごめん、待たせちゃった。」
と駆け寄って来る君のスカートがふわりと揺れる。
「君のためにおしゃれしてみたんだけどどうかな」
なんてギュッと袖を掴んで話してくれるから、すごく可愛いよ似合ってる。と情けなくも赤くなりながら話す。
そこから、一日が夢のように楽しくて、一日の終わり際花畑の中振り返って僕に笑いかける君の笑顔がきらきらと輝いて見えたのを鮮明に覚えている。
居なくなってしまった今でも花畑を見ると初恋の君を思い出す。
【花畑】
ふわりの彼女の体が舞う。
伸ばした手は届かない。
ああ、こんなことになるなら伝えられなかった思いをもっと先に伝えて置くべきだった。
あんなに澄んでいた空は彼女がいなくなったことを泣くようにぽつりと雨を降らせた。
【空が泣く】
最後に話してたのは、次に遊ぶ場所の話だった。
毎日のように話してたのに。この映画の続編出たら観ようって約束してたじゃん。私じゃ力になれなかった。
頭の中をぐるぐると駆け巡る思い出に蓋をして、最近処方された睡眠薬を2粒飲む。
更新されない君からのLINEをみて酷く、寂寥感を覚えた。
【君からのLINE】