死んだはずだった。
いつも通りのパーティで魔王討伐のレベル上げの為クエストをこなしていたら自分のレベル以上のドラゴンが現れそいつに炎で殺された。
最後に見えたのは魔法士の彼女が泣きそうな顔でこちらに手を伸ばしていた姿だった。
目が覚めた。
明晰夢でも見たのだろうか。酷く嫌な夢だった。
そう思いながら重い体を起こす。
いつものように酒場に行き仲間たちと簡単なクエストを引き受けた。
夢で見たクエストとは違うクエストで仲間たちとの会話内容も全てが違かった。
少しほっと息をついた。
いつも通りクエストをクリアし帰路に着く。
盗賊は「美味そうな肉が手に入った」と早く帰りたそうにし、
精霊使いは「酒も用意しとく」となけなしの金を数え、魔法士の彼女も「今日でレベル結構上がったよ!」
と嬉しそうに話しかけてきた。
ふと前を向くと大きなドラゴンが居た。夢で見たはずのドラゴンが。咄嗟に剣を構えても、避けられるはずもなかった。
夢じゃなかった。本当だった。嗚呼自分はまた死ぬのか。
そう炎が目の前まで来た時、横からぐっと引っ張られ自分の代わりに彼女が炎の中に消えていく。
理解が出来なかった。
自分はここで死ぬ運命だったんだ。
いや、たしかに死んだはずだ。
呆然と立ち尽くすしかない仲間たちと、ただ目の前に残っているのは、焼け落ちた彼女の亡骸と彼女が使っていた魔法杖だった。
おかしい。絶対におかしい。
奇跡、奇跡よ。もう一度だけ。
彼女を生き返らせてくれ。自分を生き返らせたみたいに。ああ神様。
主人公の勇者はモブの魔法士なんかに起こりもしない奇跡を願う。
【奇跡をもう一度】
10/3/2023, 8:20:25 AM