視線の先には
君の瞳には誰が映っている。
君の心は誰に囚われている。
その視線の先にいる人を見ないで欲しい。
いっそ、見えないようにしてあげようか。
と言ったところでそんな勇気も度胸もない。
ただ、ただ願うばかりで、想いを募らせることしかできない自分だから。
こんな僕じゃ、君は眼中すら無いのかもしれない。
君にとってはほんの些細なことだけど、
あの日君の何気ない一言で救われた。
君のことを見つめるほど、君のことを知っていった。
君が誰に片想いしているのかも。
そんな瞳で、あいつを見つめないで欲しい。
僕の視線の先には、恋に焦がれている君がいる。
私だけ
学校一モテる男の子がいる。
バレンタインともなれば、その子の周りには女子が群がる。
私もそのうちの1人だ。
ただ彼は中学の頃からお返しは全員同じものと決めているらしく、いまだにその習慣は続いているようだった。
特別なの女の子がいない。
それが自分では無いのが淋しいけれど、ほっとする。
まだ誰かの彼氏では無いからだ。
私が他の人よりもチャンスがあると言えば、部活が同じということだ。
彼はバスケが得意で、私も兄の影響でバスケはしていた。ものすごく得意というわけではないので、高校ではマネージャーだ。
だから話す機会も多い。
「遠藤さん」
と呼ばれて振り返る。
いつかは下の名前で呼ばれてみたいなと考えながら、
「今日もお疲れ様」
と他愛無い挨拶をする。
「これから帰るところ?」
「うん、そう」
「一緒に帰ろうよ」
「うん、いいよ」
平静は装っていたけれど『一緒に帰る』というワードに頬が緩みそうになってしまう。
しばらくは部活のことなどを話していたら、あ!と一言呟き、鞄の中をゴソゴソしていた。
「はい、これ。ホワイトデー」
可愛らしい缶の箱。
「遠藤って、こういう缶の箱を集めてるって、聞いたことがあったからさ。結構、お高めの店で買ってきたんだぜ」
「え!?わざわざ、ありがとう」
それは可愛らしい、うさぎや猫などの動物が描かれている缶の箱で、中身はクッキーの詰め合わせのようだった。
他の女の子たちには、これとは違う別なものを、全員にあげていたのに……。
(私だけ、違うプレゼントだ……)
そう気が付くと、何で私だけ?とか、もしかして私のことが…?とか、変な期待で頭の中がグルグルする。
「いつも、マネージャーとしてもお世話になってるからさ」
そう言われて『私だけ特別』という淡い期待は消え去った。それでも『私だけ』のプレゼントだ。
心がじんわりと嬉しい。
「ありがとう」
と噛みしめながら伝える。
彼がにこりと笑う顔を見て、卒業までには自分の想いを伝えたいと思った。
遠い日の記憶
「好きです」
そう告白されて、目の前にいる女性よりも、別な子を思い出していた。
まだ中学生だった頃、桜の樹の下で告白してきた少女を。
その子がポニーテールをしていたからか、それとも今告白してきている女性も、同じポニーテールだからか、そんな遠い日の記憶が蘇った。
重ね合わせているのだろう。
でも過去のあの子と、今目の前にいる子では全然違う。
「……ごめんね」
そう僕は昔と同様に断った。
あの子は今は何をしているのだろうか。
僕が医者を目指すと言った時には、それなら私は看護師になりますと言っていたな。
看護師になっているのだろうか。
僕の知らないどこかで、同じ業界で働いているのかもしれない。
たまには実家に帰ってみよう。
もしかしたら、どこかで彼女に会えるのかもしれない。
そう思った時、僕はあの時断ったことを後悔しているのかもしれないと今更ながら自覚した。
何となく会いたいと思った。
地元の友達に聞けば、誰かしら連絡先を知っているかもしれない。
心がこんなにも忙しない。
会える予感が何となくしたからだ。
あの子の笑顔にたまらなく会いたい。
空を見上げて心に浮かんだこと
朝。
1日の始まり。
カーテンを開けて、ベランダに出る。
夏の朝は早い。
ちょうど朝日が上ったところ。
その朝焼けは夕方のような切なさもあって、でも風が陽の光が、これから始まる1日を感じさせてくれる。
早起きのあの人もきっと、同じ空を見ているに違いない。
今日も1日頑張ろう!
お昼。
学校でのお昼を終えて、廊下の窓から顔を出す。
日陰だから涼しい。
ここは田舎だから、新緑の匂いがする。
向こうの校舎に想い人が歩いている。
学校の副会長だから、たくさんの書類を抱えていて、その姿がかっこいい。
私は大きな声でその人の名前を呼んで、手を振った。
彼は少しばかりキョロキョロして、私のことを見つけた。そして手を振り返してくれた。
真夏の青空はどこまでも青い。
嬉しいなぁ。
夜。
週末だから、明日は土日。
好きな人に会えないのは寂しいけれど、会えない時間が愛を育むって、今日見たドラマの台詞にあった。
ベランダに出ると星が見える。
真冬の凛とした寒さの中で見る星も好きだけど、
夏の、少しばかり涼しくなった夜風にあたりながら見る星も格別だと思う。
あの人も同じ星を見ているといいな。
手を伸ばせば、届きそう。
そう思って手を伸ばす。
また月曜日、彼に会える。
終わりにしよう
終わりにしよう。この関係を。
お互い割り切った関係から始まった。
身体だけを求める、獣のように。
でもそれが良かった。
後腐れなくて、余計な感情が入らない分、
気軽に話すことが出来た。
お互いに恋人はいた。
罪悪感が無いわけではなかったが、
ただ何かを発散するように1つになることが、
本当に心地よかった。
ある日、突然振られた。
セフレがいる関係がバレた訳ではない。
仕事で一時期、恋愛から遠ざかりたかった。
だからなのか俺の『彼女』は別な男を好きになった。
振られても何とも感じなかった。
肩の荷が降りた心地がした。
割り切った関係の『彼女』の方とが、
程よい距離感で心地が良かった。
振られたことを相手に話したら、
『えー?うそ、奇遇だね。私も振られた』
とあっけらかんと笑って答えた。
お互いに大いに笑った。
『じゃあさ、本当に付き合っちゃう?』
冗談にも本気とも取れる声のトーンだった。
『別に悪くないかもな』
こちらも冗談とも本気とも取れる声で返した。