私だけ
学校一モテる男の子がいる。
バレンタインともなれば、その子の周りには女子が群がる。
私もそのうちの1人だ。
ただ彼は中学の頃からお返しは全員同じものと決めているらしく、いまだにその習慣は続いているようだった。
特別なの女の子がいない。
それが自分では無いのが淋しいけれど、ほっとする。
まだ誰かの彼氏では無いからだ。
私が他の人よりもチャンスがあると言えば、部活が同じということだ。
彼はバスケが得意で、私も兄の影響でバスケはしていた。ものすごく得意というわけではないので、高校ではマネージャーだ。
だから話す機会も多い。
「遠藤さん」
と呼ばれて振り返る。
いつかは下の名前で呼ばれてみたいなと考えながら、
「今日もお疲れ様」
と他愛無い挨拶をする。
「これから帰るところ?」
「うん、そう」
「一緒に帰ろうよ」
「うん、いいよ」
平静は装っていたけれど『一緒に帰る』というワードに頬が緩みそうになってしまう。
しばらくは部活のことなどを話していたら、あ!と一言呟き、鞄の中をゴソゴソしていた。
「はい、これ。ホワイトデー」
可愛らしい缶の箱。
「遠藤って、こういう缶の箱を集めてるって、聞いたことがあったからさ。結構、お高めの店で買ってきたんだぜ」
「え!?わざわざ、ありがとう」
それは可愛らしい、うさぎや猫などの動物が描かれている缶の箱で、中身はクッキーの詰め合わせのようだった。
他の女の子たちには、これとは違う別なものを、全員にあげていたのに……。
(私だけ、違うプレゼントだ……)
そう気が付くと、何で私だけ?とか、もしかして私のことが…?とか、変な期待で頭の中がグルグルする。
「いつも、マネージャーとしてもお世話になってるからさ」
そう言われて『私だけ特別』という淡い期待は消え去った。それでも『私だけ』のプレゼントだ。
心がじんわりと嬉しい。
「ありがとう」
と噛みしめながら伝える。
彼がにこりと笑う顔を見て、卒業までには自分の想いを伝えたいと思った。
7/18/2024, 1:09:39 PM