手を取り合って
頂きを目指して登るのは困難だ。
ひとりでそれを目指すと尚更に。
深い霧の中で何度も手探りで光を見つけようとする。
恐怖で身がすくむこともある。
でも戦友とも言うべき同士がいて、
心の余裕が生まれる。
共に手を取り合える者がいるということは、
本当に素晴らしい。
これまでずっと
これまでずっと、あなたのことを誤解していた。
ううん。
理解しようとしていなかった。
でも棘のある言葉も、
憎たらしく思った行動も、
全ては私のためだと気付いたのは、
大人になってからだった。
今なら素直に『ありがとう』と言えるかもしれない。
これからはもっと感謝の気持ちを伝えられるかもしれない。
同窓会の葉書が届いた。
友人からの連絡で、あなたも参加すると知った。
今までごめんなさい。
そしてこれからはずっともっと素直な自分になれる。
目が覚めると
目が覚めると、彼の腕の中にいた。
(そうか……、昨日…)
と朧気な記憶を辿る。
身体が思うように動かない。
貫かれた鈍い痛みが走る。
でも決して不快ではないその痛み。
(好きな人と結ばれたんだ…)
彼の匂いや温もりに安心感を覚える。
耳を澄ませると彼の鼓動が聴こえた。
やはり夢ではない。
もう少しだけ、まどろんでいたい。
こんな幸せがあったんだと実感したい。
彼の背中に回した腕に少しだけ力を入れる。
彼が目を覚ましたら「おはよう」と言おう。
特別な挨拶だ。
そうして私は再び、眠りについた。
私の当たり前
私の当たり前。
それは好きな人を支えること。
好きな人の夢を一緒に叶えること。
お医者さんを目指していた彼。
必然的に私の夢は看護師になった。
そして、彼と一緒の病院で働くの。
そしてそれは叶った。
次は彼のお嫁さんになること。
彼は私のお婿さんになること。
二人の夢は一緒。
私の当たり前。
そして、あなたの当たり前。
街の明かり
実家は田舎だから夜になると人通りが少なく、また民家と民家の間にも距離があるため、明かりはまばらだ。
そんな光景も悪くは無かったが、都会に出てきて何年かは実家には帰っていない。
電話は時折りするだけだ。
都会の街中は夜でも煌々としている。
むしろ、昼間の時より一際輝いているが、酔っ払いのサラリーマンの愚痴や、ホストクラブの勧誘の声など騒々しい。
眠らない街、東京とはよく言ったものだ。
初めて上京してきた時には、そのまばゆい光に圧倒された。
だが、孤独だ。
人は大勢いるというのに、どこまで行っても孤独を感じる。
終電を逃した。
走れば間に合うくらいだったが、走るのを拒否した。
何だか、ゆっくりしたい気分だった。
明日は土曜だ。
レイトショーもあれば、ネカフェもある。
一人居酒屋だって構わない。
信号や車のライト、店のネオンなどが段々と滲んで、水彩画のように写し出した。
(泣いているのか?)
自分でも不思議だった。
頬に伝わる涙は、暑さで少し生温かい。
祝日の月曜も入れれば三連休だ。
久しぶりに実家に帰ってみようと思った。
田舎の素朴な街の明かりを久しぶりに見たい。