REINA

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7/6/2024, 12:39:25 PM

友だちの思い出



幼い頃から友だちの女の子とキスをした。
友だちとして最後の思い出だ。

驚いた彼女は僕を突き飛ばした。
それはそうだろう。
彼女は僕のことを『友だち』として。
僕は彼女のことを『女の子』として見ていたのだから。


と若かりし頃の苦い思い出が蘇った。
中途入社してくる新人を紹介されたのは、ついさっきだ。
何となく面影があるなとは思っていたが、
名前を聞くまで確信は持てなかった。

綺麗になったなと思った。
また恋をしてしまいそうだ。

僕の顔をしげしげと眺める彼女を見て、にこりと笑う。
慌てる彼女は、僕との思い出を記憶しているのだろうか。

忘れていたとしても、それは『友だち』としての最後の思い出。
これからは『恋人』としての最初の思い出に塗り替えていけばいい。

7/5/2024, 11:58:45 AM

星空



東京から実家へと戻ってきた。
以前から帰省するたびに実家の居心地の良さは分かっていたが、東京じゃないと叶えられない夢があって、必死に頑張った。

頑張って、頑張って、頑張って、
会社からの叱責や、時間に追われ余裕のなさがあっても、それでも夢に向かって頑張れた。

でもある時、ぷつんと糸が切れてしまったかのように、どうでも良くなってしまった。
そして実家に帰ろうと決めたのだ。

私の実家は田舎だ。
だから夜になると、東京より少し涼しくて、そして漆黒の夜が訪れる。

でもその分、星の瞬きがより一層に際立っていた。
私もあんな風にキラキラと輝きたかったのに……と感傷にも浸る感じだけど、でも重積から解き放たれた気分なので、例え輝けなくても問題は無かった。

本当に気分がいい。
星空がこれからも見守ってくれる、そんな気がした。

7/4/2024, 1:43:16 PM

神様だけが知っている



誰にも明かしたことがないあの人への気持ち。

友達には『好きな人なんていないよ』と答えているけれど、本当は恋の話をしてみたい。

でもダメなんだ。
だって、私は『先生』を好きになっちゃったから。
婚約指輪がはめられているのを見た時、授業以外の顔を見せている先生の表情があるんだなと思った。
そう思ったら何だか胸が苦しくなった。

でも彼女さんからすれば、授業をしている先生の顔は知らないだよなぁと思えば、それはそれで少し救われた。

放課後には質問をしに行く。
何かにつけて会いたい口実を。

どうせ私のことなんて子供としか見てないと思うから、だから無邪気に触れてみる。


ある日、そんなふうにいつものように絡んでいたら、思わず倒れそうになってしまった。
床に頭をぶつけると覚悟していたけれど、激しい痛みは無かった。
先生がどうやら身を挺して庇ってくれたみたい。

それはいささか、私のことを抱きしめているようにも見えたかもしれない。
私は怖がる振りをしてぎゅと、先生の胸に抱き付いた。
強張った男の人の胸だと感じた。

若そうに見えるけれど、やっぱり先生は男性だ。

「いい加減重いぞ」

なんて冗談混じりに先生は言ったけれど、少しだけ耳を赤くしたのを見逃さない。

私は先生の胸に顔を埋めたかと思えば、急にパッと顔を上げ、勢いよくキスをした。

一方的やキスだ。
それも何ともぎこちない、稚拙な、雑なキスだったかもしれない。
でも、一生懸命にしたキスだ。

目を丸くしている。
状況を理解したのか、私の身体を引き剥がした。

唇を手で抑えながら、顔が赤くなったり、青くなったりする様は、少しばかりおかしかった。

『大丈夫です。先生と私との秘密ですね』

窓から見える教会が17時の鐘の音を鳴らしていた。
先生と私と神様だけが知っている。
今日の秘め事は。

7/3/2024, 11:56:26 AM

この道の先に


この道の先に叶えたい夢がある。
そこに向かって歩き出す。
ゆっくりだけど歩き出す。

色んな人たちが、私を追い越して行くかもしれない。
焦って取り乱すこともあるかもしれない。
もしかしたら立ち止まることだってあるかもしれない。

それでも、それでも歩みは止めない。
この道がどんな道に枝分かれしようとも、
私は私の信じた道を歩いて行く。

後ろを振り向くこともあるかもしれないけれど、
自分で限界は決めない。

この道の先に叶える夢がある。

7/2/2024, 12:09:50 PM

日差し



ほんのりとした暖かさ。
瞳は閉じているけれど、明るさを感じた。

うっすらと目を開けると、カーテンの隙間から陽が差し込んでいた。
思わず目を瞑る。
しかし柔らかな日差しは、頭の覚醒を促した。

隣に手を伸ばせば、彼女の気配は無い。
そう言えば朝から会議だと言っていた。

無理をさせるつもりでは無かったが、理性を抑えるつもりはなく。
昨夜のよがる声が脳内で再生される。

ふとサイドテーブルを見ると、走り書きのメモが見えた。

『簡単だけど…』

と書かれたメモを見て、朝食を用意してくれたことを察した。
数分前までいたであろう、彼女の姿がキッチンに映る。

「オレの方が寝入ってたのかよ…」

と少し髪の毛をかきあげながら、ベッドから立ち上がり、カーテンを開く。

この日差しは毒だなと欠伸をしながら、再び彼女の匂いのするベッドへ、身を深く沈めた。

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