REINA

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神様だけが知っている



誰にも明かしたことがないあの人への気持ち。

友達には『好きな人なんていないよ』と答えているけれど、本当は恋の話をしてみたい。

でもダメなんだ。
だって、私は『先生』を好きになっちゃったから。
婚約指輪がはめられているのを見た時、授業以外の顔を見せている先生の表情があるんだなと思った。
そう思ったら何だか胸が苦しくなった。

でも彼女さんからすれば、授業をしている先生の顔は知らないだよなぁと思えば、それはそれで少し救われた。

放課後には質問をしに行く。
何かにつけて会いたい口実を。

どうせ私のことなんて子供としか見てないと思うから、だから無邪気に触れてみる。


ある日、そんなふうにいつものように絡んでいたら、思わず倒れそうになってしまった。
床に頭をぶつけると覚悟していたけれど、激しい痛みは無かった。
先生がどうやら身を挺して庇ってくれたみたい。

それはいささか、私のことを抱きしめているようにも見えたかもしれない。
私は怖がる振りをしてぎゅと、先生の胸に抱き付いた。
強張った男の人の胸だと感じた。

若そうに見えるけれど、やっぱり先生は男性だ。

「いい加減重いぞ」

なんて冗談混じりに先生は言ったけれど、少しだけ耳を赤くしたのを見逃さない。

私は先生の胸に顔を埋めたかと思えば、急にパッと顔を上げ、勢いよくキスをした。

一方的やキスだ。
それも何ともぎこちない、稚拙な、雑なキスだったかもしれない。
でも、一生懸命にしたキスだ。

目を丸くしている。
状況を理解したのか、私の身体を引き剥がした。

唇を手で抑えながら、顔が赤くなったり、青くなったりする様は、少しばかりおかしかった。

『大丈夫です。先生と私との秘密ですね』

窓から見える教会が17時の鐘の音を鳴らしていた。
先生と私と神様だけが知っている。
今日の秘め事は。

7/4/2024, 1:43:16 PM