窓越しに見えるのは、
沢山のプリントを両手で抱えた彼女。
職員室にでも行くのだろう。
絹のような髪が風で揺れている。
「先生、」
思わず窓を開けてそう口にした。
彼女は振り返らない。当たり前だ。
ここは4階の教室。
声が、届くわけない。
この気持ちが、届くわけない。
『 入道雲 』
暑かった。とにかく暑かった。
梅雨が明けたばかりだというのに蝉は鬱陶しい程
鳴いていて、アスファルトには影の下まで辿り着けなか
った悲しいミミズ達がそこかしこに転がっていた。
空にはでっかい入道雲。
雨降ってくるんかなー。と呑気に思いながら、
ふと思ったことをあいつに言った。
「なぁ、俺達夏はもういいが、会わなくて。」
「なんでさ。これからなのに。」
「いや、夏だからさ。」
「あーまぁそうか。」
「うん、じゃ。」
ほら、あっさり了承する。あいつはそういう奴だ。
夏だからという言葉に明確な理由が俺にはあるが、
普通は意味がわからないだろう。夏だからなんだよ。
俺達は週の半分は会うような仲だった。
いや、ただ沢山会うだけの、それだけの仲だった。
俺達の絆は堅い様で、あまりに脆かった。
俺達の関係は綺麗なようで汚く、色褪せていた。
俺達の心は黒く、そして小さかった。
今でも入道雲を見ると、
その姿とは似ても似つかないあの頃の2人を思い出す。
二度と戻らない君
消えてくれない思い出
あれから3度目の夏
小さい頃からずっと見ていた夢があった。
一日中お祭り騒ぎで何処からも祭囃子や太鼓の音が
聞こえてきて人がいっぱいいて、とにかく楽しかったし
幸せだった。大好きな夢だった。
最近はあの夢をまるっきり見なくなってしまったせいか
無性にあの夢のあの場所に行きたい。
昔のことでもうはっきりと覚えてはいないが、
少なくともここではないどこか。
最後になると分かっていれば
尤もらしい別れを告げたのに
「また明日」なんて馬鹿みたいに
言うことは無かった
あの日、無邪気に遊ぶ君の
いつもより少し寂し気な顔に
僕は気づけなかった
人間とは愚かなもので
明日は当たり前にあると
当たり前に思っている
僕も思ってたんだ
次もあの子に会える。と
そんな思いとは裏腹に
君はいなくなった
幼すぎた僕を置いて
君と最後に会った日