空蝉

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『 入道雲 』


暑かった。とにかく暑かった。
梅雨が明けたばかりだというのに蝉は鬱陶しい程
鳴いていて、アスファルトには影の下まで辿り着けなか
った悲しいミミズ達がそこかしこに転がっていた。
空にはでっかい入道雲。
雨降ってくるんかなー。と呑気に思いながら、
ふと思ったことをあいつに言った。

「なぁ、俺達夏はもういいが、会わなくて。」

「なんでさ。これからなのに。」

「いや、夏だからさ。」

「あーまぁそうか。」

「うん、じゃ。」

ほら、あっさり了承する。あいつはそういう奴だ。
夏だからという言葉に明確な理由が俺にはあるが、
普通は意味がわからないだろう。夏だからなんだよ。

俺達は週の半分は会うような仲だった。
いや、ただ沢山会うだけの、それだけの仲だった。
俺達の絆は堅い様で、あまりに脆かった。
俺達の関係は綺麗なようで汚く、色褪せていた。
俺達の心は黒く、そして小さかった。

今でも入道雲を見ると、
その姿とは似ても似つかないあの頃の2人を思い出す。





6/29/2024, 1:29:39 PM