時雨 天

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9/9/2023, 12:33:32 PM

世界に一つだけ





幼い時に母に作ってもらった赤い手提げ鞄。取っ手が桜色。
嬉しくて、お出かけする時は常にその鞄を持って行った。
今でも大事に押入れに閉まってある。
たくさんの思い出が詰まった、世界に一つだけの鞄だ――

9/8/2023, 1:28:42 PM

胸の鼓動




どくん、どくん、どくん――
静かな部屋にいる時に聞こえてくる胸の鼓動。
この音が聞こえるたびに、自分は今、この瞬間を生きているのだと思う。

9/7/2023, 2:02:42 PM

踊るように


ふと、空になったケージを見て思い出す――
私が来ると長い耳をピンっと立てて、花をぴくぴく動かす。
ケージの上を開けると立って覗くように顔だけ出す可愛い愛兎。
中を掃除をしたいので、部屋に出すと待ってましたと言わんばかりにダッシュ。
頼むから怪我だけはしないでほしいと苦笑い。またこちらに帰ってきて、お外出た、お外楽しいねと伝えているかのように、鼻でグイグイと私の足を押す。

「わかったわかった、楽しいね。お掃除するよー」

そう声をかけるとまた離れていく。その様子を見ているとまるで、踊るようにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
本当に楽しそうだ。もっと大きな広い部屋に解き放つと一段と踊りが激しくなりそうだなと思う。
幸せそうな愛兎。こっちも幸せになってくる。家に来てくれて、ありがとうと。
きっと、天国に行っても、ぴょんぴょん飛んだり、草原を駆け回っているのだろう。
そして、見守ってくれているのだろうと――

9/6/2023, 1:41:13 PM

時を告げる




小学校の頃の通学路を久しぶりに歩いてみる。
所々、景色が変わっていた。新しい家が建っていたり、古くなり誰も住まなくなった家があったり、解体中だったり。
まだ暑さが残っているが、陰になる場所へ行くと涼しい風が吹く。ゆるい坂道を登り、更地になった場所が。
何があったか、思い出せない。たぶん、大きな家だったと思う。時が経てば、変わらないものが、変わるものもある。少し寂しさを感じた。
ふと、たくさん遊んだ公園の前で立ち止まる。滑り台を何度も滑り、シーソーも遊び倒した。
ブランコは誰が1番漕げるかを勝負したり、二人乗りをした。そんなことを思い出しながら、今はあまり整備されていない草が大量に生えた公園を見つめる。
外で遊ぶ子供がこの町にはいない。子供が減り、高齢者が住む町に変わっていた。
昔は子供が溢れていたような気がする。車が来なければ、坂道で遊び、色んな色のチョークを持ってきて地面に絵を描いたり、スケボーやキックボードに乗っていたり、ドッチボールをしていた。
懐かしさを感じていると遠くの方から、学校のチャイムが聞こえてくる。キーンコーンカーンコーンと。それはまるで、時を告げるように思えた――

9/5/2023, 1:22:39 PM

貝殻



砂浜を歩きながら、ボクは綺麗な真っ白の貝殻を拾う。
拾っては、持ってきた小さな蓋付きのガラス瓶に入れていく。
かれこれ1時間はうろうろして、貝殻の厳選。基準は形が整っている、真っ白であること。
意外に欠けていたり、白かなと思ったら茶色が少し混ざっていたり。
対象外はその場でリリース。ごめんねと思うけど、こだわっているから。
ガラス瓶を見るとだいぶ溜まっていた。優しく振ると綺麗な音が聞こえる。
ふふっと笑みが溢れた。そして、ある場所へと向かう。
良い匂いが漂う海の家。まだ人がガヤガヤとたくさんいた。
ボクは人混みをすり抜け、海の家の裏手に回る。そこには、ボクの大好きなお姉さんが休憩中だった。
日陰に腰掛け、片手にコーラ瓶を持っていた。すると、ボクの存在に気づくとヒラヒラと手を振る。

「お姉さん、今、大丈夫?」

「大丈夫だよー、まだ休憩中だから」

お姉さんは自分の隣をぽんぽんと叩いて、ボクにおいでと言う。
こそこそしながら、隣に腰を下ろす。そして、貝殻の入った瓶をみせる。

「わぁー、いっぱい取ってきたね」

「たくさん綺麗なのをとってきたんだ」

「そっか、そっか、すごいじゃん」

ボクの頭をわしゃわしゃと撫で回しながら、コーラを飲んだ。

「これ、お姉さんにあげる」

「いいの?せっかく、集めたのに」

「いいの、お姉さんのために集めたの。この真っ白な貝殻、お姉さんの髪の毛の色に似ていて綺麗だから」

白銀の髪の長い髪をポニーテールにしているお姉さん。
今日もキラキラと綺麗に輝いていて、貝殻と同じだ。

「あははは、ありがとう。嬉しいよ」

「あとは、お姉さんともっと仲良くなるため」

少し恥ずかしくなって、ゴニョゴニョと言ってしまった。
お姉さんはクスクス笑いながら、聞いてくれている。

「そっかそっか、もっと仲良くなるためか、いいね」

お姉さんの海のような青い瞳に見つめられるとドキドキしてきた。
ボクは勢いよく立ち上がると日陰から出る。

「ボク、もう行くね‼︎また来年、集めて持ってくるから」

手を振ってその場を離れた。お姉さんの顔はまともに見れなかったのが、残念だが。
きっと、ニコニコ笑っていたと思う。毎年そうだから。
来年もたくさん集めて渡そう。もっと、もっと仲良くなるために――

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