きらめき
幼い頃、クリスマスツリーの飾り付けを手伝うのが好きだった。
もくもくふわふわのワタはまるで、木に雪がつもったみたいに見える。
可愛い小さなプレゼントやトナカイ、赤や緑、金や銀の丸いオーナメントたちは踊っているようだった。
可愛いねと母と一緒にツリーを綺麗に飾っていく。
頂上の星は、まだ身長が低かったので、母に抱っこしてもらって飾りつけた。
くるくると木にライトを巻きつけていく。そして、電源を入れると赤と緑に光ライト。
ただの部屋だったのが、キラキラと煌めき、幻想的な世界に変わった。
その光を見つめながら、早くサンタさんが来る日にならないか、ソワソワしていたのを覚えている。
光輝くライトとオーナメントたち。忙しいサンタさんに、この幻想的な世界をお裾分け。そして、癒されて欲しいと――
些細なことでも
親友と喧嘩した。ほんのちょっとしたことだった。
俺にとっては気にならないことだが、親友にとっては気にすることだったようだ。
そんなことで気にしなくていいと言うと、火に油を注いでしまった。
早口で俺の悪口を言う。かなり心を抉られた。そんなこと思っていたなんて。
抉られながらも、俺も返した。こうなると体力を使う、疲れる。
親友は、もういいっと言って家に帰って行った。
一人その場に残されて、モヤモヤとムカムカする心を鎮めようとする。
しばらくして、ふらふらと歩き出し、コンビニへと向かった。
中に入ると涼しい風が熱っていた体を冷ましてくれる。
好きなものを食べて、気分を晴らそうと思い、アイス売り場へ。
どれにしようか悩んでいると新作のアイスに目が行く。
「あ、これ、あいつ好きな味っぽい」
ふと口から溢れた。無意識だった、まさか親友のことを思い出すとは。
頭をぶんぶんと激しく振って、忘れようとしたが、親友がいつも買うアイスが目に入る。
ギリギリと奥歯を噛み、お菓子売り場へと移動した。
お菓子売り場へ行くと同じように、親友が好きなお菓子を手に取っている、自分が。
「はぁー……些細なことで喧嘩するんじゃなかったなぁ」
肩を落として、買い物かごにお菓子とさっきの新作のアイスと好きなアイスを放り込んだ。
「素直に謝りに行こう。喧嘩してもあいつのこと考えているって、俺どんだけ好きなんだよ、ハハっ」
苦笑いして、レジへ向かおうとするとポケットに入れていたスマホが鳴った――
心の灯火
匂いを嗅ぐとわかる、アナタは今、とてと悲しんでいる。
外の世界で何があったかわからない。私は外に出られないから。
小さは声で声をかけても、今は一人にして欲しいと言われた。
何もできないのが嫌なので、アナタの側に寄り添う。
私ができることは、たったこれだけ。黙って側にいること。
手で少し、側から離されても、また元の位置に戻る。
何度も、何度も、離されても、元の位置に戻る、必ず。
私は絶対に側を離れない、アナタを一人にしない、させない。
ふと、アナタの心が冷えているように感じた。頭の上に落ちてくる冷たい雫。
見上げるとアナタは悲しそうな表情をしている。すびっと聞こえる音。
私はアナタの太ももの上によじ登り、丸まった。アナタの冷たい、冷たい心を感じたから。
冷たいなら、温めればいい。私の熱をあげる。ふわふわ、ぽかぽかする熱を。
すると、私の頭を優しく撫でてきた。何度も、何度も。その手は心地良い。
ふふっと声がした後に、ありがとうと言われた。
冷たい心に、暖かい火が灯った。よかったよかった、一安心。
私はピクピクと鼻と長い髭を動かし、にゃーっと鳴いた。
たとえ、アナタの心の灯火が消えたとしても、私がアナタに火を灯してあげる。いつでも、何度でも――
開けないLINE
LINEの独特の音が鳴る度にスマホを無視する。
ずっと無視しているのに鳴り続けるのが腹立つ。
暇なのか、何なのか。こっちは暇じゃない、自分の時間があるのだ。
本を読み、その本の世界に浸りたい。そう思うと音は煩い。
スマホを手に取り、マナーモードにしようとする時に、つい画面に目が行く。
同じ人物からのかなりの件数のLINE。ぞわっと鳥肌が立って、思わずスマホを投げてしまった。
別に嫌いではないが、LINEを開いてしまえば、最後。永遠のやり取り。既読スルーをすれば、催促と怒りのLINEの舞い。
だから、開かないというか開けないLINE。
なぜ、迷惑に思わないのだろうか?喋る相手がいないのだろうか?
考えたところで、無駄だ。どうせ、明日には100件はゆうに超えるだろう。
はぁーっとため息を吐いて、スマホを取りに行く。もちろん、返すつもりはない。マナーモードにするだけ、ただそれだけ。
ピコン、ピコンと鳴っている。もう、とどめ刺したい気分だ。
ガシガシと髪の毛を掻き、画面は見ずに、マナーモードにした――
不完全な僕
一つ、一つ、ピースを当てはめていく。
真っ白い部屋にぱちん、ぱちんと言う音が響いている。
ピースの形をよく見てはめた。――ぱちん、ぱちん。
ふと、形が合わず、はまらない部分が数ヶ所あった。
どんなにはめる場所を変えてみても、綺麗にはまらず。
一旦手を止めて、休憩を挟む。ぼーっと真っ白な天を見つめた。
そして、再開したが、変わらなかった。口をへの字にして、考える。
なぜこのピースは、はまらないのか?このままじゃ、完全にならない。
じわりと涙が出てきたので、右腕で涙をごしごしと拭う。
「大丈夫、大丈夫。落ち着いたら、はまる」
呪文のように唱え続ける。くるくると手元でピースを回す。
上にしたり、下にしたり、右にしたり、左にしたり。
探しても探しても、ピースがはまることはない。
「仕方がない、頑張ったけど、完全にはならない。不完全な僕」
ぽつりと小さく呟いて、その場に体育座りをする。
そして、はぁーっと長いため息を吐いてから、またピースをはめ始めた。不完全な僕から完全な僕になるために――