空を見上げて心に浮かんだこと
綺麗な青い空が目の前に広がった。雲一つない青い空。
太陽の光が眩しくて、目を細める。
こんなにも美しい空があるのに、現実は残酷なことが多い。
辛いことは誰にだってある。だからこそ、思い出してほしい。
この青い空を見上げることを。君のそばにずっと美しい世界があることを。
終わりにしよう
いつまでも一緒にいられると思っていたのに。
神様は残酷だった。
「好きな人に告白したら、OKもらえた」
耳がキーンと痛くなった。高いところから急に突き落とされた気分。
呼吸をする度に、息が苦しい。額から汗がこぼれ落ちた。
「よかったね、おめでとう、お似合いだと思う」
声が震えていたのが、自分でもよく分かる。表情が上手く作れない。
「いつも色々話聞いてくれて、ありがとう。やっぱり幼馴染は、頼りになるね」
嬉しそうに笑って、俺の手を握る。
――聞きたくなかった。信じたくなかった。嘘だと言って欲しかった。
作った顔で、笑い返した。愛しい横顔、その瞳に俺はもう映らない。
その後の会話が耳に入ってこなかった。たぶん、好きな人の話だろう。
ぼーっと遠くを見つめながら、一緒に歩いて帰る。左肩に下げていた、ボストンバックが重く感じた。
幼い時に約束した「大人になったら結婚しようね」と。
ずっとそれを信じていた。――嬉しくて。
幼稚園も小学校も中学校も、ずっと一緒で、ずっと隣にいた。
俺のほうがずっと前から大好きだったのに。なんで、俺じゃない?
悲しくて、悔しくて、それが痛みとなり体を抉っていく。
認めたくなかった、分かりたくなかった、時間が戻って欲しかった。
そんなこと言っても、思っても、どうにもならないのわかっている。
家に帰って、足早に部屋に向かい扉を閉める。
電気もつけずに、扉にもたれかかりながら、ずるずるとその場に座り込んだ。
涙が溢れ出た。喉の奥と鼻の奥がツーンと痛い。
しばらくしてから、立ち上がり、机の引き出しに向かった。
引き出しの中から取り出した、1枚の手紙。幼い時に「結婚しようね」と書かれた手紙を、ずっと持っていた。
もう、この想いを終わりにしよう。――さよなら。
ビリビリと紙を破く音が部屋に響いた。
手を取り合って
暗闇の中に灯りが一つ。ゆらゆらと揺れ動いている。
そこには泣きながら歩いている少女がいた。
彼女が持っているランタンの光だけが、暗い道を照らしていた。
どんどんと険しくなる道のり。周りには人一人いない。
どんなに歩いてもゴールはない。
とうとう、少女は立ち止まってその場にしゃがんでしまった。
ポロポロと大きな涙の粒が、地面を濡らしていく。
じゃりっと砂を踏む音に顔を上げる少女。
そこには、不思議そうな表情で少女を見る女性がいた。
「どうしてこんなところに子供が?」
しゃがんで、少女と同じ目線になる女性。
ランタンの灯りで、女性の容姿が明らかになった。
綺麗な銀色のウェーブした長髪、海のように深い蒼い瞳。
うっすらとした桜色の唇と色白の肌。そして、カラスのように真っ黒な服装。頭にはエナン帽子。
「……魔女」
少女はぽつりと呟いた。
「……そうよ、魔女よ、魔女。んで、迷子になったの?」
魔女が彼女にそう聞くと、首を左右に振る。
「迷子じゃないなら……」
唇に左手の人差しを当てて、深いため息をついた魔女。
「……まぁいいわ、丁度、かわいい助手がほしいと思っていたの、一緒に来る?」
立ち上がって、少女に手を差し伸べる。少女は、きゅっと口を結び、魔女を見つめた。
「ここにいても、寂しいだけよ?どうせ帰る場所、ないんでしょ?」
魔女の言葉に小さく頷く少女。そして、震えながら魔女の手を取り、立ち上がる。
「んじゃぁ、行きましょ。これからは、私と手を取り合って生きていくのよ、いいでしょ?」
魔女は、ふふっと笑うと小さな手を引いて、歩き始める。ゆらゆらとまた揺れ動くランタンの灯りは、これから彼女らが生きていく道を照らし始めた。
優越感、劣等感
俺の弟はなんでもできた。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、愛想が良いから人間関係は良好。どれにとっても天才だった。見ただけで、魔法のようにその通りにできてしまう。
それに比べて俺は、劣っていた。兄弟なのに、容姿も普通、成績も普通、スポーツも普通、人間関係最悪。どんなに努力しても、弟には敵わなかった。何一ついいことがない。
こんな俺なのに、弟はいつも「兄さん、大好き」と言ってくる。
何を考えているのか、わからない。その微笑みの裏には何があるんだ?
俺のことを見下しているのだろうか……
僕の兄さんはなんにもできない。容姿は普通だし、成績だって、赤点こそ免れているものの、ギリギリのレベル。スポーツは何しても下手、特にサッカーなんかボールを蹴れていないし。
いつも俯いて、人を睨むし笑わないから愛想が悪いって言われている。
兄弟なのになぜこんなにも違うのだろうと思うけど、僕はそんな劣等生の兄さんが「大好き」だ。
何もできなくて、ビクビクしてて、僕を睨むその目が大好きだ。
とてつもなくたまらない、努力しているのは知っていた、そこも愛おしいけど、僕の上に行くなんてありえない、行かせはしない。
いつまでもいつまでも、「なにもできない兄さん」でいてほしい。
だから、僕は兄さんにずっと微笑む。ずっとずっと浸っていたいこの優越感。
「兄さんは僕のモノだ」
これまでずっと
これまでずっと2人で暮らしていた。
雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も、楽しい日も、辛い日も。
どんな時でも2人でずっと暮らしていた。
そして、これからは――
大きな産声がきこえる。私は涙を流しながら、新しい小さな命を抱く。
「これからは3人だね」
小さな手に自分の右手の人差し指を握らせた。
廊下から慌ただしい足音が聞こえてくる。
この足音はきっと、あの人のモノだ。
「今から、パパが来ますよ〜」
ふふっと笑うと彼女もふにゃりと笑った。