1件のLINE
お風呂上がり、髪の毛も乾かさずにかれこれ10分くらい、スマホの画面と睨めっこをしている。
相手になんて返事を返せばいいか悩んでいた。
普通に返せばいいと思うんだけど、その普通がなかなかできない。
深いため息を吐いて、ベッドに腰を下ろし、スマホを枕元に投げる。
「無理っ」
首にかけていたタオルで、髪の毛を乱暴に拭いていると、LINE独特の音が鳴ったので、思わず飛び上がってしまった。
慌てて枕元に投げたスマホを手に取り、画面を見る。
そこには「新着のメッセージがあります」と表示されていた。
恐る恐る開いてみると――
『既読スルーしないでよー、んでどうする? 今度の土曜日のデート』
どうするもこうするもデートしたいに決まっている。
だがしかし、毎度デートは緊張する、心臓が飛び出そうになる。
上手く喋られないし、何もないところで躓くし、服装は変じゃないか不安だし……
そんなこと考えている暇はないっ。何か返さないと、何か返さないと、何か返さないと――
『OK』
かわいいウサギが、OKと言っているスタンプを送信。
そして、即返信が返ってきた。
『OKだけじゃわからない、何時にどこに行く?』
ずっと自分の返信を待っていてくれたんだろうなぁ……即返ってきた。
そっけない文章に見えるけど、きっと画面の向こうで、腹を抱えて笑っていると思う、自分の恋人は。
また返信を返さなきゃいけないから、大変だ。電話の方が早いかな?
いや、電話は電話で緊張する。どうしたものかな――
目が覚めると
黒色の金魚をポイで掬うとぴちゃんと水飛沫を上げ、ポイに穴が開く。
キミは幼い子供のように口を尖らせて、ぶーぶー言った。
「ぜったい、今のは獲れたと思ったのに」
穴の空いたポイをくるくると回して、屋台のおじさんに手渡す。
そして、ゆっくり立ち上がると僕の手を引いて、次の場所へ。
人混みをかきわけて、たどり着いた場所は、甘い匂いが漂うわたあめの屋台。
キミは舌舐めずりをして、僕に訴えてくる。
「わたあめが食べたいなぁ」
僕はくすくす笑いながら、頷いてわたあめをキミのために買う。
出来立てのわたあめを屋台の人からもらうとキミに渡した。
早速、嬉しそうにわたあめを食べた。雲のようなふわふわのわたあめを鼻のてっぺんにつけて、僕の方を見つめてくる。
苦笑しながら、ついているわたあめを取ろうとした瞬間、花火が夜空に上がった。
色とりどりに咲き乱れる花火はとても美しい。
大きな音が鳴り響くと同時にキミが何かを言ったが、聞き取れなかった。
もう一度、聞こうと耳を澄ませると――
――目が覚める。ピピピっと携帯のアラーム音が鳴り響いていた。
僕はゆっくり体を起こして、前髪をくしゃりと掴んだ。
「そっか、夢か」
何度懐かしい夢を見て、目を覚ましてもキミは――もういない。
私の当たり前
朝方4時過ぎ――
窓をゆっくり開けると冷たい空気が部屋に入ってきた。まだ人が少ない時間は、ひっそりとしている。
ぼーっと遠くを見つめていると、目の前にあった木の枝に鳥が止まる。そして、鳥が話しかけてきた。
「おはよう、おはよう、今日も元気だね」
「鳥さん、おはよう、あなたも元気だね」
笑って返すと鳥は首を縦に振り、そして翼を広げ飛んで行く。今度は誰に挨拶をしに行くのかな。
この時間と朝の冷たい空気は好きだ。私にとっての当たり前なひと時。
街の明かり
そして光が生まれた。あちらこちらから灯る光たち。
暗闇の中でも輝きを放つ。灯っているだけで、安心感があり暖かい。
静かに夜が「おはよう」と言えば、光たちも「おはよう」と返す。
ふふっと微笑むと彼らの仕事が始まった。
朝になったら、「おやすみなさい、またね」