時雨 天

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終わりにしよう


いつまでも一緒にいられると思っていたのに。
神様は残酷だった。

「好きな人に告白したら、OKもらえた」

耳がキーンと痛くなった。高いところから急に突き落とされた気分。
呼吸をする度に、息が苦しい。額から汗がこぼれ落ちた。

「よかったね、おめでとう、お似合いだと思う」

声が震えていたのが、自分でもよく分かる。表情が上手く作れない。

「いつも色々話聞いてくれて、ありがとう。やっぱり幼馴染は、頼りになるね」

嬉しそうに笑って、俺の手を握る。
――聞きたくなかった。信じたくなかった。嘘だと言って欲しかった。
作った顔で、笑い返した。愛しい横顔、その瞳に俺はもう映らない。
その後の会話が耳に入ってこなかった。たぶん、好きな人の話だろう。
ぼーっと遠くを見つめながら、一緒に歩いて帰る。左肩に下げていた、ボストンバックが重く感じた。


幼い時に約束した「大人になったら結婚しようね」と。
ずっとそれを信じていた。――嬉しくて。
幼稚園も小学校も中学校も、ずっと一緒で、ずっと隣にいた。 


俺のほうがずっと前から大好きだったのに。なんで、俺じゃない? 


悲しくて、悔しくて、それが痛みとなり体を抉っていく。
認めたくなかった、分かりたくなかった、時間が戻って欲しかった。
そんなこと言っても、思っても、どうにもならないのわかっている。


家に帰って、足早に部屋に向かい扉を閉める。
電気もつけずに、扉にもたれかかりながら、ずるずるとその場に座り込んだ。
涙が溢れ出た。喉の奥と鼻の奥がツーンと痛い。
しばらくしてから、立ち上がり、机の引き出しに向かった。
引き出しの中から取り出した、1枚の手紙。幼い時に「結婚しようね」と書かれた手紙を、ずっと持っていた。
もう、この想いを終わりにしよう。――さよなら。


      ビリビリと紙を破く音が部屋に響いた。

7/15/2023, 12:36:03 PM