『ふたり』
放課後の教室。
西日が差し込み
カーテンが風にゆれている
机に頬杖をつく私の目の前で
幼馴染が笑う
何でもない話をしているだけなのに、
その笑顔が近いだけで胸の奥がじんわり熱くなる。
…こんな時間がずっと続けばいいのに。
「今日はどこ寄って帰る?」
彼が何気なく言う。いつもの言葉。
ほんの少し前までは、それが当たり前の日常だった..
だけど、もうその日常は崩れかけている。
「ねえ!」
教室の扉が開いた
その声に彼が振り向く。
そこには
彼が最近よく話すあの女の子
眩しい笑顔で
私の隣を少しずつ奪っていく
「一緒に帰ろ?」
彼女の声は軽やかで、
それに応える彼の笑顔は
私の知らない表情だった。
そんな顔、私には見せたことない
胸の奥がズキンと痛む
視界が少し滲んだのは、夕日のせいにした
彼は鈍感だから...
私の気持ちにも...
彼女の気持ちにも気づいていない、
「じゃあ、三人で帰ろっか」
その優しさが苦しい..。
なにそれ…
ずるいよ。
でも、隣を奪われたくない...
……
気づけば、私は二人の後ろを歩いていた。
隣だったはずの場所が、
今は彼女のための場所になっている。
…私はただの幼馴染。
一番近くにいるはずなのに、
一番遠いところにいるみたいだ。
2人の笑い声が夕焼けの風に乗って、
私の心に突き刺さる。
――好き。
言いたいのに、言えない。
この空気が壊れるのが怖いから。
彼の視線が私から逸れるたびに
胸の奥の想いが重く沈んでいく。
カーテンが風に揺れて、
その影が私の顔を隠してくれる。
それが少し、ありがたかった。
きっと私は今、
誰にも見せられない顔をしているから。
『見知らぬ街』
ドライブ中
見知らぬ街に降り立った
ドキドキとワクワクで
なんとも言えない
不安の中
どこか懐かしい…
以前、どこかで
見たことのある風景に感じた
広大な敷地
田んぼ道
稲の香りと
心地よい風
そこから見える街並み
小さい頃
もしかして
来たことある?
「まさかね」
なんて考えながら
夕日を眺めて
1枚写真を撮った
その瞬間
胸の奥が、ふっと温かくなる
忘れていた記憶に
触れたような気がして
知らないはずの街が
不思議と
私の一部になった
『きっと忘れない』
きっと忘れない。
いや、忘れることはできないだろう。
畳の香る部屋、
夕日が差し込む台所、
手作りのいちごミルクを飲んだ、お風呂の時間。
そして、
シーンとした夜の部屋。
眠れなかったことを思い出す。
寝てしまえば朝が来る。
また朝が来てしまう。
でも、眠らなければ仕事に支障が出る。
それでも眠れない。
あのときのオルゴールの音は、
もう聞くことはできない。
同僚と会っているときは楽しいのに、
「じゃあね」と言った瞬間、涙がポロリ。
心に空いた穴は、
そんなに早くは塞がらない。
あのときの孤独は、
きっと忘れない。
心に刺さった深い傷は、
なかなか消えない。
私に向けられた言動、
心をえぐったあの人のことも、
一生忘れない。
許すことはしない。
でも、
あの人のおかげで、
生き方を変えることができた。
あの出来事があったからこそ、
今の自分がいる。
あの出来事があったからこそ、
強くなった自分がいる。
少しだけ、感謝している自分もいる。
許すことはしないけれど。
その出来事があったからこそ、
本当にやりたいことを見つけられた。
心が傷つき、悩んでいる人の
役に立ちたいと決めた。
悩んでいる人の笑顔を見るために、
国家資格を取ります。
悩んだ経験、
辛い経験を通して、
次は、
悩んでいる人を、
私が助ける番です。
あのときの記憶は、
きっと忘れることはできない。
けれど、
あなたのせいで…
あなたのおかげで…
感謝しています。
『君(犬)が見た景色』
お散歩のとき、
私は街並みを眺める。
青く広がる空、
道端に咲く小さな花、
遠くを走る電車。
でも、君は違う景色を見ている。
風に混じる匂いで
昨日の雨を思い出し
草の影に残る知らない犬の足跡をたどる。
人混みの向こうに、
見えない友達の存在を見つける。
家の中、
私はスマホやテレビに目を向けるけれど、
君はずっと私を目で追っている
台所に立つ私
スマホを触る私
笑う私
同じ場所にいても、同じ時間を過ごしても、
私と君の世界は少しずつ違う。
君の見ている景色はどんな世界?
『言葉にならないもの 〜犬の気持ち』
また、朝がきた
忙しなく階段を駆け回る足音
ジャーと流れる水の音
そのあとに
アタイのご飯が待っている
キミがカバンを持つ音で
アタイはもうわかってしまう
これから、夜まで会えなくなること。。
靴を履く音
カバンの鈴が鳴る音
全部、聞きたくないのに耳が覚えている。
「行ってきます」
キミは笑って言うけど、
その声の奥に、ほんの少しだけ
アタイの気持ちをわかってくれている優しさがある。
しっぽは振るけど、足は動かない。
ドアが閉まると、世界が小さくなる
音が消えて、キミの匂いだけが部屋に残る
アタイはその匂いを胸いっぱいに吸い込んで、
目を閉じる。
だって、こうして待っている時間が、
アタイと君をまた強くつなげてくれるんだって、
ちゃんと知っているから。
…(夜)…
聞き覚えのあるエンジン音が遠くから聞こえる。
アタイの耳は、もう知っている。
ほかの誰とも違う、その足音。
ドアが開く前から、しっぽは勝手に動く。
騒がないでなんて、無理だよ。
だって、キミがやっと帰ってきたんだ。
「ただいま」
キミは笑って抱きしめてくれる
手の匂いをくんくん嗅ぐと
今日も美味しそうな匂いがする。
その向こうに、アタイの知らない世界があるんだろうな
でも、アタイはそれより、キミの匂いが好きだ。
何も言わなくても、わかってほしい
今日、キミが少し疲れていること
だから、アタイはただ隣で寝ころぶよ。
撫でくりまわされても
抱きしめられても
アタイの匂い嗅いで
「臭っ!」
って言われてもいいんだ。
だって、アタイにとっての一番の幸せは、
キミがここにいて
アタイが傍にいることなんだから。