きらり

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9/14/2023, 8:42:28 AM

『夜明け前』

夜明け前の瑠璃色の空が、世界の終わりと始まりを予感させる。
もうすぐ夜の時間が終わる。もうすぐ朝の時間が始まる。
それは地獄か幸福か……。
どちらにしても時は止まらず、風は吹く。
それは呪怨か祝福か……。

夜明け前の瑠璃色の空が、世界の終わりと始まりを予感させる。
もうすぐ夜の時間が終わる。
今日の貴方はどちらなのだろうか、今日の私はどちらに流れるのだろうか。

9/11/2023, 9:52:40 AM

『喪失感』

君が居なくなってから何度朝を迎えたかしれない。
急に水平線を見たくなり、夜中にタクシーに飛び乗った回数は優に二十回は超えた。
誰もいない海辺に佇んで、誰もが有難がるご来光を独り恨みがましく見つめる。
あの日、街を飲み込んだ巨大な波は鳴りを潜めて慎ましい顔をして足下を揺蕩っている。
どうか無事でいて欲しい……。誰もが一縷の望みに縋っていたにも関わらず、大半は無言の帰宅となり、君も例に漏れず白い花となって帰ってきた。
どうして……? 何度も自分自身や誰かや何かに問い掛けたけど、未だ納得する答えなんて返ってこない。
君からの答えじゃなきゃ納得出来ない。
いや、それでもきっと納得なんてしないだろう。

急に水平線を見たくなり、夜中にタクシーに飛び乗って誰もいない海辺に来た。
そして今日も独り朝日を、世界を、君を恨みがましく見つめて想う。

8/30/2023, 8:22:07 AM

『言葉はいらない。ただ……』

言葉はいらない。ただ一度だけ優しい口付けを振り落としてくれればいい。
言葉はいらない。ただ一度だけ強く包み込むように抱きしめてくれればいい。
言葉はいらない。ただ一度だけ花が咲いたような笑みを向けてくれればいい。
ただそれだけでいい……。それだけで僕は何か救われたような、満たされた気持ちになる。

言葉はいらない。ただ君が傍にいてくれるだけでいい。
たとえ君の心に僕が入り込む隙間がないとしても。

8/22/2023, 9:56:00 AM

『さよならを言う前に』

「さよならを言う前に、嘘でもいいから愛してるって抱きしめて欲しい」
少しいびつに微笑む君の涙を拭って、僕は静かに抱きしめて嘘をついた。

他の誰かに閉じた想いを抱えてる僕に、それでもいいからとあの人と瓜二つの君と付き合い始めた。
それから二年半。周囲からそろそろ結婚か?と言われることが多くなった秋の終わり、僕の勤め先であるスーパーにあの人が買い物に来た。
服の中にスイカでも隠しているのかってくらい大きなお腹を抱えて、ゆっくりとカートを押しながら。
青果コーナーでの品出し中、何故か冷や汗が止まらなかった。どうか見つかりませんように……そんな後ろ暗い気持ちしか湧かなかった。
その日の夜、アポも取らずにあの人と瓜二つの君に会いに行った。
どうしたの? と迎え入れてくれた君を強引に抱いた。あの人の残像が重なって、ひどく淋しくなった。
隣ですやすやと寝息をたてる君を見ると、罪悪感が渦巻く。この二年半ずっと思ってた、好きになれればいいのにと。
だけど、心の奥底にまだ残ってた。純粋に消し去れないものが――。
だからもう手放そう。このまま続けていても変わらないし、変えられない。

週末金曜日の仕事帰りに公園で待ち合わせする。夕暮れの公園には何組かの恋人たちが思い思いにデートを楽しんでいる。
そんな彼ら達を避けてベンチに座る。キョトンと何かを待ち構える君に一言だけ告げた。
「もう会わない。別れよう」
「…………そう」
ぎこちない仕草でスカートの皺を伸ばす君が「最初から分かっていたから、気にすることないよ」と淋しげに笑った。
綺麗な言葉を欲しがって、君のぬくもりに甘えて、そのくせ愛すことは惜しがったくせに、ごめんの一言で失くすことを悔やみかける僕はなんて卑怯な人間なんだろう。
どんなにキスしたって、抱き合ったて君の心に繋がることさえしなかったくせに。
最後にワガママ言わせてと、君はゆっくり立ち上がる。
「さよならを言う前に、嘘でもいいから愛してるって抱きしめて欲しい」
少しいびつに微笑む君の涙を拭って、僕は静かに抱きしめて「愛してる……」と嘘をついた。

6/4/2023, 9:19:19 AM

『失恋』

修学旅行の浮かれた空気に乗っかって好きな人に告白したら、付き合っている人がいるから……と振られてしまった。
泣き腫らした私の顔を見て、友達がそれ見たことかと軽口とも慰めとも取れるような言葉を次々に投げて寄越す。
彼に恋人がいるという噂は聞いたことはあったけど、出処も分からない噂ごときに私の恋心は鳴りを潜めることはなかった。

だけど玉砕した。
出処も分からない噂は本当だった。
「だから言ったじゃん。泣きをみるのはこっちなんだから辞めておきなって」
「縁が無かったってことで諦めるしかないねー」
友達も同室のクラスメイトも慰めてくれるけど、目が笑っている。ざまあみろと。

うるせー!
お前らに私の気持ちの何が分かるって言うんだ?
一挙手一投足なにもかも一瞬だって見逃したくないって気持ちも、目が合った時に感じる胸の高鳴りと満たされてしまう幸福感も、好きな人に選んでもらえなかった悔しさも、その恋人への嫉妬も、君と好きな人が百年幸せでありますようにと願う気持ちも、全部分かってたまるか!

私の恋心は私だけのもの。
私の失恋の痛みも、私だけのもの。誰とも分かち合うつもりはないわ。
だから、宇多田ヒカルみたく悲しい歌はしばらく歌えそうにもない……。

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