きらり

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『さよならを言う前に』

「さよならを言う前に、嘘でもいいから愛してるって抱きしめて欲しい」
少しいびつに微笑む君の涙を拭って、僕は静かに抱きしめて嘘をついた。

他の誰かに閉じた想いを抱えてる僕に、それでもいいからとあの人と瓜二つの君と付き合い始めた。
それから二年半。周囲からそろそろ結婚か?と言われることが多くなった秋の終わり、僕の勤め先であるスーパーにあの人が買い物に来た。
服の中にスイカでも隠しているのかってくらい大きなお腹を抱えて、ゆっくりとカートを押しながら。
青果コーナーでの品出し中、何故か冷や汗が止まらなかった。どうか見つかりませんように……そんな後ろ暗い気持ちしか湧かなかった。
その日の夜、アポも取らずにあの人と瓜二つの君に会いに行った。
どうしたの? と迎え入れてくれた君を強引に抱いた。あの人の残像が重なって、ひどく淋しくなった。
隣ですやすやと寝息をたてる君を見ると、罪悪感が渦巻く。この二年半ずっと思ってた、好きになれればいいのにと。
だけど、心の奥底にまだ残ってた。純粋に消し去れないものが――。
だからもう手放そう。このまま続けていても変わらないし、変えられない。

週末金曜日の仕事帰りに公園で待ち合わせする。夕暮れの公園には何組かの恋人たちが思い思いにデートを楽しんでいる。
そんな彼ら達を避けてベンチに座る。キョトンと何かを待ち構える君に一言だけ告げた。
「もう会わない。別れよう」
「…………そう」
ぎこちない仕草でスカートの皺を伸ばす君が「最初から分かっていたから、気にすることないよ」と淋しげに笑った。
綺麗な言葉を欲しがって、君のぬくもりに甘えて、そのくせ愛すことは惜しがったくせに、ごめんの一言で失くすことを悔やみかける僕はなんて卑怯な人間なんだろう。
どんなにキスしたって、抱き合ったて君の心に繋がることさえしなかったくせに。
最後にワガママ言わせてと、君はゆっくり立ち上がる。
「さよならを言う前に、嘘でもいいから愛してるって抱きしめて欲しい」
少しいびつに微笑む君の涙を拭って、僕は静かに抱きしめて「愛してる……」と嘘をついた。

8/22/2023, 9:56:00 AM