『既読がつかないメッセージ』
君から送られてきたメッセージを何度も読み返す。
打ち明けられなかった秘密の仕事、ずっと認められていた僕への想い、追伸に書かれた大事な願い。
何度も読み返しては、君のことを想いを馳せる。
そうして当て所なく君へのメッセージを綴る。
後悔、言い訳、本当の気持ち、抱いている願望。
何度も、何度も送るも既読はつかない。
頭では分かっている。だけど……感情が、心が未だに追いつかない。
「おはよう」「今日はやっと晴れたね」「紅葉が綺麗に色づいたよ」「君の手料理がまた食べたい」
いつしか、ありふれた日常のことをメッセージで送るようになった。深い意味はないけれど、ひょっとしたら返事が来るかもしれないなんて淡い期待を寄せながら。
だけど、既読なんてつかない。
頭では分かってる。
だって、半年も前に君は亡くなってしまったから。
分かっているけど……感情が、心が未だに追いつかない。
そうして、僕は今日も既読のつかないメッセージを送る。
いつかこれが天国にいる君に届けばいいのにと願いながら。
『君と見上げる月』
全部覚悟して貴方の元を去ったの。
私じゃ貴方を護れないから。足手まといにしかならないから。
だから貴方の元から離れて、私に出来る闘い方をしようって決めた。
例え今生の別れになっても、それで貴方がこれ以上傷付かなくてもいいようになるなら……。
だけど、覚悟して来た場所は怖い人達ばかりで、意図的に傷付けようとする人達ばかりで、恐怖に飲み込まれないように立ってるだけで精一杯になる。
助けてって口に出しそうで、ここから連れ出してって祈ってしまいそうで、覚悟とチグハグな本心が淋しくて苦しい。
空を見上げれば、私の覚悟をせせら笑うような細い三日月が浮かんでいた。
絶対護るって君に約束したんだ。
中途半端な力を振るって、ビビって動けない俺の代わりに嬲られるように傷付けられた姿を見て、自分がたまらなく情けなかった。
だから、次は絶対護るって君に、己の魂に誓ったんだ。
なのに黙って離れた君の覚悟も気持ちも無視して、追いかけた。未練がましく右手に残った温もりを手放せなくて。
何故と問いただすことも、どうしてと責めることも、全部後回しでいい。
今はただただ、君の陽だまりのような笑顔をもう一度見たくて、会いたくて、どうか曇らないでいて欲しいと願う。
空を見上げれば、俺の焦燥感をせせら笑うような細い三日月が浮かんでいた。
『眠れないほど』
眠れない……。
ベッドの中に入って、目を固く瞑っても、今日あったことを思い返してしまう。
どうして、あの時あんなこと言っちゃったんだろう。
どうして、あの時もっと早く気付いていなかったんだろう。
嫌な気持ちにさせてしまったかもしれない。迷惑かけてしまったかもしれない。
そんな一人反省会が私の日課だった。
でも最近、ふと貴方のことを思い出すの。
朝、挨拶できたなとか……廊下で何回すれ違ったなとか。
目が合った時の貴方の表情、交わした会話を思い返してしまう。
不意に見せた貴方の微笑みが、なんだか眩しくて目に焼き付いてしまったみたい。
ベッドに入って、目を固く瞑っても、貴方の微笑みが鮮やかに瞼の奥で揺れているから、ドキドキする。
眠れない……。
早く明日になって欲しいのに、瞼の奥で貴方が笑いかけるから、眠れないほど貴方に恋しているの。
『声が枯れるまで』
声が枯れるまで歌い続けようと思った。
世界中のファンのため、自分のため。
だけど、本当は私を捨てたアイツに届けたいの。
声が枯れるまで歌い続けようと思った。
血が繋がっていなくても本当の父親だと、家族だと思っていたから。
たけど、本当は淋しさで押し潰されそうになるの。
声が枯れるまで歌い続けようと思った。
「世界一の歌手になったら迎えにきてやるよ」とアイツが言った言葉を信じているから。
あの言葉が、私の生きる全てだから。
たけど、本当は置いていかないで欲しかったの。
声が枯れるまで歌い続けようと思った。
誰か私の歌で癒されるから、世界中のファンが救世主を求めるから。
たけど、本当はもう引き返せないところまできてしまった。
ねぇ、この二年間で世界中にたくさんのファンが出来たよ。世界中のたくさんの人に私の歌は届いたよ。
私が皆を導いたら、新時代を築いたら迎えに来てくれる?
声が枯れるまで歌い続けようと思った。
いつだって貴方に届くように歌うから。
たけど、本当は新時代なんていらないの。
ただただ……貴方の隣りで歌っていたいだけなの。
『やわらかな光』
日曜の朝、目覚めて最初に目にするのは貴方の光る影。
チープな贋作の絵画を集めて、一枚づつ白い壁に並べていったね。
ベッドの上で貴方と二人、微睡みながら眺める時間が一番好き。
レースのカーテンから差し込むやわらかな光に照らされて白く映る貴方の影はかげろうのよう。
淡く溶け込むように消えてしまわないように、爪を立ててギュッと腕にしがみついた。