『忘れたくても忘れられない』
花が咲いたような君の笑顔が、未だに僕のまぶたの奥で鮮やかに残っている。
何度忘れようと酒を煽ってみたけど、寝付きが悪くなっただけだ。
手を伸ばして触れたくても、もう届かない。もどかしくて空中に手を伸ばしても、掴むのは細かな埃だけだ。
忘れたいのに忘れられなくて……忘れたくないのに、忘れてしまうのを畏れている。
あの時「愛してる」と言って君の手を取っていれば、何かが変わっただろうか。
最後に届いたメールを何度も読み返して、何度もまぶたの奥の残像に想いを馳せる。花が咲いたような君の笑顔が未だに鮮やかに忘れさせてくれないから。
『涙の理由』
君を思い返す時、いつも最初に思い浮かぶのは泣いてる顔だった。
教室で話しかけてくれる時はいつも笑っているのに、泣いてる顔の方しか浮かばないなんて皮肉もいいところだ。
優しい君は誰かが傷つく時、いつも心を痛めてた。
誰かを思って涙を流す君を見ても優しいヒトだなと思うだけなのに、自分のために泣いてる君を見ると美しいと、愛おしいという気持ちが湧いてくる。
どうしてそう思うのか、君に触れれば分かるだろうか。
君の涙の理由に触れれば分かるだろうか。
『たそがれ』
夕闇迫るお空はたそがれ時
さぁさぁ、良い子はもうお帰り
黒い影がどんどん伸びていく
夕闇迫るお空はたそがれ時
さぁさぁ、良い子はもうお帰り
黒い子供が一人増えていく
夕闇迫るお空はたそがれ時
さぁさぁ、良い子はもうお帰り
君の友達の半分は黒に染まってる
夕闇迫るお空は誰そ彼時
さぁさぁ、帰らない悪い子はこちらにおいで
ホントとマガイが交わっていく
夕闇迫るお空は誰そ彼時
さぁさぁ、帰らない悪い子はこちらにおいで
生と死の境目がぼやけてく
夕闇迫るお空は誰そ彼時
さぁさぁ、帰らない悪い子はこちらにおいで
逢魔が時とはよく言ったもの 人と魔が入れ替わる
夕闇迫るお空は誰そ彼時
さぁさぁ、帰れない子供はこちらにおいで
入れ替わったら最後、もう元には戻れないよ
『夜明け前』
夜明け前の瑠璃色の空が、世界の終わりと始まりを予感させる。
もうすぐ夜の時間が終わる。もうすぐ朝の時間が始まる。
それは地獄か幸福か……。
どちらにしても時は止まらず、風は吹く。
それは呪怨か祝福か……。
夜明け前の瑠璃色の空が、世界の終わりと始まりを予感させる。
もうすぐ夜の時間が終わる。
今日の貴方はどちらなのだろうか、今日の私はどちらに流れるのだろうか。
『喪失感』
君が居なくなってから何度朝を迎えたかしれない。
急に水平線を見たくなり、夜中にタクシーに飛び乗った回数は優に二十回は超えた。
誰もいない海辺に佇んで、誰もが有難がるご来光を独り恨みがましく見つめる。
あの日、街を飲み込んだ巨大な波は鳴りを潜めて慎ましい顔をして足下を揺蕩っている。
どうか無事でいて欲しい……。誰もが一縷の望みに縋っていたにも関わらず、大半は無言の帰宅となり、君も例に漏れず白い花となって帰ってきた。
どうして……? 何度も自分自身や誰かや何かに問い掛けたけど、未だ納得する答えなんて返ってこない。
君からの答えじゃなきゃ納得出来ない。
いや、それでもきっと納得なんてしないだろう。
急に水平線を見たくなり、夜中にタクシーに飛び乗って誰もいない海辺に来た。
そして今日も独り朝日を、世界を、君を恨みがましく見つめて想う。