「一つだけ無人島に持ってけるとしたら何持ってく?」
ある日の昼下がり。私達は再来週に迫ったテストに向けて、近くのファミレスに集まっていた。
初めて2時間。集中力もいよいよ限界だった。
何より親友4人も集まれば盛り上がるのも仕方がない事だった。
「ちょっと!集中してよ!」
「いいじゃーん。ちょっと休憩休憩!」
「うーん。やっぱライターかな?火があれば色々出来るし」
「ちょっと!話聞いてよ!」
王道な話だが、人間性のでる面白い問題だ。
話は進む。
「私食料かな〜。パンとかお肉とか、バックにありったけ詰めて持ってく〜!」
「え、それ反則じゃない?1個じゃないじゃん」
「いいでしょ〜!バックに詰めたら1個だよ!」
「うちは友達連れてく。一人で無人島とか絶対無理」
「あんた、意外と寂しがり屋なの〜?」
「いや、食料とか、寝床とか一人で作れない。せめて誰か一緒にやってくれる人がいないとすぐ死ぬ」
「こき使おうとしてるだけかよ!」
「もう。私は本一択。正直無人島でなんか生きてけないし」
「余生を本読んで終わらせるって事?」
「まあ、そうかな。波の音を聞いてゆっくり本を読むの」
「へ〜。あんたっぽいかも〜」
ウェイターがポテトを運んでくる。
皆各々つまみながら休憩は続く。
「でも、ライターって王道だけどいざ持ってくとなると
不便じゃない?オイルなくなったら終わりだし」
「うちも思った。火ってそんなに使わなくね?」
「いやいや!火があればご飯食べれるし、身体温められるし、救助のサインを作ったり色々応用できるじゃん!」
「その"ご飯"がなければなんにもできないじゃーん。やっぱり食料だよ。ご飯食べなきゃ結果なんにもできないよ〜!」
「いや?持ってける量に限りがあるならあんまライターと変わらん」
「思った!一つって言ってるじゃん!」
「うえ〜。カバンに入れてもダメですか〜?」
「いやいや。ダメです」
「ぐすん」
「そう思ったら、友達ってのは結構いいチョイスなんじゃない?!使い方はあれとして」
「そうだろう。人間一人では生きていけない」
「でも〜。ずっとその人と一緒なんでしょ〜?人によってはめっちゃ揉めそう」
「ありそうね。あんたは働かないタイプだし、3日で殺し合いになる未来が見える」
「殺し合いって。でもこいつはなりそー!」
「失礼な。私の言うことをよく聞く奴を連れていくんだ」
「さいてーすぎー!」
「1番ないのは本かも。死を受け入れるって性にあわない」
「でもいい選択かも〜。たった一つの道具でなんか生きてける訳ないし」
「現実主義すぎるかもだけどね。私は結構受け入れちゃうかも」
「なんか想像出来るわ。木陰で本読むあんた」
「でしょ。」
「なんにせよ、一つだけって難しいわ!自分の中の大切なものを一つ選ぶようなもんじゃん!」
「確かに〜!本然り友達然り、大切なものだけじゃ生きてけないからね〜」
「それ。てか大切なものってものじゃないし」
「でも人柄がよく出ていい話だとは思うわ」
ポテトはなくなり、勉強道具は端に寄せられている。
ある日の午後はすぎて行くのだった。
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めっちゃ雑な終わりになってしまった、、、😭
キャラの個性を話し方に出す練習だと思って貰えれば、、、
後で書き足すかもです
クラスの投票の結果、私たちのクラスの合唱曲は"大切なもの"になった。
学生時代に気付けなかった友情などの大切さを歌った割とメジャーな曲だ。
私はこの歌は歌わない。指揮者になったからだ。
これもまた、投票で決まった。
9月の後半にある合唱祭に向けて、金賞を狙う私達はかなり早い段階から練習を始めていた。
が。
長い夏休みが終わり、学校の授業を身体が思い出し始めた9月の頭。合唱曲は未だ未完成だった。
原因は主に2つ。
一つ目は合唱祭への思いにムラがあること。
二つ目はクラスのとびきりの音痴、村上くんの存在だ。
村上はいつも教室の隅でぼんやりしてるタイプの男子だ。話せば答えるがいまいちノリが分かっていない感じがするので、みんな積極的には話しかけなかった。
なので誰も知らなかった。こいつがこんなに音痴な事も。それをあまり恥じないタイプだということも。
クラスには村上のせいで合唱が上手くいかない、みたいな空気が出来上がってしまっていた。
皆で合わせる度に村上の方をチラチラと見て、クスクス笑ったり、不満の目配せをしたり、とにかく良くない空気だった。
その日の練習もそんな空気のまま終わるかと思われた。
私が楽譜台を片付けていると、片山さんが女子を引き連れて嵐の如くやってきた。
片山さんはこのクラスのボス的存在だ。彼女の言葉がクラスの言葉になる。私を指揮者に推薦したのも彼女だ。
「ねえ、前田さん。村上のことどうにかしてよ。」
「、、、え?」
「わかってるでしょ?あいつがいると空気悪いんだよね。口パクにするか、当日休むか説得しといて」
片山さんはかなりご立腹の様子だ。
彼女は誰よりも合唱祭に熱を上げている。よく男子を叱って泣くというパフォーマンスをなさる。
「いや、村上くんも頑張ってるし、、、」
「はぁ?そういうの要らないから!今クラスがどういう雰囲気か分かってないの?」
「それは、」
「あんた指揮者なんだから、そこら辺もしっかりして貰わないと困るから。とにかく、次の練習までによろしくね」
言いたい事だけ言って踵を返す。下ろした髪が見本のようにふわりと広がった。人の気持ちも知らず周りの子達と楽しそうに笑っていってしまった。
私は片山さんと反対方向に踵を返した。気力なく振り返っただけなので、髪は広がらなかった。
次の練習は明日の朝だ。つまりこの後すぐ言わなくては間に合わない。腹を決める時間もなくフラフラと学校を彷徨っていたら、見つけてしまった。
いっその事もう帰って入れば言い訳も出来るというのに、トイレから出てくる村上くんとかち合った。
「あ、村上くん。あの、」
なんというべきか。本人を前に歌が下手だから口パクで歌って欲しいなんて言えるわけが無い。
言葉を考えながらもごもごと喋っていると、村上くんの方から話しかけられた。
「彩雨さん、ちょうど良かった。合唱の事なんだけど」
「えっ?」
「彩雨さん、指揮もうちょっと大きくやった方がいいと思うよ」
「、、、えっ?」
「あの曲、ゆっくりとしたテンポだから小さい指揮だとハモリがズレる。」
「、、、はぁ」
「サビのところは特に大きくすると、かっこいいと思う」
顔に血が集まり、名も無き激情に踵が浮いた気がした。
文句を言おうとした相手に、逆に文句を言われるなんて
悔しい。そう思った。
指揮が小さいなんて。何よりそう思ってるのは私だ。片山さんに押し付けられた指揮者だけど、本当はやりたくて仕方がなかった。
片山さんが言い出した時には、笑いそうになるのを必死で堪えたくらいだ。
でもいざ指揮をするとなると、想像以上に皆の視線が集まって、緊張で身体が縮こまる。それでズレる。焦る。小さくなる。その繰り返しだった。
「む、村上くんだって、もうちょっと練習した方がいいんじゃないっ?音全然ズレてるし、」
言い終わって不味い、と思った。
焦ってたとはいえ、言っていいことと悪いことがある。
怒るかな。慌てて言葉を足す。
「最初よりはよくなったけどね!?入りのとことか!」
村上くんの顔なんか見れなくて、ぎゅっと手を握る。
変な事言わなきゃ良かった、、、!
しかし、返ってきたのはあっさりとした口調の言葉だった。
「うん。そうだよね。もっと練習する」
「、、、え?」
「カラオケとかで練習してるんだ。よく分かるね」
「あ、うん。誰よりも聞いてるからね」
思わず村上くんの顔をじっと見つめると、向こうは少し悩むようにしてから、言ってきた。
「彩雨さん、そういうのもっと言った方がいいんじゃない?」
「アドバイスってこと?無理だよ!」
片山さんもいるクラスにアドバイスなんて言えるわけが無い。見つめられる視線を思い出すだけで緊張する。
「でも、いつも思ってることあるよね?言わないだけで」
「まぁ、ないことは無いけど、、、」
「なら、言うべきだよ。彩雨さんが思うより皆は君に期待してる気がするし」
特に片山さんとか。と言いつつ、まっすぐこっちを見つめてくる。
「きっとクラスの空気を変えれるのは彩雨さんだと思う。俺も頑張って練習するから」
肩の力がどっと抜けて、初めて村上くんの顔をまっすぐ見つめた。嘘をついてる訳でも、からかっている訳でも無さそうだった。
そう思ったから言った。きっとただそれだけなんだろう
だからこそ、信じれた。やってみよう。そう思った。
「頑張ろうね、彩雨さん」
そう言うと村上くんは呆気にとられた私を置いて、スタスタと行ってしまった。
そういえば村上くんは私の事を名前で呼ぶ。そんな些細なことも気がつけなかった。
私は息をグッと吐くと、村上くんと反対方向に振り返った。髪がふわりと広がった。
やっぱり私はこの歌を歌わない。歌えない。
学生時代が終わる前に、友情や大切なものに気がつけそうだから。
スマホを睨んではや数時間
もうすぐ午後になってしまう。
午後になるともう嘘はつけない。
あまり普及していない事だが、自分は知っているので守らない訳にはいかない。
何がいいだろうか。
彼氏ができた。ありきたりすぎるか。
宝くじが当たった! うーん。イマイチ。
髪を染めてみたの。ばれやすすぎる。なし。
どうしよう。
もういっそ、送らなくてもいいかもしれない。向こうだって意識してるかなんてわからない。向こうから連絡はこない。今更エイプリルフールなんて恥ずかしいかも、、、
なんとか相手と会話がしたくて必死になって考えるが、もう心が折れそうだ。でもどうにかして相手と繋がりがほしい。
、、、いっそのこと、とびきりの嘘をついてやろうか。
好きです。ずっと前から。貴方のことが。
エイプリルフールでついた嘘は叶わない。らしい。
でもどうせ叶わないなら、この機会に。
、、、いやいや!よくない。よくないぞ、私。
第一、今日言うなんて逃げ道を作っているみたいで嫌だ。そんな生半可な気持ちで片想いしていない。
ああ、どうしよう。
正午まで30分を切った。意味もなく焦る。
もう待ち合わせ時間だよ?とか。フレンドリーすぎるか
実はピアノが弾けるの。明らかに嘘。もう!
来月転校するの。あ、意外といいのでは?
いそいそとメッセージアプリを開き、文字を入れたところで妙に緊張してくる。
なに自然にメッセージ送ろうとしてんの、、、?
日常会話も緊張するのに?
ここにきて、我に返ってしまった。
心のどこかでは、「言っちゃえっ!」って言ってるけど、無理無理。せめて1,2時間は心の準備が必要だ。
もうそんな時間はない。
泣く泣くアプリを閉じる。何をやってるのだろう。
枕に倒れ込む。
ピコン
なんだよ。私は勝手に傷心中だぞ。
今更エイプリルフールネタは聞かない!
そう思いつつ、チラッとアプリを覗くと、え⁉︎
なんで⁈
まさかの彼からメッセージ。これすら嘘か?
恐る恐る開く。
【いきなりでごめん。実はずっと前から好きだった。】
、、、ふざけんな。そうやって、いつも思わせぶりばかり。
涙が出てくる。嘘でも嬉しいから。
一旦スクショ。それからティッシュ。
返信は最後だ、ばーか。
【エイプリルフールですか?分かりやす過ぎますよ〜】
すぐに返信が来る。
【嘘つけるのは午前だけだよ。時計見てみて】
え?
12時4分
最初のメッセージが送られてきたのは1分
え?え?
【急だけど、考えて欲しい。絶対大切にする】
う、嘘じゃん。
幸せに生きた
そんな言葉を信じられるほど、私は子供じゃなかった
窓を流れていく景色に緑が多くなるほど彼女の笑顔が脳裏に浮かび、吐き気がした。
社会人3年目の私は初めて法事で有給をとった。一泊二日で地元に帰り、中学の時の親友の葬式に出る予定だった
上司はもっと休みを取ったらどうだと言ってくれたが、そんな長い時間彼女の死と向き合ってはいられなかった
それほどには親しい相手だった。
五日前、母から連絡が来た。淡白な文言だった。
「美春ちゃん、亡くなったらしいよ。自殺だって」
自殺。自分で、死ぬ。
首吊りかな?と思ってる間に葬式に出る予定が私の人生に加わった。地元にいく新幹線のチケットも財布に加わった。
そこから今この瞬間までそれ以上の感想が浮かばないのは、美春の死に化粧よりわざとらしいほど強く引かれたアイラインが浮かぶからか。
美春は自由な人だった。
濃いアイラインもそう。教師に殴りかかる度胸もそう。
「ダサい!」と叫んで私の前髪を切る笑顔もそう。
頭の硬い私はそんな美春との出会いが、人生の分岐点になったとはっきりと思ってる。今ファッション関係の仕事に就いているのが何よりの証拠だ。
奇想天外の彼女の良き友人であったと自負していたし、彼女もまた私の良き友人だった。
そんな場違いな自信も遺影の前で打ち砕かれた。
なんで、なんで。
そんな疑問が鼓動と共に全身に巡った。時間が経つにつれ鼓動は大きくなり、全身をめぐり、顎の裏が震えた。
周りは今までに見たことのない配色をして、空気に気持ちの悪い動きがあるように感じた。
何も出来ずに葬式は終わり、私は美春のお母さんと話すことになっていた。
「今日は来てくれてありがとうね」
「いえ、別に、、、」
美春のお母さんと話したのは今日が初めてだった。
何度も家にお邪魔して、泊まったりもしたのに、だ。
美春曰く「自由な人だから!私と一緒!」らしい。
実際海外に飛び回って仕事をしてるらしく、日本に帰ってきたのは久しぶりらしい。
麗奈、と名乗ったその人は、雰囲気が限りなく美春に似ていた。
「恥ずかしい話、私は美春の事を何も知らないの。仕事もあったけど、お互いに話をするような関係じゃなかったし、、、」
「、、、美春が死んだ事はどうやって知ったんですか?」
一瞬ぎゅっと眉間に皺を寄せて、涙を堪えるようにした後、ゆっくり話してくれた。
「美春自身から、連絡が、っあったの」
「え?」
「お酒でも呑んでたのか、やたらテンションが高くて、『楽しんだ!もう死ぬわ!』って。何かの冗談かと思ったわ、、、」
「すぐに電話は切れてしまったのだけど、すごくやな予感がして、飛んで帰ってきたの。そしたら、、、」
「すみません、こんな事を聞いて、」
咽せるように涙を流す麗奈さんに釣られるように悲しさといつものが溢れてくる。それと一緒に怒りも溢れてくる。もう死ぬ、なんて。なんて身勝手なのか。
おそらくこまめに手入れをしているのであろう背中をゆっくりさすった。彼女の鼓動が伝わってきた。
しばらくすると「ありがとう」と涙を拭いながら顔を上げた。
「よかったら、美春の話をしてくれない?中学の友達なのよね?」
「えぇ。えっと、、、美春は、、、その、、、」
私は急に舌が回らなくなった。美春のせいで働かなかった頭が美春を思い出す事で働き始めたからだ。
ど、どうしよう。どこら辺を話せばいいのだろう。
いじめっ子殴って停学になった事などの問題の数々を、この人はそもそも知っているのか?
死人に泥を塗る事は忍ばれる。だが、泥をなくして美春を語れない。
「美春、は、、、幸せそうな、人でした。そう。幸せに生きる!ってのが、美春の口癖でしたし」
おどおどと、ありきたりな事を言う私を不思議そうに見てくる視線が痛かった。だが、自分の中では言葉が美春の姿を作っていくのを感じた。
「学校をサボって、川に行ったことがあったんです。本当は海に行きたかったんですけど、お互いにお金がなくて、」
「あの裏山の川で?よく、、、」
「当時はなんでも楽しかったんです。コンビニでジュースを買って、川に入ったりして、一晩中騒いでたら夜が明けてて」
視線が下に落ちる。懐かしい。
ああいう遊びは大抵美春が提案した。だけどその日は私が行きたいって言ったんだ。なんでだっけ、、、
「遊んでたところから朝日がよく見えて、二人で眺めました。そこで美春が、、、」
そうだ。思い出した。その日は美春の口数がやたらと少なくて、わかりやすいなと思いつつ遊びに誘ったんだ。
なんで、なんで落ち込んでたんだっけ。
とても大切なことだった気がする。
朝日をみる美春の横顔がありありと思い出させる。
そこで何をしたんだっけ。
「えっと。それで、美春が何か言ったの?」
パチンと目の前が開けた。
五日前から萎んでいた私の体が内側からぐーっと膨らむような感覚がした。空気が体の中に入ってきたり
そうした途端、涙が溢れて仕方がなかった。
体の深いところから声が出て、胸が引き絞られるように痛んだ。
これだけ泣いた事は今までの人生でなかったから止め方がわからなかった。
「え?え?どうしたの?」
麗奈さんは大層驚いただろう。いきなりこんなになきだしたのだ泣き出したのだ。
「美春がっ、美春は、言ったんです!あの時に決めたんだ!」
「落ち着いて?美春は何をいったの?」
さすってくれる麗奈さんの喪服の裾を無遠慮に掴んで、それでもなお言葉を重ねた。
溢れて溢れて仕方がなかった。
「美春は、幸せだったんでだったんです。幸せに生きれたから、死んだんです」
「幸せだったから?」
「はい、、、はい、、、!友達が、居て。楽しい事をして、お酒を飲んで。おしゃれを、っして。幸せにっ生きたから、、、美春は、、、」
「美春が?でも美春お酒は、、、」
麗奈さんは心底わからないという顔をしていた。
この人にはそれがわからないのか、と一種の軽蔑じみた感情が湧いた。
感情がぐちゃぐちゃだった。安堵、喜び、悲しみ、失望
ただひたすらに美春の為に泣いた。
川で遊んだあの時、美春が言ったこと。
『決めたの。私幸せに生きる。したい事、やりたい事、全部やる!そして、死んだ後も幸せになれるって思ったとこで死ぬ!』
なんだよそれ。そう思ったし、そんなような事を言った気がする。美春はパッとこっちを向いて、ニカって笑った。
『どうせ死ぬんだよ、人間』
『そうだね』
『だからいいところで、死にたくない?』
『いい死に方をする為に、生きるって事?』
『それは違う〜!』
『つまりどういうことよ』
『いい生き方をするから、いい死に方ができるの!いい生き方ってのは、自分に嘘をつかないってこと!』
少し、溜めて。真面目な顔して、向き直る。
『だかだからさ。あんたも人生、いいように生きよ?』
なんだよ。まじめぶるなよ。
その言葉を大切に、今後の人生を、生きるしかなくなるじゃないか。
美春だって、嘘ついてるじゃんか。
死にたかったんでしょ?本当は。私と出会うずっと前から。
美春の人生に誰が何がどういうふうに関わっているか知らなかった。言ってくれなかった。きっと美春自身も、そんな事は大して気にしていなかったから。
美春の最大の関心は、幸せにいきること。ただそれだけだった。
死んだと聞く一カ月前、美春と電話した時を思い出す。
『私もあの町から出てね!こっちで就職したの!都会ってすごい!今、人生めっちゃ幸せ!あんたは?』
『ふふ。私も幸せだよ。おかげさまでね』
あの時の満足そうな笑い声。
美春はあの時本当に幸せになったのだ。
川で見た横顔が、遺影の笑顔に変わっていく。
ぼんやりと、不幸だったのだ。美春は。
でも私や他の人と出会って、世界を見て、本当の意味で幸せになれたのだ。だから、死んだ。
馬鹿野郎。お前はほんとに馬鹿だ。
あまりの馬鹿さに言葉に出来ない。
懐かしさすら感じる。
そうだ。これは、私を殴る父親の前に立ちはだかった時と同じ馬鹿さだ。
幸せになって終わりじゃないんだよ。そんな簡単なことすら、教えてやれなかった私はもっと馬鹿だ。
「美春。幸せに、生きたんだね」
でも、一言くらい言ってくれてもよかったよ。
気づかなかったら、どうしたんだよ。
自分の不甲斐なさ、無力さに力が抜けた。
美春の馬鹿さに、愛おしさに笑みが溢れた。
幸せに生きよう。そう思った。
幸せの先もあるって事を教えてやろう。
だから今は、泣かせてほしい。
親愛なる友人の死後を幸せにしてやる為に。