珊瑚樹

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誰よりも、ずっと

今日は、次の全国大会に出場する選手が発表される日だ

出場出来る人数は8人。
それぞれの得意なポジション、技術、練習量を監督が見て、判断する。

私はこの大会になんとしてでも出たかった。
小学校の時に始めてから今日まで、誰よりも努力してきた自信があった。部員の誰よりも練習してきたし、真剣だった。

練習が始まった時から心做しか皆ソワソワとし、早く監督が来ないなと待ち構えていた。

でも私は出来れば来ないで欲しいと思っていた。
メンバーの発表をされたくない。
皆が集まり、名前を呼ばれる場面を思い浮かべるだけで手が震え、体が冷えた。

私がこんなに緊張するのは、この部活のエースのせいだった。
あの子は高校から部活を始めたのに私と同じくらい、いや、私以上に上手かった。私と同じポジションをする事もあって、一緒に練習すればする程才能とは、こういうものかと思い知らされた。

天才は、才能だけでなく努力もする。工夫もする。
才能は努力に勝てないと言っている人は、その程度の天才にしかあったことがないだけだ。

そんな人間を前にしても、私は腐らなかった。
この部活の大将を任され、この部活を引っ張る者として責任を持っていた。

その結果が、これから発表される。
勝つのは才能か、努力か。それがはっきりと思い知らされる。これ程怖いことはなかった。

体育館の入口から監督の声がして、集合がかかる。
私の心臓はこれまでにないくらいざわめき、冷や汗が止まらなかった。

「それではメンバーを発表する」

監督の言葉も耳に入らず、気づけば名前が呼ばれていく
あぁ、あの子がそのポジションか。この子入れたのか。
半ば現実逃避的に聞いていれば、私のポジションの番になる。

お願い。お願い、、、!

だが、私の名前が呼ばれる事はなかった。


練習再開の掛け声がかかり皆が散っていく中、私は動くことが出来なかった。涙が止まらなかった。
ぼやける視界の端には、エースが真っ直ぐ前を向き、だが私の傍で立っていた。

分かっていた。誰よりもずっと、この子の努力を見てきたのは私なのだから。

高校から始めたから、他の人の足を引っ張らない様にと
私に追いつく為にとを朝早くから夜遅くまで練習しているのを知っていた。

他の誰よりもこの子がメンバーに入れたことが、誰よりも、ずっと嬉しかった。

溢れる涙は止まらなかったが、私は負けた訳ではないということが隣の気配から伝わってきた。



4/9/2026, 1:01:56 PM