消えない灯り
「想い」
昔の事を思い出す。
自分の生まれから今までのこと。
ほとんどが思い出したくないことばかり。
良い思い出や楽しかったことを探すけど、頭の中で繰り返し思い出されるのは悲しい過去たち。
両親の事、子供時代、貧しかった生活、憎しみ合った人、余命告げられ静かに1人亡くなった母、人知れず末期がんで孤独に亡くなった義父
自分に出来たこと、出来なかったこと。
もう2度と語られることの無い人たちの思い、伝えきれず今も胸を締め付けるこの想い
残すべき、忘れるべき、伝えるべき
静かに永遠に消えていったこれらの想い。
全て無に帰った
命も想いも無に帰った。
空に風に星に海に山に夕焼けに夢にまぶたに心の奥に…
今日も流れる血潮の中に涙の中に
震える胸に…
そして時々季節外れの蝶🦋が飛んで羽ばたいて空へ帰る。
冬の足音
目が覚める、窓の向こうの空を見る
真っ白な空、雲か霧か霞か違いは何か…
静かだ。完全なる無音。
この世に自分だけのよう…
ガバっと起きて掛け布団を半分に整えてたたみカーテンを開ける。
チラチラと小さな雪が舞っている
薄っすらと隣の屋根に雪が積もっている。
この世の汚いものを全て白く隠してくれた雪。
足音もなく静かに、ふんわりと優しく、それでいて逃げ場はない…どこもかしこも平等に白い。
自分の心を開きにして外に置いたら同じ様に汚れない白さで隠してくれるだろうか…
変幻自在の水の姿、氷の結晶❄️そして雪、重い雪、固い氷、解けて汚れて川に流れ海に帰る。
今自分はどの時点なのだろう…
汚れの無い心で海に帰ることはできなかったのだろうか…
最初はドカドカと突然の、様々な出会いや別れ。
今穏やかに音もなく流れる川べりの落ち葉の様に浮かんだり、沈みながら…
大きな海へと導かれて私は今生の冬の到来を全身で受けよう。
霜降る朝
自分は器用な方だ。
新しいことを聞いたり、学んだり形にしたり…
すぐそれなりに出来てしまう。
できない分野もあるけど…例えば計算する、パソコンや携帯の使い方等
でも1番苦手なのは人間関係だ。
何が正解かわからない。
様々な仕事を経験してきたのでコツを掴むのは早い。
家族にしても会社関係にしても学校関係にしても…
自分の常識が他の非常識であることはよくある話。
それでも自分が正しいと思うことを信じて生きるしかない。
人と比べても正解がわからないのだから。
時と場所と時代と人と信条と…
でも少しずつ確かな事は分かってきた。
確かな事、真実。
霜降る朝はとても静かで…厳しく寒いということ
季節の巡りの中で、厳しい自然は教える。
人間の弱さ、たくましさを…
紅の記憶
私はすぐ怒る。
誰にでもなく決まってある人だけに瞬間湯沸器となる。
何故かイラッとするスイッチを彼だけが持っていてちょこちょこ押す。
怒鳴られる本人も嫌だろうが、周りの人は何事?と驚き私を見る。
悪いのは怒りキツイ言葉を飛ばす私と周りの視線が教える。
小さい頃、同じ様な空気感に何度も出会った。
やはり悪いのは母親でかーっとなって大声をあげていた。
たぶんその時もスイッチを何度も押していたのは父親だったんだろう。
怒りを抑え自分を抑え何も言い返さない人間だったら、母親は心の病になっていただろう。
言いたいことを言った後は引きずらず明るく過ごしていたように思う。
後半何度か巻き込まれ車で駆けつけ
仲裁したことがある。
少しずつ自分も似てきたと自覚するようになり、母親の血がそうさせるのだと思ったものだ。
鮮やかな激昂の紅の記憶は私から娘に繋がって永遠なのだろうか?
夢の断片
学生時代地図を眺めるのが好きだった。
大きくなったら世界を周る仕事に就きたいと。
結局日々生きるのに精一杯でそれどころではなかった。
海に潜る仕事に憧れて問い合わせたら土地の者ではないからと断られた。
今なら色んな選択肢があり、
情報もあるけど自分が若い頃は無知なだけだった。
考えてみたらあまり泳げなかった。
小さい頃からの夢を思い出してみると、自分の家の縁側に孫たちに囲まれ夫婦年老いていく事だった。
自分には自分の家というものがなかった。
家族も居なかった。
かろうじてケンカばかりの私達夫婦が子供を叩きながら育てたことのみだ。
子供達はそれぞれ自分の心と向き合い折り合いをつけ親を乗り越え、それぞれの家庭を持った。
そして子供を産み育て家を持ち立派な大人に成長していたのだ。
それは私達親のおかげでもなんでもなく…こんな親を持ってもこんなにちゃんと自立できたのだと証明してくれたのだ。
そんな私達でもなんとか自分達の家を持ち、沢山の孫達に囲まれている
変わらないのは今だにケンカばかりだということだ。
それでも今まで叶えられない夢ばかりだったけど、最後の最後に1番難しいと思っていた夢が叶えられたのは奇跡としか思えない。
誰に感謝すればいいのか…
若い頃の自分に、笑うことも夢をみることも忘れ、必死にもがいていたあの時の自分に伝えたい。
今通り過ぎていく夢の断片に初雪が積もっていく。