小説を投稿する璻(すい)

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8/2/2021, 9:13:44 AM

'明日、もし晴れたら'


いつからだろう、ただの友人だった彼が特別になったのは。
いつからだろう、勘違いで済ませられたその感情がもう溢れてしまいそうな程膨らみ始めたのは。

いっそ言ってしまった方が楽なんだろうけど。今の距離が心地よくて、離れたくなくて。でもこんなこと続けていたら、いつの間にか彼の隣には可愛い女の子が並んでるだろうに。
ひとりになるとうだうだ考えだすのを止めるためテレビを付けた。天気予報がやっている。
「明日は、全国的に雨になるでしょう」
と、お天気お姉さんの声が静かな部屋に響く。

明日、もし晴れたら。彼に、この気持ちを伝えよう。
どうしようも無いこのモヤモヤをどうにかしたくて。でも勇気が出なくて、上手くいかなかったら誰かのせいにしたくて。そんな意味の無い予定を立てた。

7/2/2021, 10:49:04 AM

'日差し'

「ん、ふぁ…」
朝の眩しさで目が覚めて、小さな欠伸を1つ。
今何時だろう、あぁでも今日は休日だからいいか。
もう一眠り、と体制を変えて、そこで横で眠る貴方に少し手が触れた。
可愛い。誰に言うわけでもなく微笑んで、はだけかけている布団を優しくかける。ついでに抱き寄せる。
白い毛布と、抜けるような肌が窓から漏れた日差しに滑る。
朝起きたら貴方が隣にいて、朝一番に貴方の顔を見ることが出来て、抱きしめることができるなんて本当に幸せだなって、そう思う。
幸せに溺れながらまた、目を閉じた。

7/1/2021, 12:21:51 PM

'窓越しに見えるのは'


窓際、前から5番目。一番グラウンドが見わたせるここが、特等席。
今日も、野球を励む彼を見る。ボール拾いを一生懸命、時折地面の砂をいじりながら。休憩時間は必ず木陰の下で水飲んで、ちょっとだけ校舎を見渡す、そんな彼を。
その姿を目に焼き付けて、手元のキャンバスに筆を置いた。下書きもなんにもしないのが、より自然な絵の感じがして好きだから、こんな風に書いていく。

ふと、窓から風が入ってきた。思わず目を向ける。すると、校舎の近くのボールを取りに来た彼と目が合った気がした。
体感、1分。でも実際には3秒くらい。
ふわふわした気持ちが抜けなくて、呆然と窓の外を見つめたままで立ち尽くす。

彼が、またこっちを見たような。
窓越しに見えるのは、そんな幻想。

6/30/2021, 8:11:55 AM

'入道雲'


「なーにしてんの」
「うおっ、」

背中にのしかかった重みに、思わず目の前の靴箱に手をついた。出席番号23番、ごめん。靴ちょっと潰した。

「見たらわかるでしょ、今から帰んの」
「今日は部活ないんですか?」
「せんせーが用事あるんだって」

ふぅん、と手に持っていた靴を投げて、はいている彼を横目に、自分も靴をとってはく。

「じゃあ、一緒に帰りましょうよ。」

かかとをトントン、と鳴らしながら彼がそう言った。初めからそのつもりで、わざわざ3年の靴箱近くまできたんだろう。そういうところは可愛いなと思う。

「いいよ」



キィ、と微妙に立て付けの悪いドアを開ける。外の熱気が頬をかすめて、足を踏み出すのを渋った。けど、後ろから彼の視線を感じる気がして、押されるように外に出た。少し遅れて、同じような足音が聞こえる。
7月になったばかりの日差しが、コンクリートにはね返って容赦なく照りつける。暑い。

「暑いっすね」
「夏だからね。」
「先輩、俺、アイス食べたい」
「買わねぇって」
「ケチ」
「お前には言われたくねぇなぁ」

くだらない会話を交わして、笑って、こんな毎日が続けばいいなと思う。こんな、つまらない日常を愛していると、思う。

「あ、ねぇこっち日陰」
「おぉ、涼しい〜」

手を引かれ、彼に連れていかれたそこは、周りとは違う場所かのように思える。さっきまで突き刺すようだった日差しが緩み、眩しくて見れなかった空を覗いた。

「あ、入道雲」
「本当だ」

夏だね、そうだねってまた。
こんな毎日が続けばいいのにね。