'入道雲'
「なーにしてんの」
「うおっ、」
背中にのしかかった重みに、思わず目の前の靴箱に手をついた。出席番号23番、ごめん。靴ちょっと潰した。
「見たらわかるでしょ、今から帰んの」
「今日は部活ないんですか?」
「せんせーが用事あるんだって」
ふぅん、と手に持っていた靴を投げて、はいている彼を横目に、自分も靴をとってはく。
「じゃあ、一緒に帰りましょうよ。」
かかとをトントン、と鳴らしながら彼がそう言った。初めからそのつもりで、わざわざ3年の靴箱近くまできたんだろう。そういうところは可愛いなと思う。
「いいよ」
キィ、と微妙に立て付けの悪いドアを開ける。外の熱気が頬をかすめて、足を踏み出すのを渋った。けど、後ろから彼の視線を感じる気がして、押されるように外に出た。少し遅れて、同じような足音が聞こえる。
7月になったばかりの日差しが、コンクリートにはね返って容赦なく照りつける。暑い。
「暑いっすね」
「夏だからね。」
「先輩、俺、アイス食べたい」
「買わねぇって」
「ケチ」
「お前には言われたくねぇなぁ」
くだらない会話を交わして、笑って、こんな毎日が続けばいいなと思う。こんな、つまらない日常を愛していると、思う。
「あ、ねぇこっち日陰」
「おぉ、涼しい〜」
手を引かれ、彼に連れていかれたそこは、周りとは違う場所かのように思える。さっきまで突き刺すようだった日差しが緩み、眩しくて見れなかった空を覗いた。
「あ、入道雲」
「本当だ」
夏だね、そうだねってまた。
こんな毎日が続けばいいのにね。
6/30/2021, 8:11:55 AM