【通り雨】#58
君の想いがあの雨のように
過ぎてしまえば良いのに。
今日もあの子と帰る君を見て思う。
【秋🍁】#57
気がつくと
金木犀のような甘い香りが
私の周りを風と共に流れていた。
必然であるように
私は君を探そうとした。
紅葉は昨日の水溜まりに落ち
同心円状に波を生み出して
モノクロに流れている。
後ろから肩をぽんと叩かれた。
それはあの紅葉よりもふんわりとして
優しさが伝わるまであった。
振り返ると
少し顔を傾けた笑顔の君がいて
お待たせと少し申し訳なさそうに言った。
君は私の世界で唯一の鮮やか存在であった。
【窓から見える景色】#57
見つけられないんだ。
どれだけ目を凝らして
ここから君を探そうとも
君を見つけられない。
なぁ、君は今何処にいるんだ?
どの窓から君を見つければ良い?
お願いだ、教えてくれ。
あぁ、全て見たよ。
どの窓から見える景色も
君のいる空でなかった。
いいや、君はいるはずだ。
ここは僕が思っている以上に狭かったのか?
【形のないもの】#56
※BL注意
肺を通り尖らせた口から抜ける白い煙は
細く長く消えていった。
「兄貴、今日も煙草ばっか吸って
体に悪いっすよー?」
「ストレス解消だっつの。」
気怠げに階段の手すりにもたれかかって
もう一度吸っては深く煙を吐いた。
「そういえば駅前にパフェ屋出来たらしいっすよ?行きません?!」
「食べたいか?」
「食べたいっす!」
金がないと焦っていたところ
珍しく奢ってくれた兄貴は美味しそうに
パフェを頬張っていた。
「甘っ(笑)でも美味いっすね!」
「そうだな。」
(なんだ。
兄貴も甘いもの好きだったのか〜)
新しい一面を知り
嬉しさが顔に出てしまった。
「お前さ、いつもそう笑ってれば
可愛いのにな。」
そう言って兄貴は赤面した俺の口についた
クリームを優しい手つきで取った。
「さーせん…!クリームついてたっすか…」
「おう…(笑)」
食べ終わったあと
異常に長い帰り道を二人で歩き
やっと家についた。
今思い返してみると
多分、あのとき
兄貴の顔も赤かった気がする。
【ジャングルジム】#55
鉄が格子状に交わった先には
夕日が見えていた。
子供たちがそれに登っては降りて
靴の裏にある土がへばりついた。
突然の狐の嫁入りであった。
それは子供たちにも分かるようで
その場にいる人全てが空に視線を向けた。
しかしそれは雨よりもずっと重く
憂鬱に感じさせるものであって
足早に家へと帰る者は少なくなかった。
私は何者かに指示でもされたかのように
足が動き始めて家への帰り道を歩んでいる。
後ろを振り向こうとするが
してはいけない気がしてならなかった。
ふと思う。
住宅街なのにも関わらず
人が誰一人として居ないことを。
全身の力が一気に抜けて膝から崩れ落ちた。
歩道のコンクリートは雨に濡れた土のように
柔らかく今にも足が持っていかれそうで
恐ろしいものを感じさせた。
一つ、目の前に灯りが見えた。
それは半透明な青色で見た目は人魂である。
「何か下さりませぬか?」
そう問われたように聞こえなくも無かったが
もう一度聞き返そうとした。
「はい?」
身体は急激に凹み
呼吸も不可能であって
視界からは暗闇が見えるのみであった。
夕暮れ時の天気雨に出る人魂に
何か話かけられようとも無視するのが吉だ。
きっと奴らは耳が悪い。