Tanzan!te

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9/11/2023, 1:55:24 PM

Episode.24 カレンダー


何気なくカレンダーを見る。
予定は何も入っていない。

何も入ってないが何もしていない訳では無い。
カレンダーに書くのが面倒なのだ。

書かなくたって忘れないし、スマホが知らせてくれる。

予定を入れるのも当日から3日前程だ。
理由は単純で、当日よりずっと前に決めると後で行く気が失せてしまうし、前日は準備が間に合わないからだ。

まあ、こんな面倒な性格のせいか友達は少ない。
いるだけ感謝せねばならないのだが…。

その唯一の友達である彼女とは気が合う。
俺に何かを求めてくる訳でもない。
会った時は喫茶店巡りをしたり、バーで話したりする。

ある日、仲の良いバーテンダーも含めこんな話をした。

「わたしさあ、最近カレンダー買ったんだよね〜。
 こんな時期に?って言われそうだから来年用の買った
 し、来年までは使わないけど」

「カレンダーか…あ、俺も毎年母親が送ってくれるや
 つ、一応置いてるよ」

「あら、2人ともカレンダー派になったの?
 あたしなんてスマホで済ませちゃってるわよ」

「なんでカレンダーなんて買ったんだ?」

「うーん…今まではさ、スマホで解決するしいいや!っ
 て思ってたんだけど…自分の手で予定書き入れるとワ
 クワクするの!より記憶にも残るって言うか…」

「…よく分からんな」

「あたしもカレンダー買っちゃおうかしら」

より記憶に残る、ワクワクするだんて俺にはよく分からなかった。

でも何となく、ただ気が向いたから3日後の予定をカレンダーに書き入れてみた。

「おー…?」

やっぱりよく分からなかった。

次の日、何となくカレンダーを見る。
そこには昨日書いた遊びの予定があった。

あと何日、誰とどこで遊ぶんだ。
そう自覚させられた。

その時初めてわかった、少しだけワクワクした。


デジタルじゃなくて、アナログでも良いことはあるんだな…

9/10/2023, 3:37:21 PM

Episode.23 喪失感


たった一瞬の夢だった。
あの日、あのまま死んでいれば______


僕の家庭は周りの家庭と比べたら厳しかったそうだ。
実際、僕も両親に対しての不満が無いわけじゃなかった。

高校生になった今でも門限は7時。
学校が終わって、自習室や図書館で自習をしていたらあっという間に7時前になってしまう。
友達は門限がもっと遅いため、僕だけが先に帰るのが嫌で遊ばなくなってしまった。

他にも束縛はされ続けていたが、その不満を直接ぶつけると暴力を振るわれる。
一度だけ、そういう経験がある。


" 次破ったら殺してやるからな "


大声で壁に押さえつけられて、何度か殴られながら言われたあの言葉は今でもトラウマで忘れられない。

きっとあの日からだ。
僕のギリギリで繋ぎ止めていた心が砕け散ったのは。

その後はAIのように言われたことを淡々とこなし、成績優秀でいい子で両親からも褒められるようになった。


でも我慢の限界が来た。
身体も精神もボロボロで疲れきっていた僕は、帰り道にある橋から飛び降りようとした。

「…は?おい、憐!待て!」

僕が身を乗り出した瞬間に叫び声が聞こえて、反射で体をビクッとさせた。
横を見ると同じクラスであり僕の好きな人がいた。

「あ、やと……な…で…なんで…」

僕が今まで生きてこれてたのは絢斗のお陰だ。
初めは少し話す程度だったが、放課後の自習室で隣に座ってからは親友のような関係になった。

僕が家庭の事を話しても傍にいてくれて、遊びや逃げることを強制させる訳でもない。
寄り添ってくれたその優しさに知らないうちに惚れ込んでいた。

去年の秋、フラれるのを前提で告白した。
気持ちを隠し続けるのが辛かった。

「…マジで?ほんとに俺のこと好きなの?」

「う…ん、すきです…」

「やべーにやける…よろしくお願いします。」

その日から、また僕の人生は変わろうとしていた。

付き合う前は話せなかったこと、出来なかったこと。
母親も門限までに帰ってくるならと、土曜日に出かけることを許してくれた。

でも、きっと僕が全て間違っていた。
連絡がすぐ返ってこないと不安で仕方なくて、一度問い詰めてしまったこともあった。

他人と距離近くならないで、何時までには帰ってきて。
まるで両親が僕にしていた束縛をそのまま絢斗にしていた。

「俺じゃ応えられる自信が無いんだ…別れよう。」

「…は、」

心にぽっかり穴が空いてしまった。
何も出来ない、何も考えられない。
僕のせいで、絢斗が、辛い思いをしちゃったんだ。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

いつかの本で読んだ気がする。

" 寒さしか知らない人間はそのまま凍えて死んでいく。
だが温かさを知ってしまった人間は、もう寒い環境へと
戻ることが出来ない。
その温かさも永遠と続くとは限らない。
温かさを知らずに死んでいた方が幸せな時だってある "

ああ、僕は温かさを知ってしまったんだ。
だからまた寒い環境に戻るのが怖くて、怖くて仕方がなくて堪らないんだ。
今度は寄り添ってくれる人もいない。


あの時死んでいた方がよかったのかもしれない。

もう何もかも考えられない。
脳内の機能が停止したかのように動かない。
虚無になることは許されない、あってはならないのに。

僕は二度目のきっかけで、自分の部屋で命を絶った。


「…れ、ん……?憐が…しんだっ…て…は……??」

9/9/2023, 2:23:31 PM

Episode.22 世界に一つだけ


わたしってなあに?

ママはね、世界で一人だけの大切な子だよっていうんだよ。
でもね、わたしにはわかんないの。

わたしにとって、ママは、せかいでいっちばんだいすきなの!
やさしいし、ほめてくれるし、たのしいんだよ!

世界に一つだけってなんだろう。
かんがえてもわかんないや、むずかしいなあ…


私ってなんなの?
ママは世界で一人だけの大切な娘って言うけど、なにが大切なわけ?

大切なのになんで面倒くさそうにするの?
はあウザ、世界で一人だけの大切な娘とかなんなのよ。

私には一生理解できない。


私ってなんだろう?
お母さんは世界でたった一人の愛おしい娘って言うけど、やっと分かった気がするよ。

私の子供が出来て初めてわかったの。
世界で一人だけの大切な子。

お母さん、楽しい時も辛い時も、ずっと傍で寄り添ってくれてありがとう。

今日は私の大切な、たった一人の息子と夫に
世界に一つだけの手編みマフラーをプレゼントします。

9/8/2023, 2:32:43 PM

Episode.21 胸の鼓動


時々、喉奥で鼓動して込み上げそうになることがある。
原因は分かっている。

今日はすごく疲れた。
先生からの頼み事が沢山あった。
断ればいい、そう思う時もあるのだが…
先生から見た僕は何事も完璧で、笑顔の絶えない人でなきゃいけないと遠回しに伝えられたことがある。


僕は人からの評価を気にしすぎている。
外では気にしない、気にしていないように見せている。
家では全てを思い返して気にしだす。

こういう時、必ず自分の行動や言動が、自分のしたい方とは真逆で苦しくなる。


胸の鼓動が早くなる。
苦しくて苦しくて仕方がなくて。
でも今まで築きあげてきた "僕" を壊す訳にはいかない。

我慢しなければならない。
期待に応えるため、自分が生きやすくなるため。
大丈夫、大丈夫…大丈夫。


誰かに "僕" の崩れる姿を見られるのが怖くて、自分の部屋へと急いで向かう。


我慢して泣きそうになった時は、体全体が痺れて痛くなる。
手先と足先は軽く震えてしまう。
何度も経験しているはずなのに、見る度に焦りだしてしまう。

焦って上手く思考判断ができなくなって、頭の中にある歯車がどんどん早く回りだして、信号が飛び交って。


溢れ出る涙を止めることができなかった。
泣いて泣いて苦しくなって、泣けば泣く程自分の悪いところを責め続けて。
胸の鼓動を感じる暇もなくなる。

嗚咽しながら泣くせいか、喉奥で鼓動を感じる。
苦しさで込み上げてきた咳が止まらなくて。

助けを求めることもできない、許されない行為。
そもそも 「助けて」 だなんて言いそうなキャラでもない。


ごめんなさい。
自己管理もまともに出来なくて、仕事も正確にこなせなくてごめんなさい。
もっと頑張るから、頑張るからゆるしてください、ゆるして、ゆるしてください…ごめんなさい。


_____ガチャ

「なーなー、スマブラ一緒にや……
 な、なに?どうしたの大丈夫か?嫌なことあった?」

最悪だ。
兄が部屋に入ってきた。
家族に言われたらどうしよう。

「…っぐ、う…ぁあ……」

息が詰まって苦しくて言葉が出ない。
どうしようどうしようどうしよう。

…は?
なんで、なんで。
僕のこと嫌いにならないの?気持ち悪くないの?

「俺昔テストの点悪くて泣いてた時あったでしょ。
 その時お前が大丈夫だよーって言いながらぎゅーして
 きたじゃん、だから俺もお返し。泣いていいよ。」

「…う、ぁ……ああぁあっ…」


そこからの記憶はない。
きっと沢山泣いて、兄に慰めてもらったんだろう。
迷惑かけたけど、初めて心から認めて貰えた気がする。


目が覚めた。
目の前に見えるのは兄、優しい温かさを感じる。

「…ん……?」

「お、起きた?おはよう。」


気がつけば胸の鼓動が落ち着いていた。

9/7/2023, 4:17:20 PM

Episode.20 踊るように


目の前を横切る微風。
その微風に切られ落ちた緑葉。
ひらひら、はらはらと舞い落ちる。

今は9月上旬。
まだ暑い日々が続く中、四季は秋へと移り変わる。
光強く照らされ暑さに魘された夏も、もうすぐ終わる。

秋は好きだ。
肌に触れる気温が心地よく、紅葉や自然も綺麗に映える。
食欲、読書、運動の秋とも言うが、秋の全てが好きだ。

だが夏のように光り輝くような明るさは無く、ほんのり薄暗く物寂しい情景は慣れない。

夏から秋への季節の変わり目は落ち着かない。

夏の緑葉が秋の初風に吹かれて舞い落ちる。
ひらり、はらりと揺れ動く姿は、まるで踊るように役目を終えたことを告げる。

夏から秋より、秋から冬の方が葉は落ちる。

しかし夏から秋だって葉は落ちる。

この、最後まで輝き続けられなかった緑葉を見るのが寂しい。
でも緑葉も寂しいと思っているようには感じなかった。

なぜなら緑葉の舞い落ちる姿が、踊るように見えたからだ。
自分の意思で落ちた、そうとも捉えられる。


先程の秋の初風はどこかへ向かい、初嵐が横切る。

未だ木に残り揺られる緑葉は、舞い落ちた緑葉を気にかけることなく大勢で踊り続けている。

風が強く寒い、もうそろそろ帰ろう。

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