Tanzan!te

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9/6/2023, 2:33:17 PM

Episode.19 時を告げる


カチ、カチ、カチ、カチ。
時計の音が静かな部屋中に響きわたる。
この不思議な心地良さと不安感が苦手だ。

高一の夏休み、今日は大雨で僕は部屋に籠っていた。
両親は買い出しに行ったため家には僕一人だけだ。
僕の家にはカチ、カチ、と音が鳴る時計がある。

これが不気味で、心地よくて堪らない。

理由は分からない。
一人だという状況下で物音がするのが怖くて不気味なのか、むしろその怖さを半減してくれる心地良さなのか。

カチ、カチ、カチ、カチ。

ゴーン、ゴーン。

僕はビクッと体を震わせた。
この音は正午を告げる音だ。
いつも聞いているはずなのに、なんだか落ち着かない。

僕は大雨による薄暗さと憂鬱さ、一人でいることの不安のせいにした。
それを塞ぎ込みたくなり、二階の自分の部屋に入った。
布団にくるまり、イヤホンをして音楽を聞きながら両親の帰りを待つ。

しだいにウトウトしてきて、いつの間にか眠っていた。

ガチャッ、という音が聞こえて目が覚めた。
両親が帰ってきた。

しかし今起きたばかりのため眠気が酷い。
二度寝しそうになりながらも少しの安心感を覚える。

コンコン。

「爽明、起きてる?少し遅くなったけど昼食買ってきた
 よ、降りておいで。」

ゆっくりと起き上がり体を伸ばす。

「今起きた…おかえり、ありがとう母さん。」


僕は眠気に耐えながら一階に降りていく。

カチ、カチ、カチ、カチ。

時刻は午後一時半、時計は勿論動いている。
しかし先程のような不安は消え去り安心感だけが残る。

「父さんおかえり」

「ただいま。さっ、冷めないうちに皆で食べようか!」

「いただきまーす!」

三人の声が重なった。

9/5/2023, 11:52:07 AM

Episode.18 貝殻


毎年小瓶を持って穴場の海に行く。

砂と小さな貝殻を入れる。

小瓶をコルクで蓋をして完成。

浅いところで水にあたってから、家までのんびり帰る。


「お母さんただいま〜」

「おかえり、今年も作ったの?」

「うん、今年も可愛いの作れたよ。」

「ふふ、お父さんきっと喜んでくれるね」


生前、お父さんは海が大好きな人だった。

その海で毎年シェルボトルを作り、棚に飾っていた。

知っている限りでは、お父さんが作ったのは三十五個。

私は今年で二十歳になる。

私が産まれる前から、趣味で作っていたのだそう。

お父さんはそう言っていたけど、本当は違う。


「お母さん、なんでお父さんってシェルボトル作り始め
 たのか知ってる?」

「お父さんね、趣味で始めたって言ってるでしょ?
 あれ嘘なのよ、本当は私を喜ばせたいからだったの。
 本当に可愛い人ね。」

「お父さん…かっこいいね。」


お父さん仕事でいない時、こっそり教えてもらった。


___そして私が十五歳の時、お父さんが急に亡くなった。

仕事で足場から落ちて亡くなったとのこと。

毎日辛くて、お母さんと抱き合って泣いていた。

辛い時はお父さんの作ったシェルボトルを眺めていた。

そこで私は、亡くなったお父さんと悲しむお母さんを
元気付けるため、シェルボトルをお父さんの代わりに
作ることにした。


毎年お父さんがシェルボトルを飾ってた棚に私も飾る。


「お父さん、今年も綺麗にできたよ。
 いつでも待ってるから見に来てね。」

9/4/2023, 2:43:14 PM

Episode.17 きらめき


「ねーあきくん知ってる?
 あたし達に見えないとこでもね、宇宙とか銀河とか、
 お星様いーっぱいキラキラしてるんだよー!」

「ふふ、花音ちゃんは物知りですごいね。
 キラキラのお星様、絶対綺麗だもんね!」

「うん!いいないいな、あたしもいつか見てみたいな
 あ…」

「僕は見たことあるよ、しかも毎日!すごいでしょ!」

「えー!?すごい!ずるい!
 …あ!あたしも毎日見れてるもん!」

「おお、すごいじゃーん!
 僕達ハッピーだね」

「ハッピー!うれしい!へへへ」


あたしにとってのキラキラのお星様。
それはとなりに住んでるお兄ちゃんのあきくん。

僕にとってのキラキラのお星様。
それは隣の家に住んでいる小学生の花音ちゃん。


あきくんのカッコよくて、優しいとこがキラキラしてて好きなの!
お星様がいっちばん似合う男の子。

花音ちゃんの楽しそうに、嬉しそうに話すところがとても可愛い。
お星様が一番似合う女の子だ。


きっと、お互い気付いていない。

9/3/2023, 12:22:32 PM

Episode.16 些細なことでも


些細なことでも怒ってしまう。
自分の気に障ることがあれば、すぐにイラついて。
ほんとに、どうしようもない人間だ。


でもその反面、些細なことでも感謝を伝える人だ。
遅くまでありがとう、話聞いてくれてありがとう。
ほんとに、どうしようもない人間だ。


きっと"周りの人間"は思っている。
あまり近付きたくない、面倒だ。でも____


それを、彼自身は知っている。
過去のことがトラウマで、自分を守るため。
でも感謝を忘れるなと教えられてきた彼は、しっかり守った。

どんなに辛い時も、どんなに楽しい時も。


この話を聞けば、きっと彼が情緒不安定で大変な人間だと思う人がいる。

視点を変えよう。

彼が過去に虐められていたとする。
彼を虐めたのが、先程出てきた"周りの人間"だ。

するとどうだろう。

彼は周りに虐められていて、自分を守るために
嫌なことをしてきた人らを恐れて怒る。
でも自分に優しくしてくれた時には、感謝を伝える。


彼は何故、些細なことでも気にかけるのだろうか。

9/2/2023, 1:49:34 PM

Episode.15 心の灯火


恋人がいる好きな人。
叶うことがないとわかっていても、どこか期待している自分がいる。
でも邪魔はしないように、隠して、応援して。


大丈夫、今日も隠せてるよ、応援できてるよ。
でも君は優しいし、僕のことが友達として大好きだし。


身長が高い君は、小さい僕を可愛いって褒めてくれて。

いじわるしてきた後、僕がキライだと冗談を言うと、俺は好きだよとさりげなく言ってきて。


しんどい、辛いはずなのに。


悩んでる時は、1番に駆けつけて話を聞いてくれて。

大丈夫だよ、辛かったねって慰めてくれて。

僕の欲しい言葉をかけて、沢山甘やかしてくれて。


だからきっと、心が暖かく落ち着く。
君が僕の黒く覆われた心を、照らしてくれる。


君は僕の心の灯火だ。


ただひとつ、ひとつ言うなら

こんな恋、するべきじゃなかったのに。

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