Tanzan!te

Open App
11/6/2024, 3:19:08 PM

Episode.46 柔らかい雨


「今日も雨、か。
 そろそろ来るのかな。」

ピンポーン____

「…はあい、やっぱり今日は来るんだね。」

「おう!なあ、今日は雨も弱いしコンビニ行かね?
 美味いもん買って映画見ようぜ、俺の奢り!な?」

「気が利かないなあ…奢ってくれるならいいけどさ。」


去年隣に引っ越してきた友達の麗斗。
彼は、雨の日には必ず私の家に遊びに来る。
雨が止んだら少し寂しそうな顔をして帰っていく。
理由は分からない、聞いたこともないから…。


「____でさ…なあ聞いてる?ボーっとしてね?」

「聞いてるよ、夢の中で逆立ちしながらカバに乗ったん
 でしょ?」

「だいぶ前の話だなそれ…」

「…ねえ、聞いてもいい?どうして雨の日には必ずうち
 へ遊びに来るの?」

「んー…雨の日ってさ、用事がない限りわざわざ家から
 出ねえじゃん?てことはよ、俺が遊びに来ない限りそ
 の日は会えねえかも知れねえじゃん?」

「うん、うん…ん?つまりどういうこと?」

「あーあー!何でもねえ、綺音はほんと鈍感だよな。」

「ちょっと、もしかして馬鹿にしてる?」


カチ、カチ、カチ、カチ____


「なあなあ、俺ら高校生じゃん?恋バナしね?」

「麗斗っていつも急ね。
 話題を出すってことは話したいことでもあるの?」

「実はさあ、俺好きな人いるんだよ!ビビった?」

「麗斗は知り合った頃から分かりやすいし、今更ビック
 リすることなんてないけど。」

「ええー?冷たいなあ…。
 …んで、綺音は?好きな人、いねえの?」

「…いるけど。」

「え、マジ?うわー意外だわ…それって誰なん?」

「麗斗」

「ん?どした」

「…っだから、麗斗だってば!」

「俺がどうし…た、…え!?」

「はあーっ…ほんと、鈍感なのはどっちなのよ。
 …で?麗斗の好きな人っていうのは誰のことよ。」

「…綺音、が好き。」

「うん、知ってる。」

「は!?いつからだよ!」

「ふふっ、ふふふふ、まさかバレてないとでも思ってた
 の?ほんと麗斗って面白いのね。」

「うるせえ!俺を馬鹿にしてんじゃねえ!」


ぽつん、ぽつん____


雨はもうあがっていた。
庭の葉に滴る水が柔らかい雨のようにぽつんと落ちる。


「ねえ、今日は帰らないの?」

「帰る理由なんて、もうねえだろ。」

11/5/2024, 12:47:10 PM

Episode.45 一筋の光


サワサワサワ______

微風に揺られて森の葉が音を奏でている。
聞こえるはずがない?…いいえ、私には聞こえるのよ。

「…何か、日記でも遺してみようかしら。」


…私は魔女、長い間森の奥に住んでいたの。
この世界では魔女の一族は恐れられている存在。
時々狩人が訪れて、無断で私達を殺そうとしているのを見かけることがあったわ。
(そういう時は監視人に拘束されて行くけど…)
それにはあるひとつの事件が関係している。


__昔々、それは人々に優しく勇敢な魔女がいました。
彼女は魔法で街に平和をもたらしていました。
そんな彼女はいつしか、人々から讃えられ、崇められる存在になっていました。
もちろん、中にはそれを良く思わない人もいました。

そんなある日、何者かによって彼女の家族は暗殺されていました。
彼女は冷静さを失って怒り狂い、街一帯を魔法で襲ってしまったのです。
その後彼女は自身の過ちを償うと共に、家族の元へ向かうため、自ら海に身を投げたという__


この事件以降、皇帝は民衆の安全のために魔女を森の奥で監視すること、災いを起こした魔女は数日間の拘束ののち、民衆の前で処刑することを命じた。

だから私は森の奥に住んでいたの。
何年も、何十年も、何百年も、ずっとずっと1人。
こんな生活で頭がおかしくなったのかもしれないわ。

ある日、運良く監視人に見つからずに私の家の前まで辿り着いた狩人を殺した。
魔女にだってあなた達と同じ心はあるのよ。
こんな生活に嫌気がさしたから、狩人を嬲り殺した。
魔法を使う魔女としてではなく、人として嬲り続けた。
だって許せないんだもの、可笑しいと思ったんだもの。

気が付いた時には、狩人は原型を留めていなかった。
ちぎれた肉片と赤黒い液体がドクドクと広がっていた。

そんな状況でも、私は興奮したままだった。
ちっとも悪いとは思わなかったわ。

あまりにも楽しかったから、監視人も全員殺したの。
そうしたら何だかスッキリして、心残りなんて何も無くなったから自首したわ。
すぐに拘束されて、宮殿近くの地下牢屋に入れられた。


今日は私の処刑日。
淀んだ空気と曇り空だったけれど、何故だか気分はとても良いわ。
遺書と一緒にペンダントも遺しておくことにしたわ。
2時間後には貧相なドレスにケープを羽織らされて、処刑台で最期の嘆きを聞いてもらうの。

きっと私はこう言ってやるわ。
「あなた達は魔女ではなく、1人の人を殺したのよ。」


XXXX年XX月XX日 XX時XX分

ギロチンの刃に一筋の光が差した。
ギランとした輝きを帯びながら、勢いよく落ちていく。
終わった後、民衆の歓声や泣き声が一斉に聞こえた。


ウィステージ郊外の森奥に住む魔女の処刑を完了。
1人の狩人と複数の監視人を嬲り殺した後自首。
魔法を使った形跡は見られておらず、証言が一致している可能性が高い。
魔女の牢屋にはペンダントと日記が遺されていた。
以下、魔女の証言と遺言である。


「…ええ、私の家に来た狩人を1人嬲り殺した後、門の前
 にいる監視人もみんな殺したわ。」

「動機?…あなた達に嫌気がさした、それだけよ。」

「でも魔法は使っていないのよ、後ろからナイフで何度
 も刺した後に嬲り続けたの。」

「どうしてだと言われても…何となくよ。
 人間は魔法が使えないのに可哀想でしょう?」


「…あなた達は、魔女を勘違いしているわ。」

4/2/2024, 3:10:53 PM

Episode.44 大切なもの


段々と春の訪れを感じる頃となりましたね。
みなさん、如何お過ごしでしょうか。

先日、一度失われた日常が再び戻ってきました。
楽しみ二割、緊張三割、困惑五割といったところでしょうか……充実と共に疲れが舞い込んできています…。
みなさんは僕が何を言っているのかさっぱり…なのではないでしょうか、きっとそれが正しい感覚です。

僕はみなさんが想像するよりも、遥かに生きている時間が短いのです。
何より未熟で、幼稚なあどけない仕草も抜けない程に。
そして日本語にまだ慣れていないところもあるので、文章がどこか幼く、拙く感じると思います……。
時間の経過と共に努力して参ります…。

さて、そんな僕ですが大切なものはあります。
勿論、形に残る物の中にも大切なものはありますね。
しかし僕にとっては形のないものの方が多く感じます。

例えば、僕には親愛なる家族がいます。
人は物だと捉える見方もありますが、僕はあまりそう感じません。(大きな声では言えませんが、溶かしてしまえば形も残らず消えてしまうこともありますから…)
僕の家族からは愛を感じます。
何気ない会話や素振り、記念日の祝福など…様々な場面で僕の心を一瞬にして満たしてしまいます。
今後のことなんて分かりませんが、きっと最後まで、僕を幸せでいっぱいにしてくれるような気がしています。

そしてもう一つ、愛おしくて堪らない親友です。
親友だと認識し合ってからは五ヶ月程ではあるものの、一つ一つの考え方や発言が重なることが多いんです。
重なるのが嬉しいのではなく、重なった瞬間に、お互いのことを考えていることに幸せを感じます。
血の繋がりのない人と初めて打ち解けられたんです。
そして親友は何よりも、心の奥底で眠っている僕を救いあげてくれます。
長く寄り添っている訳でもないのに、深く慰めてくれる優しさが心に染み渡ります。

これでもまだ一部でしかないんです。
大切なものが沢山あると伝えると、何でも大切だと思うなよ…と軽蔑されることもきっとあります。
それはその人にとっての大切が極わずかなだけ。
その人の考えも良いんです、思考の押し付けは宜しくないですが…。
ただ、大切なものが沢山あってもいいと思います。
大切なもので溢れている人生はきっと、辛いことがあろうとも乗り越えられる糧になるかもしれないんです。
乗り越えられない、そんな時に大切なものが見つかることもあります。

本当に、人生何があるか分かりませんね。

ああ、最後に余談となりますが…初めに僕は生きている時間が短い、つまり若いと言いました。

確かに…今の、人生では短いんです。

4/1/2024, 3:15:24 PM

Episode.43 エイプリルフール


「ねえ、きみ村の人だよね?きみが悪いことしてるの僕 
 知ってるよ………って、死のうとしてるの?
 へへ、じゃあ僕が痛くないようしてあげる」

「…本当か?」

___。

「もーいいかい」

「ま、まーだだよっ…」

「ねえ、はやくぅー!何を手こずってるの?」

「ックソ…ごめんなぁ?…はぁ、はぁッ……」

グッ ギシッ ギシッ

「…もーいいかい」

「もッ、もういいよ…!」

「おお、ちゃんと足縛れたねえ!首も丁度いいや!
 手は僕が縛ってあげるね………はい、できた!」

「な、なあ少年、本当に痛くねえんだろうなあ?」

「んー?試したらわかるよう…じゃあ始めるね!」

グッ

「…ハガッ!…グ、ゥアア、ア!…ガ…ギッ……グゥ…」

「ねえどう?短時間でラクになるとこに当てたけど…」

「…」

「今日はもう4月2日だよ、時計もあったのに……」

ビクッ

「死んだのに足動くんだ!初めて見た、気持ち悪いね。
 …僕達の村は、1日の午前は嘘をついてもよくて、午後
 に本当のことを教える…きみも知ってたよね?」

……

「僕は疑われるのが嫌いなんだよ、本当にラクにしてあ
 げたのにさ、君は感謝もせずに死んじゃって。
 というか、村のしきたりも知らないのかなあ…」

ビクッ

「…ほら、この本にも載ってるでしょ?ちゃんと見て」

"相互を疑うべからず、皆良心を持ち豊かな人生を歩め。"
"これに違反する者、皆で執拗に罰せよ。"



「死んでよかったね!犯罪をしてないにしろ、拷問を受
 けて苦しむよりマシだったんじゃない?」



「馬鹿なきみに教えてあげるね。
 元々君がしきたりに反してるのは知ってたよ、だから
 犯罪に働くように精神を追い詰めたんだ!
 その後できみを罰したんだ、僕は反してないからね」



「もう動かないね、つまんないの。
 じゃあね!僕は暖炉のついた家に帰って眠るよ」



「それじゃ、おやすみ」

3/30/2024, 2:06:18 PM

Episode.42 何気ないふり


はあ。

"なあに、どうしたの?"
"嫌な事でもあったのか?"

なんも、大きく息ついただけだよ。

"ほんとうに?"
"…"

うん、ほんとだよ。

"…やっぱり代わるわよ"
"ああ、俺も代われるぞ"

いや、いいんだ、1人でやらなきゃ意味無いよ。

"だけど…辛い時に代わるのは私の仕事よ"
"無理して倒れられても困るんだ"

そんなんじゃ普通の人になれないから、大丈夫。

"でも…"
"…わかった、ただ何かあれば無理にでも代わる"

…うん、ありがとう。

"…気持ちが変わったら呼んでもいいからね"
"そうだ、中心はお前だといえ同じ体だ"

わかった、じゃあまた後で。

"気をつけて"
"行ってらっしゃい"


「燈ー?どうした、俺もう行けるけど」

「あー、大丈夫、今行くよ」

「…別に代わっても俺は平気だけど」

「いいんだ、今日は俺が頑張りたい」

「うっし!なら行こうぜー」


何気ないふりなんて無理なのかも。

"私達にもバレてるものね"
"そんだけ大切に思ってる証拠だろ、自信持てよ"

うん、いつもありがとう。

Next