Episode.45 一筋の光
サワサワサワ______
微風に揺られて森の葉が音を奏でている。
聞こえるはずがない?…いいえ、私には聞こえるのよ。
「…何か、日記でも遺してみようかしら。」
…私は魔女、長い間森の奥に住んでいたの。
この世界では魔女の一族は恐れられている存在。
時々狩人が訪れて、無断で私達を殺そうとしているのを見かけることがあったわ。
(そういう時は監視人に拘束されて行くけど…)
それにはあるひとつの事件が関係している。
__昔々、それは人々に優しく勇敢な魔女がいました。
彼女は魔法で街に平和をもたらしていました。
そんな彼女はいつしか、人々から讃えられ、崇められる存在になっていました。
もちろん、中にはそれを良く思わない人もいました。
そんなある日、何者かによって彼女の家族は暗殺されていました。
彼女は冷静さを失って怒り狂い、街一帯を魔法で襲ってしまったのです。
その後彼女は自身の過ちを償うと共に、家族の元へ向かうため、自ら海に身を投げたという__
この事件以降、皇帝は民衆の安全のために魔女を森の奥で監視すること、災いを起こした魔女は数日間の拘束ののち、民衆の前で処刑することを命じた。
だから私は森の奥に住んでいたの。
何年も、何十年も、何百年も、ずっとずっと1人。
こんな生活で頭がおかしくなったのかもしれないわ。
ある日、運良く監視人に見つからずに私の家の前まで辿り着いた狩人を殺した。
魔女にだってあなた達と同じ心はあるのよ。
こんな生活に嫌気がさしたから、狩人を嬲り殺した。
魔法を使う魔女としてではなく、人として嬲り続けた。
だって許せないんだもの、可笑しいと思ったんだもの。
気が付いた時には、狩人は原型を留めていなかった。
ちぎれた肉片と赤黒い液体がドクドクと広がっていた。
そんな状況でも、私は興奮したままだった。
ちっとも悪いとは思わなかったわ。
あまりにも楽しかったから、監視人も全員殺したの。
そうしたら何だかスッキリして、心残りなんて何も無くなったから自首したわ。
すぐに拘束されて、宮殿近くの地下牢屋に入れられた。
今日は私の処刑日。
淀んだ空気と曇り空だったけれど、何故だか気分はとても良いわ。
遺書と一緒にペンダントも遺しておくことにしたわ。
2時間後には貧相なドレスにケープを羽織らされて、処刑台で最期の嘆きを聞いてもらうの。
きっと私はこう言ってやるわ。
「あなた達は魔女ではなく、1人の人を殺したのよ。」
XXXX年XX月XX日 XX時XX分
ギロチンの刃に一筋の光が差した。
ギランとした輝きを帯びながら、勢いよく落ちていく。
終わった後、民衆の歓声や泣き声が一斉に聞こえた。
ウィステージ郊外の森奥に住む魔女の処刑を完了。
1人の狩人と複数の監視人を嬲り殺した後自首。
魔法を使った形跡は見られておらず、証言が一致している可能性が高い。
魔女の牢屋にはペンダントと日記が遺されていた。
以下、魔女の証言と遺言である。
「…ええ、私の家に来た狩人を1人嬲り殺した後、門の前
にいる監視人もみんな殺したわ。」
「動機?…あなた達に嫌気がさした、それだけよ。」
「でも魔法は使っていないのよ、後ろからナイフで何度
も刺した後に嬲り続けたの。」
「どうしてだと言われても…何となくよ。
人間は魔法が使えないのに可哀想でしょう?」
「…あなた達は、魔女を勘違いしているわ。」
11/5/2024, 12:47:10 PM