Episode.19 時を告げる
カチ、カチ、カチ、カチ。
時計の音が静かな部屋中に響きわたる。
この不思議な心地良さと不安感が苦手だ。
高一の夏休み、今日は大雨で僕は部屋に籠っていた。
両親は買い出しに行ったため家には僕一人だけだ。
僕の家にはカチ、カチ、と音が鳴る時計がある。
これが不気味で、心地よくて堪らない。
理由は分からない。
一人だという状況下で物音がするのが怖くて不気味なのか、むしろその怖さを半減してくれる心地良さなのか。
カチ、カチ、カチ、カチ。
ゴーン、ゴーン。
僕はビクッと体を震わせた。
この音は正午を告げる音だ。
いつも聞いているはずなのに、なんだか落ち着かない。
僕は大雨による薄暗さと憂鬱さ、一人でいることの不安のせいにした。
それを塞ぎ込みたくなり、二階の自分の部屋に入った。
布団にくるまり、イヤホンをして音楽を聞きながら両親の帰りを待つ。
しだいにウトウトしてきて、いつの間にか眠っていた。
ガチャッ、という音が聞こえて目が覚めた。
両親が帰ってきた。
しかし今起きたばかりのため眠気が酷い。
二度寝しそうになりながらも少しの安心感を覚える。
コンコン。
「爽明、起きてる?少し遅くなったけど昼食買ってきた
よ、降りておいで。」
ゆっくりと起き上がり体を伸ばす。
「今起きた…おかえり、ありがとう母さん。」
僕は眠気に耐えながら一階に降りていく。
カチ、カチ、カチ、カチ。
時刻は午後一時半、時計は勿論動いている。
しかし先程のような不安は消え去り安心感だけが残る。
「父さんおかえり」
「ただいま。さっ、冷めないうちに皆で食べようか!」
「いただきまーす!」
三人の声が重なった。
9/6/2023, 2:33:17 PM