Tanzan!te

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9/8/2023, 2:32:43 PM

Episode.21 胸の鼓動


時々、喉奥で鼓動して込み上げそうになることがある。
原因は分かっている。

今日はすごく疲れた。
先生からの頼み事が沢山あった。
断ればいい、そう思う時もあるのだが…
先生から見た僕は何事も完璧で、笑顔の絶えない人でなきゃいけないと遠回しに伝えられたことがある。


僕は人からの評価を気にしすぎている。
外では気にしない、気にしていないように見せている。
家では全てを思い返して気にしだす。

こういう時、必ず自分の行動や言動が、自分のしたい方とは真逆で苦しくなる。


胸の鼓動が早くなる。
苦しくて苦しくて仕方がなくて。
でも今まで築きあげてきた "僕" を壊す訳にはいかない。

我慢しなければならない。
期待に応えるため、自分が生きやすくなるため。
大丈夫、大丈夫…大丈夫。


誰かに "僕" の崩れる姿を見られるのが怖くて、自分の部屋へと急いで向かう。


我慢して泣きそうになった時は、体全体が痺れて痛くなる。
手先と足先は軽く震えてしまう。
何度も経験しているはずなのに、見る度に焦りだしてしまう。

焦って上手く思考判断ができなくなって、頭の中にある歯車がどんどん早く回りだして、信号が飛び交って。


溢れ出る涙を止めることができなかった。
泣いて泣いて苦しくなって、泣けば泣く程自分の悪いところを責め続けて。
胸の鼓動を感じる暇もなくなる。

嗚咽しながら泣くせいか、喉奥で鼓動を感じる。
苦しさで込み上げてきた咳が止まらなくて。

助けを求めることもできない、許されない行為。
そもそも 「助けて」 だなんて言いそうなキャラでもない。


ごめんなさい。
自己管理もまともに出来なくて、仕事も正確にこなせなくてごめんなさい。
もっと頑張るから、頑張るからゆるしてください、ゆるして、ゆるしてください…ごめんなさい。


_____ガチャ

「なーなー、スマブラ一緒にや……
 な、なに?どうしたの大丈夫か?嫌なことあった?」

最悪だ。
兄が部屋に入ってきた。
家族に言われたらどうしよう。

「…っぐ、う…ぁあ……」

息が詰まって苦しくて言葉が出ない。
どうしようどうしようどうしよう。

…は?
なんで、なんで。
僕のこと嫌いにならないの?気持ち悪くないの?

「俺昔テストの点悪くて泣いてた時あったでしょ。
 その時お前が大丈夫だよーって言いながらぎゅーして
 きたじゃん、だから俺もお返し。泣いていいよ。」

「…う、ぁ……ああぁあっ…」


そこからの記憶はない。
きっと沢山泣いて、兄に慰めてもらったんだろう。
迷惑かけたけど、初めて心から認めて貰えた気がする。


目が覚めた。
目の前に見えるのは兄、優しい温かさを感じる。

「…ん……?」

「お、起きた?おはよう。」


気がつけば胸の鼓動が落ち着いていた。

9/7/2023, 4:17:20 PM

Episode.20 踊るように


目の前を横切る微風。
その微風に切られ落ちた緑葉。
ひらひら、はらはらと舞い落ちる。

今は9月上旬。
まだ暑い日々が続く中、四季は秋へと移り変わる。
光強く照らされ暑さに魘された夏も、もうすぐ終わる。

秋は好きだ。
肌に触れる気温が心地よく、紅葉や自然も綺麗に映える。
食欲、読書、運動の秋とも言うが、秋の全てが好きだ。

だが夏のように光り輝くような明るさは無く、ほんのり薄暗く物寂しい情景は慣れない。

夏から秋への季節の変わり目は落ち着かない。

夏の緑葉が秋の初風に吹かれて舞い落ちる。
ひらり、はらりと揺れ動く姿は、まるで踊るように役目を終えたことを告げる。

夏から秋より、秋から冬の方が葉は落ちる。

しかし夏から秋だって葉は落ちる。

この、最後まで輝き続けられなかった緑葉を見るのが寂しい。
でも緑葉も寂しいと思っているようには感じなかった。

なぜなら緑葉の舞い落ちる姿が、踊るように見えたからだ。
自分の意思で落ちた、そうとも捉えられる。


先程の秋の初風はどこかへ向かい、初嵐が横切る。

未だ木に残り揺られる緑葉は、舞い落ちた緑葉を気にかけることなく大勢で踊り続けている。

風が強く寒い、もうそろそろ帰ろう。

9/6/2023, 2:33:17 PM

Episode.19 時を告げる


カチ、カチ、カチ、カチ。
時計の音が静かな部屋中に響きわたる。
この不思議な心地良さと不安感が苦手だ。

高一の夏休み、今日は大雨で僕は部屋に籠っていた。
両親は買い出しに行ったため家には僕一人だけだ。
僕の家にはカチ、カチ、と音が鳴る時計がある。

これが不気味で、心地よくて堪らない。

理由は分からない。
一人だという状況下で物音がするのが怖くて不気味なのか、むしろその怖さを半減してくれる心地良さなのか。

カチ、カチ、カチ、カチ。

ゴーン、ゴーン。

僕はビクッと体を震わせた。
この音は正午を告げる音だ。
いつも聞いているはずなのに、なんだか落ち着かない。

僕は大雨による薄暗さと憂鬱さ、一人でいることの不安のせいにした。
それを塞ぎ込みたくなり、二階の自分の部屋に入った。
布団にくるまり、イヤホンをして音楽を聞きながら両親の帰りを待つ。

しだいにウトウトしてきて、いつの間にか眠っていた。

ガチャッ、という音が聞こえて目が覚めた。
両親が帰ってきた。

しかし今起きたばかりのため眠気が酷い。
二度寝しそうになりながらも少しの安心感を覚える。

コンコン。

「爽明、起きてる?少し遅くなったけど昼食買ってきた
 よ、降りておいで。」

ゆっくりと起き上がり体を伸ばす。

「今起きた…おかえり、ありがとう母さん。」


僕は眠気に耐えながら一階に降りていく。

カチ、カチ、カチ、カチ。

時刻は午後一時半、時計は勿論動いている。
しかし先程のような不安は消え去り安心感だけが残る。

「父さんおかえり」

「ただいま。さっ、冷めないうちに皆で食べようか!」

「いただきまーす!」

三人の声が重なった。

9/5/2023, 11:52:07 AM

Episode.18 貝殻


毎年小瓶を持って穴場の海に行く。

砂と小さな貝殻を入れる。

小瓶をコルクで蓋をして完成。

浅いところで水にあたってから、家までのんびり帰る。


「お母さんただいま〜」

「おかえり、今年も作ったの?」

「うん、今年も可愛いの作れたよ。」

「ふふ、お父さんきっと喜んでくれるね」


生前、お父さんは海が大好きな人だった。

その海で毎年シェルボトルを作り、棚に飾っていた。

知っている限りでは、お父さんが作ったのは三十五個。

私は今年で二十歳になる。

私が産まれる前から、趣味で作っていたのだそう。

お父さんはそう言っていたけど、本当は違う。


「お母さん、なんでお父さんってシェルボトル作り始め
 たのか知ってる?」

「お父さんね、趣味で始めたって言ってるでしょ?
 あれ嘘なのよ、本当は私を喜ばせたいからだったの。
 本当に可愛い人ね。」

「お父さん…かっこいいね。」


お父さん仕事でいない時、こっそり教えてもらった。


___そして私が十五歳の時、お父さんが急に亡くなった。

仕事で足場から落ちて亡くなったとのこと。

毎日辛くて、お母さんと抱き合って泣いていた。

辛い時はお父さんの作ったシェルボトルを眺めていた。

そこで私は、亡くなったお父さんと悲しむお母さんを
元気付けるため、シェルボトルをお父さんの代わりに
作ることにした。


毎年お父さんがシェルボトルを飾ってた棚に私も飾る。


「お父さん、今年も綺麗にできたよ。
 いつでも待ってるから見に来てね。」

9/4/2023, 2:43:14 PM

Episode.17 きらめき


「ねーあきくん知ってる?
 あたし達に見えないとこでもね、宇宙とか銀河とか、
 お星様いーっぱいキラキラしてるんだよー!」

「ふふ、花音ちゃんは物知りですごいね。
 キラキラのお星様、絶対綺麗だもんね!」

「うん!いいないいな、あたしもいつか見てみたいな
 あ…」

「僕は見たことあるよ、しかも毎日!すごいでしょ!」

「えー!?すごい!ずるい!
 …あ!あたしも毎日見れてるもん!」

「おお、すごいじゃーん!
 僕達ハッピーだね」

「ハッピー!うれしい!へへへ」


あたしにとってのキラキラのお星様。
それはとなりに住んでるお兄ちゃんのあきくん。

僕にとってのキラキラのお星様。
それは隣の家に住んでいる小学生の花音ちゃん。


あきくんのカッコよくて、優しいとこがキラキラしてて好きなの!
お星様がいっちばん似合う男の子。

花音ちゃんの楽しそうに、嬉しそうに話すところがとても可愛い。
お星様が一番似合う女の子だ。


きっと、お互い気付いていない。

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