Tanzan!te

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8/29/2023, 2:14:03 PM

Episode.11 言葉はいらない、ただ・・・


きっと初めから興味すら持たれていなかった。
都合のいい女だったんだ。
でも、最後は。最後くらいは。


「おまたせ芭ちゃん、どうしたの?」

手も声も緊張で震える。

「…あの、わ、私!颯斗先輩のことが好きなんです!
 付き合ってくださいっ!!」

「え、と…ほんとに?」

「ほんとのほんとです!」

恥ずかしさでいっぱいになり、勢いのまま言葉を放つ。

「…俺でよければ、よろしくお願いします」


あの時は幸せだったなあ。
何もかも褒めてくれるし、優しくしてくれるし。
すごく好きだったはずなのに。


「芭、ごめん。別れよう。」

「…理由、聞いてもいい?」

「勉強に専念しようと思ってるんだ。
 そうなったら、芭のための時間がなくなっちゃうから
 申し訳なくて。自分勝手でごめん。」

「ほんとだよ、自分勝手…
 私のこと好きだった?」

「うん」

嘘つき。ほんとは初めから無関心だったんでしょ。
あなたが嘘をついた時の、悲しそうな笑い方。
自分の欲求を満たすための女だったのも知ってるよ。

「そっか。今までありがとう、颯斗」

「ありがとう芭、またね」

お願い、好きじゃなくてもいい、それでもいいから。
最後くらい、また優しい笑顔見せてよ。
最後だけはいいでしょ?恋人だったんだよ?
私は、わたしはほんとにすきだったのに


好きって言わなくていいから、最後は笑いかけてよ。

8/28/2023, 3:07:50 PM

Episode.10 当然の君の訪問。


やはり君は、何がしたいのか分からない。
そんな所も、まあ。


____ピンポーン。

インターホンから姿を確認すると、そこには俺の親友がいた。

「いつき〜…これ、また作りすぎちゃってさあ…一緒に
 食べてくんない?」

「おー、いいよ。
 どうせなら俺の部屋で一緒に食わない?」

彼女の名前は夏乃で、俺と同じ大学生だ。
そして、俺の好きな子だ。
俺がこの街に引っ越した時、同じマンションの隣に住んでいたのが夏乃だった。

夏乃はいつも自炊をしているらしいが、どうも作る量の感覚だけは未だに掴めないらしい。
作りすぎた日には、俺におすそ分けをしてくれる。

いつもはそのまま一人で食べるが、今日は一緒に食べよう、と誘ってみた。
夏乃は喜んでるように見えたし、とりあえず1週間お願いすることにした。


1日目。食べながら俺の部屋をぐるぐる見回す。
部屋に入ること自体が初めてのような仕草だった。

2日目。今日は落ち着きがない。
ずっと何かを気にしているように、ソワソワしている。

3日目、4日目、5日目。普段の夏乃に戻っている。
少し落ち着いたのか、笑顔も自然に見える。

6日目。夏乃はこんなことを聞いてきた

「…あのさ樹、」

「んー?なに?」

「また次の時も、一緒に食べに来てもいい?」

「おう!いつでも言ってくれよー」

7日目。夏乃は、少し真面目な顔で話しかけてきた

「そいえばさ、樹は恋人とか好きな人、いないの?」

「…好きな子ならいるけど。」

「えー!?初耳なんだけど!だれっ?誰なのー!」

「…飯食い終わったらな。」


食後、俺は心臓が飛び出るんじゃないかという気持ちでいた。
もう我慢ならない、はやく好きだと言いたい。
…夏乃も好きだと嬉しいが。

「で!好きな子、だれなの?」

「…なつの」

「ん?」

「…っだから、夏乃が好きなんだってば!」

「…はあっ!?」


俺の部屋で、お互いが顔を真っ赤にしていた。
……あ、れ?なんで夏乃まで?
期待で胸が膨らんだ。はやく、はやく。


「…い、いつから私の事すきなの。」

「会ってから1ヶ月位の時から。」

「な、ながいな…そっか…うん…」

「んで、夏乃はどうなの。」

「へ。」

「俺は夏乃のことが好き。付き合って欲しい。
 …返事は?」

「え、えと、ぁ……お、ねがいします…」

「…マジ?ほんとに?」

「ま、まじ!ほんとに!」

「やべー……めっちゃ嬉しい、好き…」

「わたしも、私も、樹のこと好き!だいすきー!!」


それから。


「樹、起きてー!朝!仕事行くんでしょ!」

「んー…おきた……」

「えらい!おはよう!」

「おはよう…ちゅーして」

「…早くしなきゃ時間なくなるよ!」

「ちぇ、けち。」

「もー…」

そう言いながら、彼女は俺の腰に手を回しハグをする。
その左手には、キラキラ輝くリングが見えた。
何度見てもにやけてしまう。

それを見た彼女がひとこと。

「なにニヤけてんのー!キモ!はやく準備しろ!」


…今日も頑張りますか!

8/27/2023, 3:15:41 PM

Episode.9 雨に佇む


カフェから出ると急に雨が降り始めた。
ついてないなあ。
そう言って、僕は踏み出した。

傘もささず、カッパも着ないで。
全身が一瞬にして水に包まれた。

冷たい、冷たくてしょうがない。

でもたまにはこういうのも悪くない気がする。
感情のまま動いて、雨に濡れて。


最期の目的地に辿り着くまでの間、色々な事を考えた。


今までの楽しかったこと、嫌なこと全部。
これからどうしたいか、どうしたかったのか。

考えるのも辞めてしまいたいくらい、面倒だったこと。

それももう、今日で終わりなんだ。


目的地に付いた。
そこは高く脆い崖の上で、海が一望できる。

どんより重たい曇り空に、溢れて止まない雨。

これならきっと、僕をたくさん包み込んでくれる。


雨に佇む僕を、きっと誰かは見たくなかったはず。
でも誰か1人でも望んで、美しいと思っているなら。


僕は、ふわりと宙を舞った。


これが、僕の"芸術"だ。

8/26/2023, 2:43:16 PM

Episode.8 私の日記帳


毎朝、起きてすぐに机に向かう。
私は夢日記を書くことにしたのだ。


この綴りで始まった日記帳には、おかしなことあった。

○月×日
今日は大きな雲に乗って、綿菓子を食べる夢
ふわふわ空を飛んでいて気持ちが良かった
綿菓子も乗っている雲に似ててふわふわ、美味しかった

○月××日
今日はゾンビに追いかけられる夢
自分の家が改造されているような、見覚えのある構造
最後は噛まれた時の痛みで起きた
起きたら痛みは消えていた


1ヶ月後。
それは解読不可能で、とても怖かった。


€日?月日n
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○○月×日
夢日記を続けると、夢日記精神がおかしくなるおかと聞きましたが、私は精神に精神異常をきたしていませ異常をきたしません
私は精神に異常をきたしていません私は夢日記異常精神が私異常をしませんきたしていません私はいた精神きたし異常を


____○○月××日
とあるマンション内で、女性が自殺しているところが発見されました。

8/25/2023, 11:10:32 AM

Episode.7 向かい合わせ


鏡の世界は、いつも向かい合わせ。
映し出すもの全て。
他人を覗いている気分で。


「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」

そう聞けば、必ず私を映し出す。
映るのは必ず私でなければいけないわ。

そんな当たり前の日々は、気が付けば崩れ始めていた。
最近、鏡は何も映し出さない。
調子が狂ってしまったのかしら。
そうならば、修理に出さなきゃいけないわね。

そんなことを考えながら、翌日も同じことを聞く。

「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」

どういうことなの。

鏡は、私によく似た外見をしている女性を映し出した。
しかしどこか悲しげで、穢らわしい。

「…は?私を…私をバカにしているの?」

鏡の中に映る醜い彼女は、私に微笑み話しかけてきた。

「私の事、自分に似ている知らない人だと思っているの
 でしょう?でも残念。
 鏡の世界はいつだって向かい合わせなのよ。」

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

彼女は続ける。

「私は…今まで醜い化け物だって貶されてきたの。
 毎日鏡に聞いても、何も映し出さなくて。
 でも今日やっと会えたわ。とっても嬉しいのよ。
 ねえ、私と入れ替わりましょう。
 鏡の世界はいつだって向かい合わせ、貴方がこっちの
 世界に来たところで同じでしょう?」

「嫌よ!!嫌に決まってるじゃない!
 私は美しくなきゃ私じゃないの!
 そんな穢らわしい私なんているはずがないの!!」

「ねえ、生物として存在している以上、みんな生と死の
 向かい合わせでしょう?それと同じよ。
 私も生きていたいだけなのよ。分かるでしょう?」

「…うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうる
 さいうるさいうるさい!!!!」

なんなんだこの化け物は。
ニヤニヤしやがって、私をバカにしやがって。

___そうよ。こんな鏡、壊してしまいましょう。

「この鏡、壊してあげるわ!貴方が我儘言うからよ!
 化け物は化け物らしく閉じ籠っていなさい!」

「ふふ、それはどうかしら。
 その口調、態度、顔。本当に美しいかしら?
 よーく鏡を御覧なさい、醜い貴方が映っているわ。」


嗚呼、結局こうだ。


私の家は裕福で、何一つとして不自由はなかった。
そんな生活をしていても、幼いながらに家族を困らせたくない気持ちが強く、我儘を言うことはなかった。

でも、一瞬の油断のせいで。

大量の刺客が攻め込んできた。
警備体制がいつもより緩くなっていた日。
家は全焼し、私の両親はその場で_____


その日からだ。何もかもが変わり果てたのは。


いつになっても傷が癒えず、穢らわしい見た目のまま部屋に閉じ籠もる。
それは誰が見ても、醜い化け物だと言う程に。


「あら、やっと思い出したの?
 私、思うのよ。貴方だけ生き残って可哀想って。」

「…か、わい、そう?わ、た、わた、し、が…?」

「ええ。あの日から貴方は1人でしょう?
 1人は寂しくて辛いもの。貴方は私なのだから分かって
 あげられるわ。
 それでね、提案があるの。
 私と入れ替わって、あの日に戻ってみない?
 貴方1人にならないように、私が救ってあげるわ。」

「……そっちいったら、わたし、幸せになれるの?」

「そうよ。約束するわ。
 さあ、此方へいらっしゃい。」


生と死は隣り合わせ。
生物として存在している以上、変わることのないもの。

死は生に戻らず、生は死になれば生に戻れない。
2人は、彼女は、自分とやっと向き合えたのだ。

このお話はきっと、ハッぴヰE...°。

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