Tanzan!te

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Episode.7 向かい合わせ


鏡の世界は、いつも向かい合わせ。
映し出すもの全て。
他人を覗いている気分で。


「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」

そう聞けば、必ず私を映し出す。
映るのは必ず私でなければいけないわ。

そんな当たり前の日々は、気が付けば崩れ始めていた。
最近、鏡は何も映し出さない。
調子が狂ってしまったのかしら。
そうならば、修理に出さなきゃいけないわね。

そんなことを考えながら、翌日も同じことを聞く。

「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」

どういうことなの。

鏡は、私によく似た外見をしている女性を映し出した。
しかしどこか悲しげで、穢らわしい。

「…は?私を…私をバカにしているの?」

鏡の中に映る醜い彼女は、私に微笑み話しかけてきた。

「私の事、自分に似ている知らない人だと思っているの
 でしょう?でも残念。
 鏡の世界はいつだって向かい合わせなのよ。」

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

彼女は続ける。

「私は…今まで醜い化け物だって貶されてきたの。
 毎日鏡に聞いても、何も映し出さなくて。
 でも今日やっと会えたわ。とっても嬉しいのよ。
 ねえ、私と入れ替わりましょう。
 鏡の世界はいつだって向かい合わせ、貴方がこっちの
 世界に来たところで同じでしょう?」

「嫌よ!!嫌に決まってるじゃない!
 私は美しくなきゃ私じゃないの!
 そんな穢らわしい私なんているはずがないの!!」

「ねえ、生物として存在している以上、みんな生と死の
 向かい合わせでしょう?それと同じよ。
 私も生きていたいだけなのよ。分かるでしょう?」

「…うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうる
 さいうるさいうるさい!!!!」

なんなんだこの化け物は。
ニヤニヤしやがって、私をバカにしやがって。

___そうよ。こんな鏡、壊してしまいましょう。

「この鏡、壊してあげるわ!貴方が我儘言うからよ!
 化け物は化け物らしく閉じ籠っていなさい!」

「ふふ、それはどうかしら。
 その口調、態度、顔。本当に美しいかしら?
 よーく鏡を御覧なさい、醜い貴方が映っているわ。」


嗚呼、結局こうだ。


私の家は裕福で、何一つとして不自由はなかった。
そんな生活をしていても、幼いながらに家族を困らせたくない気持ちが強く、我儘を言うことはなかった。

でも、一瞬の油断のせいで。

大量の刺客が攻め込んできた。
警備体制がいつもより緩くなっていた日。
家は全焼し、私の両親はその場で_____


その日からだ。何もかもが変わり果てたのは。


いつになっても傷が癒えず、穢らわしい見た目のまま部屋に閉じ籠もる。
それは誰が見ても、醜い化け物だと言う程に。


「あら、やっと思い出したの?
 私、思うのよ。貴方だけ生き残って可哀想って。」

「…か、わい、そう?わ、た、わた、し、が…?」

「ええ。あの日から貴方は1人でしょう?
 1人は寂しくて辛いもの。貴方は私なのだから分かって
 あげられるわ。
 それでね、提案があるの。
 私と入れ替わって、あの日に戻ってみない?
 貴方1人にならないように、私が救ってあげるわ。」

「……そっちいったら、わたし、幸せになれるの?」

「そうよ。約束するわ。
 さあ、此方へいらっしゃい。」


生と死は隣り合わせ。
生物として存在している以上、変わることのないもの。

死は生に戻らず、生は死になれば生に戻れない。
2人は、彼女は、自分とやっと向き合えたのだ。

このお話はきっと、ハッぴヰE...°。

8/25/2023, 11:10:32 AM