Episode.9 雨に佇む
カフェから出ると急に雨が降り始めた。
ついてないなあ。
そう言って、僕は踏み出した。
傘もささず、カッパも着ないで。
全身が一瞬にして水に包まれた。
冷たい、冷たくてしょうがない。
でもたまにはこういうのも悪くない気がする。
感情のまま動いて、雨に濡れて。
最期の目的地に辿り着くまでの間、色々な事を考えた。
今までの楽しかったこと、嫌なこと全部。
これからどうしたいか、どうしたかったのか。
考えるのも辞めてしまいたいくらい、面倒だったこと。
それももう、今日で終わりなんだ。
目的地に付いた。
そこは高く脆い崖の上で、海が一望できる。
どんより重たい曇り空に、溢れて止まない雨。
これならきっと、僕をたくさん包み込んでくれる。
雨に佇む僕を、きっと誰かは見たくなかったはず。
でも誰か1人でも望んで、美しいと思っているなら。
僕は、ふわりと宙を舞った。
これが、僕の"芸術"だ。
8/27/2023, 3:15:41 PM