Tanzan!te

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8/27/2023, 3:15:41 PM

Episode.9 雨に佇む


カフェから出ると急に雨が降り始めた。
ついてないなあ。
そう言って、僕は踏み出した。

傘もささず、カッパも着ないで。
全身が一瞬にして水に包まれた。

冷たい、冷たくてしょうがない。

でもたまにはこういうのも悪くない気がする。
感情のまま動いて、雨に濡れて。


最期の目的地に辿り着くまでの間、色々な事を考えた。


今までの楽しかったこと、嫌なこと全部。
これからどうしたいか、どうしたかったのか。

考えるのも辞めてしまいたいくらい、面倒だったこと。

それももう、今日で終わりなんだ。


目的地に付いた。
そこは高く脆い崖の上で、海が一望できる。

どんより重たい曇り空に、溢れて止まない雨。

これならきっと、僕をたくさん包み込んでくれる。


雨に佇む僕を、きっと誰かは見たくなかったはず。
でも誰か1人でも望んで、美しいと思っているなら。


僕は、ふわりと宙を舞った。


これが、僕の"芸術"だ。

8/26/2023, 2:43:16 PM

Episode.8 私の日記帳


毎朝、起きてすぐに机に向かう。
私は夢日記を書くことにしたのだ。


この綴りで始まった日記帳には、おかしなことあった。

○月×日
今日は大きな雲に乗って、綿菓子を食べる夢
ふわふわ空を飛んでいて気持ちが良かった
綿菓子も乗っている雲に似ててふわふわ、美味しかった

○月××日
今日はゾンビに追いかけられる夢
自分の家が改造されているような、見覚えのある構造
最後は噛まれた時の痛みで起きた
起きたら痛みは消えていた


1ヶ月後。
それは解読不可能で、とても怖かった。


€日?月日n
今日h#6々はらnc(#はは_vり。は、くAwせdrftgyふ〒」こlp
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○○月×日
夢日記を続けると、夢日記精神がおかしくなるおかと聞きましたが、私は精神に精神異常をきたしていませ異常をきたしません
私は精神に異常をきたしていません私は夢日記異常精神が私異常をしませんきたしていません私はいた精神きたし異常を


____○○月××日
とあるマンション内で、女性が自殺しているところが発見されました。

8/25/2023, 11:10:32 AM

Episode.7 向かい合わせ


鏡の世界は、いつも向かい合わせ。
映し出すもの全て。
他人を覗いている気分で。


「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」

そう聞けば、必ず私を映し出す。
映るのは必ず私でなければいけないわ。

そんな当たり前の日々は、気が付けば崩れ始めていた。
最近、鏡は何も映し出さない。
調子が狂ってしまったのかしら。
そうならば、修理に出さなきゃいけないわね。

そんなことを考えながら、翌日も同じことを聞く。

「鏡よ鏡、この世で1番美しいのはだあれ?」

どういうことなの。

鏡は、私によく似た外見をしている女性を映し出した。
しかしどこか悲しげで、穢らわしい。

「…は?私を…私をバカにしているの?」

鏡の中に映る醜い彼女は、私に微笑み話しかけてきた。

「私の事、自分に似ている知らない人だと思っているの
 でしょう?でも残念。
 鏡の世界はいつだって向かい合わせなのよ。」

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

彼女は続ける。

「私は…今まで醜い化け物だって貶されてきたの。
 毎日鏡に聞いても、何も映し出さなくて。
 でも今日やっと会えたわ。とっても嬉しいのよ。
 ねえ、私と入れ替わりましょう。
 鏡の世界はいつだって向かい合わせ、貴方がこっちの
 世界に来たところで同じでしょう?」

「嫌よ!!嫌に決まってるじゃない!
 私は美しくなきゃ私じゃないの!
 そんな穢らわしい私なんているはずがないの!!」

「ねえ、生物として存在している以上、みんな生と死の
 向かい合わせでしょう?それと同じよ。
 私も生きていたいだけなのよ。分かるでしょう?」

「…うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうる
 さいうるさいうるさい!!!!」

なんなんだこの化け物は。
ニヤニヤしやがって、私をバカにしやがって。

___そうよ。こんな鏡、壊してしまいましょう。

「この鏡、壊してあげるわ!貴方が我儘言うからよ!
 化け物は化け物らしく閉じ籠っていなさい!」

「ふふ、それはどうかしら。
 その口調、態度、顔。本当に美しいかしら?
 よーく鏡を御覧なさい、醜い貴方が映っているわ。」


嗚呼、結局こうだ。


私の家は裕福で、何一つとして不自由はなかった。
そんな生活をしていても、幼いながらに家族を困らせたくない気持ちが強く、我儘を言うことはなかった。

でも、一瞬の油断のせいで。

大量の刺客が攻め込んできた。
警備体制がいつもより緩くなっていた日。
家は全焼し、私の両親はその場で_____


その日からだ。何もかもが変わり果てたのは。


いつになっても傷が癒えず、穢らわしい見た目のまま部屋に閉じ籠もる。
それは誰が見ても、醜い化け物だと言う程に。


「あら、やっと思い出したの?
 私、思うのよ。貴方だけ生き残って可哀想って。」

「…か、わい、そう?わ、た、わた、し、が…?」

「ええ。あの日から貴方は1人でしょう?
 1人は寂しくて辛いもの。貴方は私なのだから分かって
 あげられるわ。
 それでね、提案があるの。
 私と入れ替わって、あの日に戻ってみない?
 貴方1人にならないように、私が救ってあげるわ。」

「……そっちいったら、わたし、幸せになれるの?」

「そうよ。約束するわ。
 さあ、此方へいらっしゃい。」


生と死は隣り合わせ。
生物として存在している以上、変わることのないもの。

死は生に戻らず、生は死になれば生に戻れない。
2人は、彼女は、自分とやっと向き合えたのだ。

このお話はきっと、ハッぴヰE...°。

8/24/2023, 1:55:58 PM

Episode.6 やるせない気持ち


なにも、なにもない。

やるせない気持ちなら、なにもない。

書けない、書けない、書けない。

煩悩、感情、全てが邪魔。

この話を書き上げることは、できない。

書いていると、自分を映しているみたいで。

自分が憎くて、嫌いで、どうしようもなくて。

逃げてばかりで、ろくでもない。

嗚呼、このまま、ずっと。


ずっと、消えてしまえば。

8/23/2023, 12:43:20 PM

Episode.5 海へ


突然だが、私はもう死んでいるはずだ。
生きていた時の苦しさから逃げるため、海に身を投げたからだ。
そういえば、死後の世界があるという噂を聞いた。


次に目を開けた時は、心地よくて暖かい場所にいた。
あたりは少し眩しく白い、地球の空のようだった。
ふと、私の右から誰かの声が聞こえた。

「お目覚めになられましたか、海琴様。」

見たことのない男性が、知らないはずの私の名前を呼んだ。
その男性はまるで神の使いのようで、とても美しく儚い人だ。

「ここは…どこなんですか?」

「ここは死後の世界の受付場所、あなたの今後について
 のご説明とご契約をさせていただきます。」


何を言っているのか分からない。


「……あなたは誰?」

「私はヨゼフと申します。
 死後の世界で働く、元々人間だった者です。」

「元々って…今は人間じゃないの?
 確かに人間なのか疑うような美貌だけど…」

「ふふ、ありがとうございます。
 私もここに来る前は、海琴様と同じ人間でした。
 後に詳しい説明をいたしますが、ここでは死後も、
 生前と同じような世界が作られており、そこで働く
 ことも可能なのです。もちろん、次の生命として生ま
 れ変わることもできます。私はここで働くと決めた際
 に人間を辞め、神の使いになるという契約を交わ
 したのです。」

ここで死んで来た人にこの世界の説明、案内をする人は神の使いになる契約をするらしい。
ただ死後の世界を楽しむ人は、それを同意する契約を交わす。
この世界は平和が絶対で、違反した者は連れられる。


「…説明は以上です。
 何か質問等はございませんか?」

「私、あの世界で受けたことが嫌で。耐えられなくて。
 それで海に身を投げたんです。
 …まだやりたいことがあるんですけど、この世界に
 も海はありますか?」

「ええ、もちろんございます。
 但し、この世界では命を絶つことはできません。
 もし自ら命を絶つような行動が発見されれば、その場
 で強制的に次の生命へと生まれ変わることになりま
 す。」

「それは大丈夫です。同じことはもう…大丈夫。」

正直、まだ躊躇いがあった。


私があの世界から逃げる時に海を選んだ理由。
生前好きだった女の子が、海で自ら命を絶った。
そして彼女と最後に交わした会話。


「もしも私も海琴も死んじゃったら、またこの海で会
 おうよ!夕暮れ時の海、なんかワクワクしない?
 水着持って行ってさ、青春しようよ!」

「急にそんな事言わないでよ…怖いなあ。
 でも約束!絶対忘れないでよ。」

「もちろん!まかせなさい!」


彼女は父親からの暴力に耐えられず死んだ。
私も彼女が死んでから何も手につかなくて、暴力を振るわれるようになって、耐えられなくて死んだ。
どうせ死ぬなら彼女と同じが良かった。


「…それでは海琴様、お気をつけて。」

「ありがとうございます。」


行きたい所があれば想像をする、そうすると目を開けた時にそこにいるらしい。
かの有名なアニメみたい、ちょっとワクワクする。



時刻は夕暮れ時、その海には2人がいた。
私とあの時約束を交わした彼女が。
ずっと、私が来るまで毎日待っていたのだろうか。
私はゆっくり彼女の方へ歩み寄った。

足音に気付いたのか、彼女は振り向いた。

「…海琴?」

「うん、ちゃんと来たよ、煒月。」

「…う、うわあああん!みこと、みことだああっ!」

泣きながら抱きついてきた。

「煒月、もしかしてずっと待ってたの?」

「待ってたよお…約束、覚えてたのうれしい!」

「忘れるわけないよ、会えてすごくうれしい!」


そこから、私達は会話を続けた。
誰がどう見ても友人の感動の再会だ。
…私にとっては少し違った。
でも煒月はきっと、煒月は、そうじゃないから。
期待はしてなかった。もう諦めていた。


「海琴!海、一緒に遊ぼうよ!
 水着着替えよーっと!可愛いの持ってきたんだー!」

「行こ行こ!私だって可愛いの持ってきたよ!」


でも、これもまた幸せで。
これ以上の関係を求める程に達しなかった。

私達は、再び海へと走り出した。

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