アリア

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10/14/2025, 3:48:46 PM



夏から秋に変わるこの時期は
もの淋しく一年の終わりをぐっと感じ始める頃。
暑かった気温は一転、肌寒くって
半袖から長袖に変わる、そんな時期。


そんな風に物思いにふけていると
美味しい!と聞こえ店内を見る。
感嘆の声を発したのは女性でそれはもう
幸せだという顔をして笑っていた。


あんな美味しそうに食べてくれるのなら
作った甲斐があったな


その女性を見てそう思った。
この道に走ると決めて
学校へ行き卒業後は師の元で励む日々。
そして初めて作ろうと思ったのは自分が好きな
あの水々しくて食感が楽しい梨だった。


リンゴやいちごなど定番はよく見る。
けれど梨はあんまり見なくて
美味しいのに、その思いで作ったんだ。
梨の美味しさを知って欲しくて。


なんだかいい気分だ。
フッと口角をあげ仕事に励む。
そうして黙々と仕事をしているとレジのベルが鳴り表に出る。



そこには先ほどの女性がいた。
店内で食べてたからお会計かなと思ったので
ありがとうございます、伝票はございますか?と聞く。


「あの、持ち帰りもしたくて
一緒に払えますか?」
「あぁ、どうぞ。
どれになさいますか?」
「梨のケーキを…3つ!」
「…3つでございますね、ありがとうございます」


思わず多いな、と言いかけてしまった。
危ない危ない。
ショーケースから3つ取り出し丁寧に箱にしまっていく。


そして女性の元に持ってくると話しかけられた。


「この梨のケーキ、子どもたちにも食べてほしくて」
「…お子様にですか?」
「そう、とっても美味しくて優しい味がしたから」


目頭が熱くなる。
込められていた気持ちが伝わることは
こんなにも嬉しいのか。


「梨は【愛情】という意味があるんです」
「え?」
「だから、その【愛情】がお子様に届きますように」


なんて、無責任にすみませんと謝ればポカンとした後
女性はフフッと笑った。
少しだけ目がウルッとしていたのは知らないふりをした。きっとそれが正解だと思ったから。


「ありがとう」


また来ますねそう言って女性はお店を去っていった。
店内は落ち着いていたので再び中に戻ると師から話しかけられる。


「良かったな」


恐らく聞こえていたのだろう。
そしてこの人は自分の歩んで来た道がどれだけ大変だったか知っている。
感慨深く感じているのだろう。


自分も胸が熱くなった。
けれども今は仕事中だ。


精一杯の笑顔と何度も頷くことで
同意を示した。


誰かの笑顔に助けられる日々は
なにものにも代えがたい思い出だ。
今日あった日々を大事にしていきたいと
そう思えたのだった。



お題【梨】

10/13/2025, 4:13:00 PM



今宵君の街へ降り立つのは
誰でしょうか。
君か私か、はたまたまったくご縁のない人か。
ここではどんな事をしたって
咎められる事はない世界。


例えば、LaLaLaなんて狂ったように
歌いながら涙を流して愛する人に別れを告げる事も
有り得る世界。
え、有り得ない?
ふふ、ふふふ…それもそうでしょう
だってここは夢で現実ではございません。


じゃあどうしてそんな事聞くのかって?
そうですね
此処に来られる方は皆そういいます。
身に覚えありませんか?
別れを告げられたのに忘れられないとか
急な展開についていけず苦しんでいる、とか。
何かしらみなさま悩みを持ってこの地に降り立つんです。


悩み事がお有りなら私が聞きましょう。
…必要ない、そう…ですか。
随分と強くなられたようで、いえこちらの話です。


そんな事より視界がぼやける?
それはあなたが目覚めようとしているのでしょうね。
まだこの世界はあなたには早かった。
そういう事でしょう。
それならば見送りをせねばなりませんね。


こちらの汽車に乗り深呼吸をしたらゆっくりと目を開けるんですよ。
そうすればあなたは現実を見ることになる。
あぁもちろん辛くなったらまた来てもかまいません。
どなたも歓迎するのがこの世界のルール。


そして別れの時は決まってみな歌うのです。
LaLaLaGoodBye……なんておしゃれな風に。
さぁそんな事話してたら出発の時間ですね。
どうぞお気をつけて



お目覚めくださいね



お題【LaLaLaGoodBye】

10/12/2025, 6:23:31 PM


せ〜んろはつづく〜よ
ど〜こまでも〜


保育園児の列車が目の前を通過する。
散歩中なのだろう、園児1人1人が紐をつかんで
先生が辺りを気にしながら歩道を歩いていた。
可愛い列車に周りはニコニコ微笑ましいとでもいうような優しさのある表情が多く、自分はその光景をボーっと見てるだけ。


どこまでも行ける
あの頃の自分もそう思ってその歌を歌っていた。
子供番組でも流れるみながよく知るその歌は
ワクワクする感覚になれるもので
未来が楽しみになれる曲だった。


それなのに


今の自分はボロボロで
仕事で体は疲れ果て
精神が参っていて
そんな状態で毎日家にと帰る。


「ねぇねぇ」


ふと園児が声をかけてきた。
え?と下に目を向けるとずいっと何かを食い気味に突き出される。
黄色くて綺麗な花で瞬きする。


「あげる!ママがねコレ渡すと笑ってくれたの!」


無邪気な園児の言葉にポロリと涙が出る。
笑わなきゃ、せっかく笑ってくれると思って渡してくれたのに止めないと。


「すみません!」


一人の先生が慌ててやってくる。
園児も不安げな顔をして先生と自分の顔を交互に見る。違うのだ、謝られる必要はないんだ。


「優しさが嬉しくて…泣いちゃったんです」



君はすごいね、ありがとう
そう言うと園児はえっへんと笑った。


「…散歩中なのにすみません、もう大丈夫です」


先生に笑うとホッとしたように頷き園児と他の園児達の方へと帰っていく後ろ姿を見送る。手には先ほどの花、そうだコレは押し花にしよう。
押し花にした後は栞にして
好きな本を読むときに使おう。

今日の思い出として
明日をこの先を生きる糧として。


「うん、もう大丈夫」


胸をトンと勇気づけるように1回叩き空を見る。
快晴で羊雲などはないその空は
背中を押してくれているような気がした。


どこまでも果てしなく続く道や空、海。
どこまでもというものは色々ある。



けれども自分が心に強く残ったものは
どこまでも綺麗な心で人のために何かが出来る
純粋なあの子の笑顔だった。



お題【どこまでも】

10/9/2025, 1:51:34 PM


カランカラン

「あの」
「あぁお客さん?ちょっと待ってな」

もの淋しげなお店の中に男性の店員がポツリ。
本当に此処で大丈夫かな。
口コミで見たから来たんだけど。

「はいよ?で、お客さんはどうした?」
「【処方箋】を欲しくて」
「あぁ、秋だもんな。
なるほどなるほど?」


もうそんな時期かとでも言うようにその男性は
笑って、ひとまずそこ席付きなと促されたので
空いてる席に座る。


「秋はさー、なんか分かんねぇけど失恋が多いんだ」
「…はぁ」
「お客さんの彼氏はどんな感じだったのよ」


【処方箋】と関係がある事なのかと思いつつ、彼氏の事を話した。最初はいいやつだった、同居した途端変わった。浮気もしてた、此方への口が悪くなった。
そんな事をつらつら話していてもなるほどなぁと男性のニコニコは変わらない。

「あのそろそろ【処方箋】…」
「あぁ!そうだったな」


男性はレジ後ろの引き出しをガサガサ探り
あったあったと何かを持ってきた。
目の前に差し出されたのは小瓶が2つ。


「あのコレは?」
「【処方箋】よ」


コレが…?
なんか怪しくなってきたなと不審げな顔をするも男性は気にせず話を続けた。


「この店はお客さんにあった【処方箋】を出すお店。
今のを聞いた上で持ってきたモノよ」
「…私に合う薬だと」
「そういうこと」


コトリとテーブルに置かれる小瓶は一つはピンク、一つは青色だった。明らかに飲むとヤバそうな気がするんだけれども。


「どっちを選ぶかはここからはお客さん次第だ。
彼氏のピンクは気持ちを元に戻すお薬
青色のは彼氏の事を忘れて次の恋を探すお薬」



どっちがいい?
そう聞かれて息を呑む。
究極の2択だと思ったのだ。
確かに次の恋を探したいとも思う、もう彼の事は忘れたいと。でも忘れたくない気持ちもあって元に戻ってくれるならと願った日だってあったから。


「ちなみに選ばないという選択肢もあるんだぜ。
その場合は無駄足にもなるし、辛いかもしれない」


その覚悟がお客さんにはあるかい?


覚悟、覚悟なんてわからない。
だって辛い思いはしたくない。
もう十分だってくらい経験したし、でもコレを選ばなきゃいけないほどの事だった?


「…私、選ばないです」
「お、なんでか聞いても?こっちも商売だからね」
「負けたくないんです、コレを使って忘れてもいいし元に戻したって幸せだと思うけど…私はもうあの人と一緒にはなれないしどうせ次を探す事になる」



それなら忘れずそれをバネにして次を探したいんです。




そう告げれば男性は目を見開いた後、優しくニッコリ笑った。



「それに自分で気づけたのなら俺は必要ねぇさ、相談料だけいただくとするか」
「ありがとうございます」
「はいよ。
じゃあ気ィつけて、また機会があったらご贔屓に」
「はい!」


元気に手を降って扉をくぐると眩しさに目を細める。
なんだか前を向いていけそうだ、
そんな事を考えながら街の中へと紛れ込んだ。



お題【秋恋】

10/5/2025, 2:55:26 PM



今日はなんとかムーンと言われる日らしい。
いつもならふーんと受け流すところだが
なんとなく寝れなくて外の空気を吸うかと
窓をガラリと開ければ満月が夜空を照らしていた。

「…見てもわかんねぇな」

普段から月を見る習慣なく
もちろんいつもと違う月だからと
わざわざ見るはずもなく
そもそもそれを知ったのも天文が好きな
友人から聞いたからだった。


当然違いなどわからない。
ただいつもよりなんとなく明るいか?
なんて思ってると手に持っていた携帯が
明るくなる。

見た?めっちゃ明るい月!

…明るい、まぁ明るいか。
言われてみればっつー感じか。

頬杖をベランダの手すりにつき、
フリックして返信する。

今見てる、まぁ確かにいつもより明るいかもな

そう送れば即座に既読。
そしてドヤァと言わんばかりのスタンプに
フッと笑みが溢れる。


「いつもと違うことしてみんのも悪かねぇか」


月明かりが心を晴らしていく。
暖かな光は太陽でもないのにぽかぽかして
なんとも変な感じ。


あぁ今日はいつもより寝れそうだ。


そう思うとそろそろ寝るわ、おやすみと相手に送るともう一度だけ空を見上げる。
そこには先ほどよりも一際輝いて見える月がいた。


お題【moonlight】

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