アリア

Open App


カランカラン

「あの」
「あぁお客さん?ちょっと待ってな」

もの淋しげなお店の中に男性の店員がポツリ。
本当に此処で大丈夫かな。
口コミで見たから来たんだけど。

「はいよ?で、お客さんはどうした?」
「【処方箋】を欲しくて」
「あぁ、秋だもんな。
なるほどなるほど?」


もうそんな時期かとでも言うようにその男性は
笑って、ひとまずそこ席付きなと促されたので
空いてる席に座る。


「秋はさー、なんか分かんねぇけど失恋が多いんだ」
「…はぁ」
「お客さんの彼氏はどんな感じだったのよ」


【処方箋】と関係がある事なのかと思いつつ、彼氏の事を話した。最初はいいやつだった、同居した途端変わった。浮気もしてた、此方への口が悪くなった。
そんな事をつらつら話していてもなるほどなぁと男性のニコニコは変わらない。

「あのそろそろ【処方箋】…」
「あぁ!そうだったな」


男性はレジ後ろの引き出しをガサガサ探り
あったあったと何かを持ってきた。
目の前に差し出されたのは小瓶が2つ。


「あのコレは?」
「【処方箋】よ」


コレが…?
なんか怪しくなってきたなと不審げな顔をするも男性は気にせず話を続けた。


「この店はお客さんにあった【処方箋】を出すお店。
今のを聞いた上で持ってきたモノよ」
「…私に合う薬だと」
「そういうこと」


コトリとテーブルに置かれる小瓶は一つはピンク、一つは青色だった。明らかに飲むとヤバそうな気がするんだけれども。


「どっちを選ぶかはここからはお客さん次第だ。
彼氏のピンクは気持ちを元に戻すお薬
青色のは彼氏の事を忘れて次の恋を探すお薬」



どっちがいい?
そう聞かれて息を呑む。
究極の2択だと思ったのだ。
確かに次の恋を探したいとも思う、もう彼の事は忘れたいと。でも忘れたくない気持ちもあって元に戻ってくれるならと願った日だってあったから。


「ちなみに選ばないという選択肢もあるんだぜ。
その場合は無駄足にもなるし、辛いかもしれない」


その覚悟がお客さんにはあるかい?


覚悟、覚悟なんてわからない。
だって辛い思いはしたくない。
もう十分だってくらい経験したし、でもコレを選ばなきゃいけないほどの事だった?


「…私、選ばないです」
「お、なんでか聞いても?こっちも商売だからね」
「負けたくないんです、コレを使って忘れてもいいし元に戻したって幸せだと思うけど…私はもうあの人と一緒にはなれないしどうせ次を探す事になる」



それなら忘れずそれをバネにして次を探したいんです。




そう告げれば男性は目を見開いた後、優しくニッコリ笑った。



「それに自分で気づけたのなら俺は必要ねぇさ、相談料だけいただくとするか」
「ありがとうございます」
「はいよ。
じゃあ気ィつけて、また機会があったらご贔屓に」
「はい!」


元気に手を降って扉をくぐると眩しさに目を細める。
なんだか前を向いていけそうだ、
そんな事を考えながら街の中へと紛れ込んだ。



お題【秋恋】

10/9/2025, 1:51:34 PM