アリア

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夏から秋に変わるこの時期は
もの淋しく一年の終わりをぐっと感じ始める頃。
暑かった気温は一転、肌寒くって
半袖から長袖に変わる、そんな時期。


そんな風に物思いにふけていると
美味しい!と聞こえ店内を見る。
感嘆の声を発したのは女性でそれはもう
幸せだという顔をして笑っていた。


あんな美味しそうに食べてくれるのなら
作った甲斐があったな


その女性を見てそう思った。
この道に走ると決めて
学校へ行き卒業後は師の元で励む日々。
そして初めて作ろうと思ったのは自分が好きな
あの水々しくて食感が楽しい梨だった。


リンゴやいちごなど定番はよく見る。
けれど梨はあんまり見なくて
美味しいのに、その思いで作ったんだ。
梨の美味しさを知って欲しくて。


なんだかいい気分だ。
フッと口角をあげ仕事に励む。
そうして黙々と仕事をしているとレジのベルが鳴り表に出る。



そこには先ほどの女性がいた。
店内で食べてたからお会計かなと思ったので
ありがとうございます、伝票はございますか?と聞く。


「あの、持ち帰りもしたくて
一緒に払えますか?」
「あぁ、どうぞ。
どれになさいますか?」
「梨のケーキを…3つ!」
「…3つでございますね、ありがとうございます」


思わず多いな、と言いかけてしまった。
危ない危ない。
ショーケースから3つ取り出し丁寧に箱にしまっていく。


そして女性の元に持ってくると話しかけられた。


「この梨のケーキ、子どもたちにも食べてほしくて」
「…お子様にですか?」
「そう、とっても美味しくて優しい味がしたから」


目頭が熱くなる。
込められていた気持ちが伝わることは
こんなにも嬉しいのか。


「梨は【愛情】という意味があるんです」
「え?」
「だから、その【愛情】がお子様に届きますように」


なんて、無責任にすみませんと謝ればポカンとした後
女性はフフッと笑った。
少しだけ目がウルッとしていたのは知らないふりをした。きっとそれが正解だと思ったから。


「ありがとう」


また来ますねそう言って女性はお店を去っていった。
店内は落ち着いていたので再び中に戻ると師から話しかけられる。


「良かったな」


恐らく聞こえていたのだろう。
そしてこの人は自分の歩んで来た道がどれだけ大変だったか知っている。
感慨深く感じているのだろう。


自分も胸が熱くなった。
けれども今は仕事中だ。


精一杯の笑顔と何度も頷くことで
同意を示した。


誰かの笑顔に助けられる日々は
なにものにも代えがたい思い出だ。
今日あった日々を大事にしていきたいと
そう思えたのだった。



お題【梨】

10/14/2025, 3:48:46 PM