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11/1/2023, 10:57:38 AM








          Don't be scare  
      
        God bless you eternally

           Go ahead

10/31/2023, 11:00:25 AM

「Evening 」
濃い霧を抜けると、水平線の奥まで広がる水面が、鏡面が如く淡い光を反射する。足の甲が浸かるほどの深さの水の中で歩みを進めれば、揺れた鏡面が反射する白い光を散らす。

空を見上げれば、まるで薄い雲の上で、空全体が自ら光を放つかのように、たまご色に輝いている。

後ろを振り向いても帰る道はない。同じ穏やかな水たまりが、水平線を描いているのみである。

下を見下ろせば、水面の下に広がる世界が映し出される。斜陽に照らされただいだい色の絨毯を駆ける、千差万別の生命。頭に美しいツノを携えたものもいれば、大きく鋭い牙に涎を垂らして獲物を見つめるものもいる。

少し進めば水面下に新たな景色が現れる。迷路のように大小の植物が茂るここにも、美しい生命が飛び回る。極彩色の翼をあざやかに操り空を翔けるもの、他よりも遥かに高い知能を持った手足の長い器用なもの。

進めば異なる景色、さらに進めばまた異なる景色。あらゆる生命の源、ただ自然の摂理に従うだけ、全てににおいて調和のとれた、誰の意志にも支配されない生命の果て。
これこそユートピア。僕が生まれ、そして抜け出してきた世界。

ユートピアの先にあるのは、世界を分かつ鏡面と淡い光だけが存在する、無の世界。

神の意志にのみ従う下の世界は、僕にはうるさすぎた。本能のままに、自然がつける順番に従ってただ生命が奪われ、そして生命が誕生する、その繰り返し。
悪意に満たされたユートピアは僕の心を壊してしまった。

果てを抜け出して、無の中に在る僕はユートピアから持ち出した一粒の種を鏡面に植える。しばらくしてそこから現れるのは、幹から美しく伸びた枝に、たった一つだけぶらさがるこがね色の果実。

僕の背後から、鏡面に揺れる波が現れた。振り返るとそこにはもう1人の"ヒト"。
僕にはわかる。夕焼けのような赤い光を背負った彼女は生命の上澄み。
僕らが在る、この無にとって、金色の果実を得た僕ら2人は、新しい世界の"始まり"。

10/30/2023, 11:41:02 AM

        Nostalgia never hits me

10/29/2023, 11:07:47 AM

「reverse」

 覚悟はできた。あとは、この薬を喉の奥に流し込むだけ。

 私には両親がいない。4年前、私が中学2年生のときに父が母を殺した。逮捕された父もすぐに獄中で死んでしまった。残された私は祖母に引き取られることになった。祖父は随分前に亡くなっていた。両親を失って4年が経つが、この4年間を生きられたのは祖母のおかげだ。感謝してもしきれない。けれど、その祖母もつい1週間前、死んでしまった。
 
 祖母が死んでから自殺を決断するのに、時間はかからなかった。両親がいなくなった当時も、私のことを人殺しの子なんて揶揄する同級生もいた。祖母が亡くなってからというもの、私には、私がまるで死神、いや、神なんて高尚なものじゃない、死を纏った化け物かのような目を向けられる。憐れみの感情すら感じなかった。

 ごめん、おばあちゃん。おばあちゃんがくれたこの4年間を無駄にしてしまうかもしれない。でも、すぐにまた会えるよね?

 大量の薬を手に取る。これだけ飲めばこの世から消えられるよね?
 怖い。でも、薬を口へ運ぶ手は止まらなかった。口を開けて、水と一緒に飲み込むだけ。
 そのときだった。

パチンッ

「どうしてそんな愚かなことしようとするわけ?ほんとに君たちの考えることは理解できないよ。」

 振り返るとそこには白のTシャツに、グレーのジャージを身につけた中性的な面立ちの男が、大量の薬を持って立っていた。私が持っていたはずの薬だ。取り返そうと、手を伸ばそうとしたが動かない。

「あ、君が動かせるのは首から上だけだよ。今は僕が時を止めてるからね。君の首から上は僕の時間軸に取り込んじゃったから動かせるけど。」

「薬、返してよ!私は今から死ぬんだから!」
 私は叫ぶ。どうして私の邪魔をするの?というか誰?幻覚?こんなに残酷な人生を与えておいて、こんな時までうまく行かないの?

「死んで何になるのさ。死後の世界なんてないし、ましてや死が救済なんてことがあるわけないでしょ。」

「あんたに何がわかるのよ!これ以上生きてても意味がないの!死ぬしかないのよ、私はっ!」
 
「はあ」
 男がため息をつく。
「だから、死んでも何にもならないって。僕は君を助けに来たんだよ。」

「助けに来た?ふざけたこと言わないで、同じことを言って私に寄ってきたひとがどれだけいるか。1人残らず本当に助けるつもりなんてなかったわ。早くそれを返してよ!」
 結局そういうことよね。この男は私の何を求めてるのかしら。金?体?

「助けに、というのは違ったかな。君に新しい選択肢を与えに来た、とでも言っておこうかな。」
 男は真剣な顔で言った。

「どういうことよ。」

「君の母親は、君の父親に殺され、その後父親も獄中で亡くなった。そうだね?」
 どこから調べてきたのだろうか。まあ、私の周りにいる誰かに聞けばすぐにわかることだし、知っていてもおかしくない。
男は続ける。
「君はそれが本当だと思っているのかい?」

「どういうことよ」

「君は真実を知りたくないか、そう訪ねてるんだ。」 

 わけがわからない。どこかのカルト宗教の勧誘?でも現に私の体は動かない。ああ、私は本当におかしくなってしまったんだ。
 私が口を開く前に彼はさらに続ける。

「答えてくれないみたいだね。それか混乱してるのかな?まあ、どっちでもいい。見ての通り、そして君が今体験しているように、僕は時間を止めることができる。そして、僕は時間を遡ることもできる。残念ながら未来へは行かないけどね。つまり、君を連れて4年前、君の両親が死んだときへ遡れば真実がわかるんじゃないか。そういう話だ。」

「何を言ってるの?私の母は父に殺され、父も刑務所の中で死んだ。それが真実よ。警察もそう言ってたんだから。」

「はあ、全く物分かりが悪いね。」

そう言って彼はポケットから何かを出し、それを手のひらに乗せたままパンッと手を叩いてみせた。すると手のひらのうえには1cmほどの青白い球が現れた。

「これを飲んでしまえば、君は4年前のあのときに戻ることができる。どの場所で目が覚めるかはわからないけど、戻ったら僕もきっとそこにいる。」

そういって青白い球を私の目の前に置いた。

「君から盗んだ大量の薬も置いておくよ。どちらを選ぶかは君次第だ。もし過去に戻ることを選んだなら、そこでまた僕と落ち合おう。君が新たな選択肢を掴んで、君のもう一つの物語が紡がれることを願っているよ。じゃあ、また会おう。」

そんな言葉を残して、彼は突然消えてしまった。

彼が消えたあと、すぐに私の体は自由を取り戻した。
どうすれば良いんだろうか。一度は死ぬと決めた覚悟ももう失われてしまったようだ。仕方ない。球を飲み込んでしまおう。はなからもうどうなってもいい、そう思っていたのだ。
そうして私は球を手に取り胃の中へ流し込んだ。

私の体が、心が、運命を逆行する。

10/28/2023, 12:17:44 PM

「スモール・アドベンチャー」 

 ここは、都市から少し外れた小さな街。この街唯一の駅の目の前には、古き良き商店街が、今もなお地域に根付いて栄えています。
 
 太陽が沈み、人々はみんなそれぞれの家へと帰っていきます。昼間はあんなに盛り上がっていた商店街も、店仕舞いを終えた人々が帰路に着けば、すっかり静かになってしまいます。蛍光灯で照らされて駅前を少し離れると、田んぼや畑が現れ、暗闇の中からカエルやコオロギの鳴き声が聞こえてきます。

 おや?すっかり日も落ち、真っ暗なはずの田んぼの隅が少し光って見えますね。何かいるのでしょうか?バレないようにのぞいてみましょう。


「みんなー!前の満月の日に捕らえた、ぬめぬめ怪獣ゲコゲコの肉がついに尽きてしまった!新たな食料をとりに行かないといけないよ!」
「王子様!今日は新月です!この大きな湖を越えた先にある、くねくねの森の地面を掘れば、あま〜い紫色の宝石を手に入れられるはずです!」

 どうやら小人たちが暮らしているようですね。湖は田んぼでしょうか?くねくねの森や、紫色の宝石はなんのことなんでしょう?もう少し観察してみましょう!

「では、湖をこえ、森へ向かおう!みんなー、行くぞー!」
「「「おー!」」」
「湖には、水上を高速で進む糸使いや、ぬめぬめ怪獣がいる!気をつけて進めー!」
「「「おー!」」」

 糸使いはアメンボのことですね。見てください、彼らが田んぼを進んでいるのが見えますよ!10人くらいでしょうか、2列になってまっすぐ田んぼを進んでいますね。あと少しでくねくねの森の正体もわかりそうですね!

「湖を抜けたぞー!みんな、よくやった!さあ、この山を越えれば、くねくねの森だ。行くぞー!」

 どうやらくねくねの森はさつまいも畑のことのようです。さつまいものツルが、くねくね曲がった木ということでしょうか。彼にとって、田んぼと畑の間の土手を越えることさえ、長い山登りに感じるようですね。

「王子様、あれはなんでしょう!森の向こうに巨大な影が見えます!」
「あ、あれは、巨人だ!みんな、山の麓に戻って隠れろ!」

 あ、私の魔法が切れてしまって、彼らに姿を見られてしまいました。彼らの邪魔になってはいけません、すぐに離れましょう!

 こんなに近くに小人が住んでいるなんて、驚きましたね。彼らが無事にさつまいもを手に入れられると良いのですが。

 え、私ですか?私はしがない魔法使いですよ。時々この街へ遊びに来てるのですよ。いつもは誰もいない夜中に、駅から離れて歩いていくあなたが気になって声をかけてしまいました、すみません。でも、私のおかげで良いものを見られたでしょう?私の魔法がなければ、たぶん小さすぎる彼らの声は聞こえなかったと思いますよ?
 すみません、すっかり長話してしまいました。いつかまたこの街に遊びに来たときには、ぜひこの街を案内してくださいね!それでは!

 不思議な魔法使いは暗がりの奥へ消えていってしまったようだ。

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