「スモール・アドベンチャー」
ここは、都市から少し外れた小さな街。この街唯一の駅の目の前には、古き良き商店街が、今もなお地域に根付いて栄えています。
太陽が沈み、人々はみんなそれぞれの家へと帰っていきます。昼間はあんなに盛り上がっていた商店街も、店仕舞いを終えた人々が帰路に着けば、すっかり静かになってしまいます。蛍光灯で照らされて駅前を少し離れると、田んぼや畑が現れ、暗闇の中からカエルやコオロギの鳴き声が聞こえてきます。
おや?すっかり日も落ち、真っ暗なはずの田んぼの隅が少し光って見えますね。何かいるのでしょうか?バレないようにのぞいてみましょう。
「みんなー!前の満月の日に捕らえた、ぬめぬめ怪獣ゲコゲコの肉がついに尽きてしまった!新たな食料をとりに行かないといけないよ!」
「王子様!今日は新月です!この大きな湖を越えた先にある、くねくねの森の地面を掘れば、あま〜い紫色の宝石を手に入れられるはずです!」
どうやら小人たちが暮らしているようですね。湖は田んぼでしょうか?くねくねの森や、紫色の宝石はなんのことなんでしょう?もう少し観察してみましょう!
「では、湖をこえ、森へ向かおう!みんなー、行くぞー!」
「「「おー!」」」
「湖には、水上を高速で進む糸使いや、ぬめぬめ怪獣がいる!気をつけて進めー!」
「「「おー!」」」
糸使いはアメンボのことですね。見てください、彼らが田んぼを進んでいるのが見えますよ!10人くらいでしょうか、2列になってまっすぐ田んぼを進んでいますね。あと少しでくねくねの森の正体もわかりそうですね!
「湖を抜けたぞー!みんな、よくやった!さあ、この山を越えれば、くねくねの森だ。行くぞー!」
どうやらくねくねの森はさつまいも畑のことのようです。さつまいものツルが、くねくね曲がった木ということでしょうか。彼にとって、田んぼと畑の間の土手を越えることさえ、長い山登りに感じるようですね。
「王子様、あれはなんでしょう!森の向こうに巨大な影が見えます!」
「あ、あれは、巨人だ!みんな、山の麓に戻って隠れろ!」
あ、私の魔法が切れてしまって、彼らに姿を見られてしまいました。彼らの邪魔になってはいけません、すぐに離れましょう!
こんなに近くに小人が住んでいるなんて、驚きましたね。彼らが無事にさつまいもを手に入れられると良いのですが。
え、私ですか?私はしがない魔法使いですよ。時々この街へ遊びに来てるのですよ。いつもは誰もいない夜中に、駅から離れて歩いていくあなたが気になって声をかけてしまいました、すみません。でも、私のおかげで良いものを見られたでしょう?私の魔法がなければ、たぶん小さすぎる彼らの声は聞こえなかったと思いますよ?
すみません、すっかり長話してしまいました。いつかまたこの街に遊びに来たときには、ぜひこの街を案内してくださいね!それでは!
不思議な魔法使いは暗がりの奥へ消えていってしまったようだ。
10/28/2023, 12:17:44 PM