宵風に吹かれたい

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7/11/2025, 11:45:53 AM

あの子が居なくなってからもう3週間が経つ。
学年1位でいつでも優しい、優等生なあの子。そんな子供を持った事で、少し有頂天になっていた私がいる事も分かっていた。でも、高校の卒業式の次の日、朝起きたらあの子が居ないことに気づいた。
焦って家中、町中を探し回った。どこにも居ないことに気づいて、放心状態であの子の部屋の床に雫を落とした。
ふとあの子の勉強机を見ると、山積みの参考書の横に一封の封筒があった。気になって中を見て、私は諦めた。

"レッテルを貼られるのに疲れました。今までありがとう。俺の好きな奴と一緒に旅に出ます。絶対に探さないでください。"

あの子の気持ちに気づけなかった。あの子をずっと傷つけてきた。自分のことしか考えていなかった。
自分が嫌になった。でも、あの子の最後の願いくらい叶えようと思って、あの子を探す事をやめた。

そんな私は今、あの子の写真を持って病室から窓を眺める。
まるで心だけ、逃避行をするように。

7/11/2025, 4:44:35 AM

学年1位のお前と学年2位の俺の逃避行。

「せっかくだし冒険しようぜ!」

少年のように無邪気な笑顔でお前は言った。俺が見たことないような顔だった。もしかしたら今までは「学年1位の優等生」というレッテルの手前、見せたくても見せられない部分だったのかもしれない。
でも、俺はお前のそんなとこを見れてるんだよな。なんだか優越感に浸れた。
そうだな、お前とならどこまでも行けるよ。

そこから俺たちはどこまでいったかな。
手を繋いで、走って、止まって、笑い合って、人目のない場所を歩いていたかな。そんな時お前が言った。

「お前はさ、男と恋愛っていう冒険はどうかな。」

不安そうな顔に胸が高鳴る感覚を覚えた。
そうか、俺の優越感は「好きな人を自分だけのものにできた」から来るものだったのか。
それを知ってしまえばお前の誘いに乗るしかない。
勿論だ。と

これからは
   学年1位のお前と学年2位の俺の
           落ちこぼれ恋愛冒険物語だ。

7/9/2025, 10:31:27 AM

「あの1番明るい星がおおいぬ座!オリオン座の左下ね!シリウスって言うんだよ!」

夜空の下を歩いていた少女が言った。
それに続けて、「卒業をしたら違う高校だから届けたい想いはあの星に」そう提案をした。
少女の友達はLINEの方がいいじゃん、と言う。
すると少女は頬を膨らませて怒った。

「ロマンチックなのが良いんじゃん!」

1番明るい星に2人だけの想いを届ける。そういうのが少女の憧れらしい。少女の友達は彼氏とやれ。なんて思ったが、恋人のいない少女は無理矢理小指をつなぎ合わせ約束をした。

あの頃の約束をふと思い出した少女達は星に想いをはせる。
届け……と少し離れた場所で2人笑いながら。

7/9/2025, 7:20:17 AM

いまだにあの日の事を夢に見るんだ。
仲間の期待、不安、信頼を背負った、あの一球を打ちきれなかった、壁が立ち塞がる頂上の景色を。
点は25対26。あの一球を打ちきれなければ春高にはいけない。
そんな状況の中でエースの俺に託された3本目の球。
俺はあの時、最低な事を考えたんだ。頼む、俺にあげないでくれ。なんて、エースなのに情けない。ミスをするのが怖かった。もし皆んなを春高に連れて行けなくなったら、そう考えると助走が遅れた。足がすくんだ。ジャンプできなかった。腕を振りきれなかった。
おかげでブロックに捕まった。綺麗なドシャットだったなぁ。敵の歓声、仲間の嗚咽。歓喜と絶望の入り混じったあの景色。
全部全部、鮮明に覚えている。
後悔してももう遅い。一瞬でも躊躇ってしまった時点で俺の負けなんだ。
トスが悪かったと謝るセッター、カバーにいけなかったと悔やむレシーバー、俺がトスを呼んでいればと溢すアタッカー。
違う、俺が悪いんだ。エースなら決めるべき場面だったはずなのに。

そんなあの日の景色が毎晩夢に出てくる。あぁ、今日も決められずに終わった。俺はあの日を幾度も繰り返す。

今日も、あの日の景色を変える事に囚われながら。

7/7/2025, 12:19:19 PM

今日は七夕。だから短冊に願い事を書いている。
これは夏に入ってからずっと悩んでいる事だ。コレは母さんにも言ったんだ。でも、母さんに言ってもどうにかなる事じゃなかった。
だから俺は藁にも縋る思いでショッピングモールの笹に短冊をくくりつけて、手を合わせる。こんな事意味ないと分かりながら。
一説によると七夕の願い事は織姫様が叶えるらしい。お願いします、織姫様。どうか、どうか、俺の願い事を聞いてください。
これからは夜更かしも、塾をサボる事もしませんから。
10分程その場に居ただろうか。流石に周りから変な目で見られるのでその場から足早に退散した。

家に帰ってきてからも、俺は天の川を見ながら手を合わせる。
そして恐る恐る母さんに聞く。

「今日の夜ご飯何?」

母さんはにっこり微笑んだ。ほっとしたのも束の間。

「豚とキュウリの炒めものよ。」

食卓に並んでいくキュウリ達を見ながら絶望する。
あぁ、織姫様。貴方はなんて残酷なんだ。俺はあんなに願ったのに。

     "もうキュウリは食べたくない"
                   ってさ。

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