宵風に吹かれたい

Open App

いまだにあの日の事を夢に見るんだ。
仲間の期待、不安、信頼を背負った、あの一球を打ちきれなかった、壁が立ち塞がる頂上の景色を。
点は25対26。あの一球を打ちきれなければ春高にはいけない。
そんな状況の中でエースの俺に託された3本目の球。
俺はあの時、最低な事を考えたんだ。頼む、俺にあげないでくれ。なんて、エースなのに情けない。ミスをするのが怖かった。もし皆んなを春高に連れて行けなくなったら、そう考えると助走が遅れた。足がすくんだ。ジャンプできなかった。腕を振りきれなかった。
おかげでブロックに捕まった。綺麗なドシャットだったなぁ。敵の歓声、仲間の嗚咽。歓喜と絶望の入り混じったあの景色。
全部全部、鮮明に覚えている。
後悔してももう遅い。一瞬でも躊躇ってしまった時点で俺の負けなんだ。
トスが悪かったと謝るセッター、カバーにいけなかったと悔やむレシーバー、俺がトスを呼んでいればと溢すアタッカー。
違う、俺が悪いんだ。エースなら決めるべき場面だったはずなのに。

そんなあの日の景色が毎晩夢に出てくる。あぁ、今日も決められずに終わった。俺はあの日を幾度も繰り返す。

今日も、あの日の景色を変える事に囚われながら。

7/9/2025, 7:20:17 AM