宵風に吹かれたい

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7/4/2025, 8:32:39 AM

「俺、どっか遠くに行って、旅でもしながら生きるよ。」

お前がそう言ったのは高校を卒業した日だった。
中学も高校も成績トップのお前がどうして?って思ったよ。
お前ならどこの大学にも行ける。どんな企業だってお前を欲しがる。そんなお前に追いつこうと俺は学年2位を保ってきたのに。
そんな俺を見透かしたようにお前は笑って言った。

「この世界に飽きたってだけだよ。数字で価値が決められるこの世界に。」

お前はトップなのになぜそんなことを思うのか不思議だった。でも、お前はトップだからこそのプレッシャーとか、レッテルとかが嫌だった。だからもうやめる。ってさ。
そんなこと聞いてたらさ、俺のやってきたこともお前を苦しめてた気がして、罪滅ぼしをしたくて、口をついた。
俺も一緒に行くよ。
お前だけが周りから「変だ」とか、「落ちこぼれ」
とか言われる気がして嫌だった。俺のせいかもしれないのに。
泣きそうになりながら言ったら、案外お前は笑ってOKしてくれてさ。
そんで次の日には何も考えずにこの街を飛び出した。

  これが元学年1位のお前と、元学年2位の俺の
         逃避行の物語。

7/2/2025, 10:51:59 AM

君はクリスタルだ。
まだ誰にも見つかっていない。
磨かれていなくて不細工。でも磨けば誰よりも美しい。
だけどそれは僕だけが知っていればいい。
今日も大好きな君の為、一番に教室に来て机に花を置く。もちろんメッセージとともに。そうすれば君に近づく虫たちだっていなくなる。
教室の隅で1人。無造作に伸びた草のような前髪と、岩のように大きく分厚いメガネ。それらに隠れたクリスタルのような君。
少し寂しそう。だから僕が声をかけるんだ。「大丈夫?」って。
それだけでキラキラとした目を向ける。あぁ、君って本当に純粋無垢なんだね。
花瓶に生けられた一輪のシロユリ。机には君に向けられた暴力的な言葉。誰がしたかも知らずに。
まぁそれで君が僕を見てくれるならなんだっていい。

ずっと、僕だけのクリスタルでいてね。

7/1/2025, 1:57:17 PM

今日も夏の匂いがする。
私は夏の匂いが嫌いじゃなかった。切なくても、君との思い出の匂い。
ねぇ、君は今何をしているのかな?私と同じ思い出の匂いを嗅いで、いや思い出して、かな。もし君が私と同じなら少しだけ嬉しくなっちゃうんだ。
君も同じなら、私にとって毒になるこの匂いも少しだけ好きになれる。でも、君が私と同じこの匂いを思い出すことはないんだろうな。
この匂いをきっと君は知らないから。

君がつけた柑橘系の香水の匂い。変に爽快で鼻をスゥッと通る匂い。
君は香水がある部屋には私を入れようとしなかったね。香水をつけるようになってから、君は私と会うことも減ったよね。丁度このくらい暑い夏の日だったかな。
ねぇ、なんでまた泣いてるの?私は幸せだったよ?

色んなお洋服を着せてもらって、美味しいご飯をもらって、君と寝て、君がいない部屋で君を待つ。全部楽しくて幸せだったよ。ありがとう。
君が香水をつけたから私が最期を迎えたんじゃないよ。もう十分生きたんだよ。
私の言葉と君の言葉は違うけど、最期に伝えられたかな?

ニャアってさ。

6/30/2025, 12:23:01 PM

高校2年生の夏、彼女が言ったんだ。

___一緒に住むことになったら
カーテン一緒に選ぼうね!___

なんてあどけない声でさ。
気が早い、なんて思わなかった。だってあの時の俺たちは青い春を過ごしていたんだから。
でもどうしてカーテンなの?って彼女に聞いたんだ。
返ってきた答えは俺には良くわからないものだったよ。
彼女はカーテンをお守りだと言った。生活や自分達を守ってくれるお守りだと。だから2人で選んで自分達を守ってくれるようにと、いわゆる願掛けをしたかったらしい。
心の底から可愛いと思ったさ。俺が考えたこともない先の事を、俺がいる前提で話してくれる。
クシャッとした笑顔で、日にあたる黒髪を靡かせながら、透き通った白い肌を俺に寄せて話しかける。
そんな彼女が大好きだったんだ。

でも、彼女はある日突然旅立った。
高校の卒業式前日だったんだ。2人とも同じ大学に行く予定だったんだ。一緒に住もうって、言うはずだったんだ。
漫画とかでよくある死に方だった。見ず知らずの子供を庇って車に轢かれた。彼女らしいやって笑って見送ったよ。

なぁ、今日でお前が居なくなってから10年経つよ。
まだ言えてなかった事言ってもいいかな?今更だって笑われるかな?それでも、言わせて欲しかった。

「一緒に、カーテン選ぼう。」

あぁ、もっと早く言えてたら
      カーテンが君を、守ってくれたのかな。

6/30/2025, 9:26:12 AM

僕は今君に捕まってる。
青くてキレイな空間に閉じ込められて、息もできない。
「気持ち悪い」なんて言わないよ。だって心地いいから。これって相思相愛ってやつかなぁ?だとしたらとても嬉しいんだ。大好きな君とずっとこうしていられるなんて。
あれ?いつの間にか水が流れてきたのかな?大丈夫。そんな事しなくても君と僕は相思相愛。
どこにも逃げる気なんてないんだから。
次は赤い液体だ。君の愛の色かな?とっても情熱的で青に映えるね。暖かいや。
あ、次は電気を消しちゃったの?でもそんな事をしたらこの青が見えないじゃないか。キレイでたまらなく愛おしいこの青が。青くないコレなんてもう要らないんだよ。
あぁ!もう一つあるじゃないか!じゃあ次はそっちに行こうかな。
つまらなくなった眼玉は捨てて。
さあ、また僕と見つめ合おう? 

“速報です。○○県○○市で目のない遺体が見つかりました。今回の事件は1週間前に見つかった喉仏のない遺体との関連性が____”


『青く深くね』

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