宵風になりたい

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7/2/2025, 10:51:59 AM

君はクリスタルだ。
まだ誰にも見つかっていない。
磨かれていなくて不細工。でも磨けば誰よりも美しい。
だけどそれは僕だけが知っていればいい。
今日も大好きな君の為、一番に教室に来て机に花を置く。もちろんメッセージとともに。そうすれば君に近づく虫たちだっていなくなる。
教室の隅で1人。無造作に伸びた草のような前髪と、岩のように大きく分厚いメガネ。それらに隠れたクリスタルのような君。
少し寂しそう。だから僕が声をかけるんだ。「大丈夫?」って。
それだけでキラキラとした目を向ける。あぁ、君って本当に純粋無垢なんだね。
花瓶に生けられた一輪のシロユリ。机には君に向けられた暴力的な言葉。誰がしたかも知らずに。
まぁそれで君が僕を見てくれるならなんだっていい。

ずっと、僕だけのクリスタルでいてね。

7/1/2025, 1:57:17 PM

今日も夏の匂いがする。
私は夏の匂いが嫌いじゃなかった。切なくても、君との思い出の匂い。
ねぇ、君は今何をしているのかな?私と同じ思い出の匂いを嗅いで、いや思い出して、かな。もし君が私と同じなら少しだけ嬉しくなっちゃうんだ。
君も同じなら、私にとって毒になるこの匂いも少しだけ好きになれる。でも、君が私と同じこの匂いを思い出すことはないんだろうな。
この匂いをきっと君は知らないから。

君がつけた柑橘系の香水の匂い。変に爽快で鼻をスゥッと通る匂い。
君は香水がある部屋には私を入れようとしなかったね。香水をつけるようになってから、君は私と会うことも減ったよね。丁度このくらい暑い夏の日だったかな。
ねぇ、なんでまた泣いてるの?私は幸せだったよ?

色んなお洋服を着せてもらって、美味しいご飯をもらって、君と寝て、君がいない部屋で君を待つ。全部楽しくて幸せだったよ。ありがとう。
君が香水をつけたから私が最期を迎えたんじゃないよ。もう十分生きたんだよ。
私の言葉と君の言葉は違うけど、最期に伝えられたかな?

ニャアってさ。

6/30/2025, 12:23:01 PM

高校2年生の夏、彼女が言ったんだ。

___一緒に住むことになったら
カーテン一緒に選ぼうね!___

なんてあどけない声でさ。
気が早い、なんて思わなかった。だってあの時の俺たちは青い春を過ごしていたんだから。
でもどうしてカーテンなの?って彼女に聞いたんだ。
返ってきた答えは俺には良くわからないものだったよ。
彼女はカーテンをお守りだと言った。生活や自分達を守ってくれるお守りだと。だから2人で選んで自分達を守ってくれるようにと、いわゆる願掛けをしたかったらしい。
心の底から可愛いと思ったさ。俺が考えたこともない先の事を、俺がいる前提で話してくれる。
クシャッとした笑顔で、日にあたる黒髪を靡かせながら、透き通った白い肌を俺に寄せて話しかける。
そんな彼女が大好きだったんだ。

でも、彼女はある日突然旅立った。
高校の卒業式前日だったんだ。2人とも同じ大学に行く予定だったんだ。一緒に住もうって、言うはずだったんだ。
漫画とかでよくある死に方だった。見ず知らずの子供を庇って車に轢かれた。彼女らしいやって笑って見送ったよ。

なぁ、今日でお前が居なくなってから10年経つよ。
まだ言えてなかった事言ってもいいかな?今更だって笑われるかな?それでも、言わせて欲しかった。

「一緒に、カーテン選ぼう。」

あぁ、もっと早く言えてたら
      カーテンが君を、守ってくれたのかな。

6/30/2025, 9:26:12 AM

僕は今君に捕まってる。
青くてキレイな空間に閉じ込められて、息もできない。
「気持ち悪い」なんて言わないよ。だって心地いいから。これって相思相愛ってやつかなぁ?だとしたらとても嬉しいんだ。大好きな君とずっとこうしていられるなんて。
あれ?いつの間にか水が流れてきたのかな?大丈夫。そんな事しなくても君と僕は相思相愛。
どこにも逃げる気なんてないんだから。
次は赤い液体だ。君の愛の色かな?とっても情熱的で青に映えるね。暖かいや。
あ、次は電気を消しちゃったの?でもそんな事をしたらこの青が見えないじゃないか。キレイでたまらなく愛おしいこの青が。青くないコレなんてもう要らないんだよ。
あぁ!もう一つあるじゃないか!じゃあ次はそっちに行こうかな。
つまらなくなった眼玉は捨てて。
さあ、また僕と見つめ合おう? 

“速報です。○○県○○市で目のない遺体が見つかりました。今回の事件は1週間前に見つかった喉仏のない遺体との関連性が____”


『青く深くね』

6/28/2025, 4:01:30 PM

梅雨も明け本格的に夏に入りそうになっている今日この頃。私は好きな人の背中を見ながら授業を受けています。
もちろん集中していないわけではない。だが、席替えで好きな人の後ろの席を引いてしまったからには見ないわけにはいかないだろう。
テニス部に入って焼けた肌、セットをしていない少し硬そうな髪、気怠げに頬杖をついているその姿。どこを撮っても絵画に出来そうだ。なんて思っていれば授業が終わってしまったではないか。
まったく板書が出来ていない。あぁ。消さないでくれ。


何も板書が出来ないままホームルームまでも終わってしまった。どうするべきか。
「板書出来てないの?」
何も書いていないノートともう消されてしまった黒板を目で往復しながらシャーペンを握っていると、私の大好きな声が降ってきた。
「あ、ぇ、うん!そ、そうなんだ!」
焦って言葉が喉につっかえるが、なんとか返事をする。まるで私のコミュニケーション能力が無いみたいだが決してそうではない。
「ノート貸そうか?一応全部書いてあるから。」
夏にサンタなんて来るのか、と感動してしまった。
私にあなたのノートを?なんという贅沢だろう。だがこの機会、二度とは訪れないだろう。
食わぬ膳はなんとやら、そうであるならば食っておこう。
「いいの!?ありがとう!」
全然良いよ、なんて笑いながら彼は私にノートを手渡した。ノートには筆圧が濃くてメリハリのついたキレイな字が映し出されている。そんな尊い字を眺めて感激していると、彼は部活に行こうとしていた。
「あ、これ部活終わったら返しに行くね!」
なんて焦って大声を出す。だって、持ち帰るなんてそんなことしてしまえば麗しいノートが汚れてしまう。それだけは許されない。
「分かった。俺部活終わるの1時間後だから、このキーホルダーが付いてるバックの上に置いといて。」
青空のように綺麗な色をした、テニスラケットのキーホルダーを指さしながらそう告げると、彼は行ってしまった。
彼がいた教室にはシーブリーズの透き通った匂いが残っていた。


彼のノートを自分のノートに写終えた時、もう40分も経っていた。なぜそんなに時間がかかるのかって?それは彼のノートを拝んでいた時間があったからだ。
まぁそんな事はどうでも良いとして、早くノートを届けに行こう。
グラウンドまで出て、言われた通り彼のバックの上にノートを置く。もちろんそのまま帰るわけもなく、私は練習中の彼をフェンス越しに見ていた。日に照らされかいた汗を体操服で拭う彼はとても綺麗で、私の目に焼きついた。
プレーが上手くいった時に見せる笑顔や、監督の話を真剣に聞く姿を見ていると、あっという間に部活終了時間になっていた。まずいと思い、その場から離れようとするも、彼が帰ろうとバックに手をかけた時、バッチリ私と目が合った。
「待っててくれたの?部活終わるまで。」
彼が眩しい笑みを溢しながら私に話しかける。あぁ、本当にあなたはズルいな。私はどうしようもなくあなたが好きで仕方がない。
「う、うん。直接、お礼言おうかなって思って。」
咄嗟に出た言い訳がこんなに可愛らしいものだとは思わなかった。でも半分は本当のことなので良いだろう?
「そっか、ありがと。そういえば家の方向同じだよね?一緒に帰ろうよ。」
神様、私は今日が命日なのでしょうか。いえ、きっとそうなのですね。


帰り道。彼はわざわざ自転車を押しながら私と帰ってくれている。それなのになぜか無言だ。
「あのさ。」
先に沈黙を破ったのは彼だった。
「ど、どうしたの?」
急に話しかけられたのでまた吃る。
「間違ってたらごめん、授業中に俺のこと見てる?」
衝撃的な問いに私は一瞬固まる。バレた?後ろの席なのに何故?
「なんか後ろからすげぇ視線感じるんだよ。」
素敵な笑みが今だけ私に恐怖を覚えさせた。でも、バレたなら変にはぐらかさない方がいいだろう。
「ご、ごめんなさい。な、なんとなく、見てたの。」
夏だというのに私は震えて冷や汗をかいていた。嫌われたらどうしよう。私の頭はその考えで埋まっていた。
「あー!いやいや!なんて言うかさ、もし、見てるなら嬉しいなって思って。」
だんだんと小さくなっていく彼の声に反比例して、彼の頬や耳は赤く染まった。そして私の頬や耳も彼と比例して赤くなった。


そこからはまた無言が続いたがお互いにいっぱいいっぱいで話せなかった。
熱中症の頭が夏の訪れとともに私達の春を告げたのが、なんとなく分かってしまった。

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