Kiss 2/5 (月).
キス。唇を重ね合わせる行為。
恋人はおろか、友達すらいない私にとって、キスなど無縁に等しい行為なのだ。
私は愛に飢えている。理由があるわけじゃない。ただ愛が欲しいだけ。
1日だけのレンタル彼氏というのも気になったものの、
相手は仕事として私を見るわけだから、愛されてないと思いながらの生活になる。
…それは余計に悲しくなる。
私は鏡の前に立ち、鏡の自分にキスをした。
……
「…ばっかみたい…」
ただそこには、静寂と唇の冷たさが残るだけだった。
1000年先も 2/4 (日).
科学の話をしているテレビで見かけたこの言葉。
「いつかは地球は滅亡して〜…」
…そうなのかな わたしが生きてるときにも滅亡しちゃう日が来るのかな
怖いな、怖いな、地球さんは滅亡しちゃうのかな
『ねぇおかあさんっ、ちきゅーさんはいつかなくなっちゃうの???』
鼻のところがつん、と痛むのを感じる。涙を我慢してるから。
怖い時は隣にお母さんがいないと眠れないのだ。
お母さんは笑って答えた。
「はは、大丈夫だよ。今の時代には絶対地球はなくならないから!
ね、安心して。お母さんたちは、大丈夫だよ。」
お母さんはそんな顔をして私の頭を撫でる。違う!私がほしいのはその言葉じゃない!
『ちがう!わたしはいまをしんぱいしてるんじゃないの!これからさきの、1000年先
とかのはなしをしてるの!これからさきのひとはたいへんになっちゃうよ!
みらいのひとはたすけてあげられないの?』
私は自分が死ぬのが心配なんじゃなくて、未来の人が死ぬ事を危惧したのだ。
お母さんは驚いた顔をしたあと、笑ってこう答えた。
「まゆは優しいねえ…」
勿忘草 2/3 (土).
「私を忘れないで」…か。
植物図鑑を暇つぶしに読む。うちのクラスに常備されてる本は、漫画が3冊と、小説が
5冊、科学の実験のような本は2冊、そして図鑑が2冊。
先生が朝や休み時間に読んでみてください、と持ってきた本だ。しかも漫画は大流行りのやつで、すぐに取られてしまう。次に目を奪われるのはベストセラーの小説。
…が、人々はそれもとっていく。
残るは科学実験か図鑑。僕にとって科学は先生の授業垂れ流し映像くらいにしか
思ってないので、植物図鑑を読むことにした。
1ページ1ページ、ページをめくっていく。そして目に止まったのが「勿忘草」。
花言葉に目が釘付けになった。「私を忘れないで」。 なんだか儚げで、頭の中で
その単語がリピートされる。
ふと、肩に重さが乗っかる。人肌に温かさで、僕の肩がぽんっ、と置かれる。
「…ん、?」「俺だよ、前の席の。」「…そうなんだ。どうしたの?」
前の席の男の子のことすら、僕は気づかなかったみたいだ…
「何見てんのかな、っておもっただけだよー。」
「…植物図鑑。今勿忘草のとこ読んでる。」「…私を忘れないで…か」
僕が目に止まった部分を、彼は声に出して読む。そして、突然冷めた目で、
こう言った。
「俺のことは覚えててくれないくせにな」
「え」
そう言って彼は消えた。
ブランコ 2/1 (木).
「お隣、いいですか」
素朴というか、飾り気のないというか、暖かいというか。
そんな声で、ふと聞かれた質問に、適当に僕は答える。
「はい。」
はい、うん、わかった、おっけー。これは僕の口癖の数々であり、悪い癖である。
人になにかを聞かれるだとか、お願い、頼み事だとか。そんなことには大抵
こんな言葉を返すのが僕の癖で、大事を任されて徹夜をするのもしばしば。
その事を思い出し、はっとする。ふと隣を見やる。そこには、黒髪ミディアムの少女が
ブランコにゆらりと座っていた。
…なんだ、ただブランコの隣に座っていいか聞いただけか。
僕はほっとして、手の力をふわ、と抜く。そして、彼女の横顔にすこし見惚れた。
特別美人だとか可愛らしい顔立ちというわけではない。…失礼だが。小説などで
よくいる美しい女性はストレートな髪型だったりするが、この少女は毛先や前髪が
若干カールしていて、ふわふわ、と揺れている。恐らく先天的なくせ毛。
僕はその髪にも、きれいな瞳にも、不思議と惹きつけられる。
その少女は、僕に視線を合わせ、こう言った。
「ブランコって、素敵な魅力がありますよねえ」
「…そうですね」
そんな、適当な会話。それが、僕の心が穏やかに、緩やかに癒やされる。
僕は疲れているのかもしれない。僕は彼女と、にこにこと話をし続けていた。
……………
…よし。僕はペンを机に置き、小説を書き上げた。題名は、「ブランコ」である。
旅路の果てに 1/31 (水).
「人生」という、ものすごく、永く永く、果てのないような旅路がある。
人は、生まれながらにしてその旅路を歩くことを義務付けられるのである。
その旅路をどのように彩り、苦痛を乗り越え、どのような結末を望むのか。
それはその人にしかわからない。
その旅路の最後、いや、終点はどのようになっているのか。
それは私も、僕も、俺も、わからないのである。
そもそも、この旅路の終わりが幸せなのか。
苦しみに満ちた旅なのか。それすらもわかっていない。
それでも手探りで探し続ける。
旅路の果てに、自分の望む結末があることを信じて。